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薄明の空を君と見ながら。  作者: 佐野いさ
二章、二番大隊編
33/63

新たな火種

 帝都、軍部大臣邸宅にて。


「失礼いたします」


 菊が報告書片手に扉を開けると、そこには黒革のソファに寝転がって煎餅を食べている後藤がいた。


「うわっ、お前職務中だろ?」

「いいじゃん。お前なんだし」


 後藤は笑いながら心ばかりに姿勢を起こすと、菊に向き直った。


「で?今日はどうした?」

「どうしたじゃない報告書!」


 煎餅の袋を退けて、菊は机にドンと書類を置く。


「へー、香山とキュリー博士の娘がねえ」


 報告書の山の一番上にあった文面に後藤は声を上げる。


「結婚したらしいよ。香山次期当主の嫁探しは難航してたって聞くし、香山家も大喜びだそうだ」

「ふーん」


 注釈をつけた菊に後藤は興味なさそうに適当な相槌を打ち、また煎餅を食べ始めた。


「お前なあ」


 その様子に菊は苦笑する。


「香山大隊長たちにも言うの?結婚式はしない方がいいって」

「言うよ。ただでさえ世論が飛行魔族への対応を急かす中、機動力の要に抜けてもらっては困る。それは元文部大臣の香山の母親ならよくわかってるだろう」


 言いながら煎餅のぼりぼりという音を響かせる後藤に、菊は苦い顔をした。


 しかし、後藤は次の資料を見た途端ピタリとその場で静止する。


 そして煎餅を咀嚼するのをやめると、あからさまに表情を歪めた。


「あー、最悪」

「え?」


 それは一番大隊から提出された天邪鬼についての報告書。菊にはありふれた報告書にしか見えなかったが、その資料は、物事の趨勢を見極める後藤にとって喜ばしくないものだった。


「こういうことは先輩に聞くのが一番か…」


 数秒考えたように後藤はそうつぶやくと、身を預けるようにソファにもたれかかった。


「菊。今の時期ならあいつらも戻ってくるころだろう?」

「あいつら?」


 芳しくない表情を止め、後藤は菊に軍部大臣の顔つきに戻り命令を下した。


「三番大隊大隊長、佐々木鉄宏(てつひろ)を呼べ」


 それは新たな火種を予想した後藤の最初の一手であった。

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