結婚報告
翌日。一番大隊駐屯地に香山とキュリーが訪れた。
両腕を広げて泉はニコニコと二人を出迎える。
「おお!香山大隊長!キュリー…」
一番大隊の目線が、一斉にキュリーたちのもとに注がれる。
「え?あ、何です…?」
「キュリー、なのか?」
苗字が変わったのではないかと泉はおよび腰の香山たちに首を傾げる。
「はい。旧姓で仕事は続けますので、今後もキュリーとお呼びください」
旧姓、ということは苗字が変わったということだが、一番大隊にそれを理解できる人間は少ない。
滲が声を大にしてこう言った。
「それは喜ばしい。ご結婚おめでとうございます」
「え!そうなの!?おめでとう!」
「ああエイミー!キミまでボクを置いて行ってしまうとは!永久に幸あれ!」
拍手を送る泉と、賛辞を送る大路は、キュリーに思いつく限りの祝福を授ける。それがなかなか終わりそうになく、仕事も続かないので、滲は二人を背に、早々に用件を切り出す。
「で、どうされましたか?結婚のご報告…だけではないのでしょう?」
「はい。その件につきましては香山大隊長から提案が」
「提案?」
首を傾げた滲に、キュリーの後ろに隠れていた香山はひょいと顔を出す。
「あの、昨日有明さんが壊した料亭の件、宜しければ私が肩代わりしましょうか?」
「え!?」
願ってもない申し出に滲の目は輝きだす。
「よろしいんですか!?」
まさにその請求書を持っていた滲は手の中の紙を投げ飛ばした。
「は、はいっ!あの店は私の両親の知り合いの方の店ですし、なによりお二人には色々と相談に乗っていただいた恩もありますから、それくらいは…」
それくらいと言ってしまえる金銭感覚が羨ましいと思いながら、滲は香山にくるりと最高の笑顔を向ける。
「え?」
妻にも見せたことがないその笑顔に泉は少々固まった。
「ああっ!ありがとうございます香山大隊長!あなたは本当にいい人ですね!そのノブレスオブリージュの精神、感服いたします!うちの破壊神たちに爪の垢を煎じて飲んでいただきたいほどです!」
敢えて一番大隊が絶対に理解できない言葉を使い、滲は香山の手を握る。
「え、なんだ?のぶ?つめ?」
案の定全く理解できていない泉たちは首を傾げるのであった。
困惑している香山をよそに、滲は鼻歌を歌っている。
あれ?そういえば…。
感極まっている滲をよそに、泉は少し暗い顔でキュリーに尋ねた。
「なあ、滲は悪魔を倒したときどうだった?」
「?」
唐突な質問にキュリーは意図が分からないと瞬きを数回繰り返す。
しかし特に何と言うこともなかったので、キュリーはありのままを口にした。
「はい。作戦立案から実行までの速やかさ、指揮能力の高さ、仲間からの信頼。私も同じ副隊長の立場ながら、学ばされることが多いと感じました」
キュリーの目は至って真剣である。本当に学ぶべきところの多い副隊長として映っているようだった。
逃げたりは、してないのか…。
泉はもやもやとした息をそっと吐きだす。
以前我を忘れるほど追いかけた魔族の時とは違うらしい。
やっぱり、あの鬼だけなんだろうか?
雪の季節が近づくころ、泉はぼんやりとした不安を抱えたままちょこんと席に着くのだった。




