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薄明の空を君と見ながら。  作者: 佐野いさ
二章、二番大隊編
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悪魔退治 ー滲、キュリー、榎本、大路ー

 泉が悪魔を倒した同時刻。滲、榎本、大路、キュリーは上空の悪魔の目をかいくぐり、竹藪に身を潜めていた。

 他の隊員たちに悪魔をこの場にとどめることを命じ、副、中隊長の四人は作戦会議をする。


「まず問題なのはうちの主力攻撃の二人がいないこと。それから悪魔が依り代持ちということです」

「その依り代持ちってなんだよ?」


 疑問を呈した榎本に、滲の代わりにキュリーが答える。


「依り代持ちとは元々肉体を持たない魂だけの存在である悪魔が、契約により、この世に顕現するときに使われる言葉です」

「え?んだそれ?」

「ええ。そしてその依り代は契約主によって大いに縛られますが…気質の似た魔族と契約しましたね。言動から察するに気性が荒く、かなり好戦的な悪魔のようです。これでは無条件で世に放たれたのと同じ。厄介ですよ」

「おい無視すんなよ」


 長文の説明を理解できない榎本は二人の狭間で右往左往する。

 しかしそんな榎本と同じく理解できていない大路は高らかに声を上げた。


「で!どうすればいいんだい?」

「単純なこと。元は魂だけの存在を倒しても、依り代は所詮無機物。復活することはありません。ゆえにその体を“ぶっ壊せ”ばいいんですよ」


 右から左に流れていた言葉を、大路と榎本は最後の指示だけ聞きとる。


「「なるほど~!」」


 納得した二人を見届けた滲はキュリーに向き直った。


「キュリー副隊長、あなたの得意は何ですか?」

「ワタシは前線攻撃を得意とします。悪魔退治においては母国でも経験があり、奴を倒すだけの力は持ち合わせているはずです。しかし」


 キュリーは渋い顔をする。


「それはあくまで地上に落としてからの話です」

「なに?急に駄洒落言った?」

「黙ってなさい榎本。つまり何とか地上戦に持ち込まなければいけないということですね?」

「その通りです」


 滲の問いにキュリーは深く頷く。


「困りましたね。ここには対魔飛行装置を使える香山大隊長も有明大隊長もいません。なおかつ雨が降っていないことを考えるに天邪鬼からは遠く離れています。今すぐ増援は望み薄でしょう…」

「え?あんた前装置使えてなかった?」


 数日前の演習時、装置を使ってスイスイ飛んできたキュリーを榎本は思い出す。

 しかしキュリーは首を振った。


「ワタシは五センチしか浮けません。それ以上浮くと上下回転し始めます」


 平然と言ってのけたキュリーに皆が固まる。


 ボクもだ…。オレもだわ…。私もです…。


 皆の残念な共感を得たところで、大路が前向きに話を切り替える。


「大丈夫さ!ボクらなら何とかなるだろう!」


 だがその言葉に頷いたのは滲だった。


「さすがは我らが大路中隊長。その通り。何とかするしかないんです」


 そして滲は秘策があるように口の端を上げる。


「少々危険な賭けになるかもしれません。それでも、ついてきていただけますか?」


 滲は三人の顔を見据える。

 三人が頷くと、滲は指示を出し始めた。


「まずは大路中隊長、とにかく目立ち、ある一言で悪魔の注意を引いてください」

「ボクにぴったりの役じゃないか!?任せておくれよ!」


「榎本、ぎりぎりまでキュリー副隊長を隠してください。その振袖では目立ちますから。できれば援護射撃もお願いします」

「え!?オレの武器濡れて使えるかどうかわかんねえんだけど…」

「その件はキュリー副隊長に聞いてください。あなたの銃剣はフランソワーズ発祥のものでしょう?」

「え、そうなの!?」


「キュリー副隊長、あなたは地上に落ちた悪魔を即座に退治してください。できますか?」

「はい。しかし落とすとはどうやって…」


 キュリーの言葉に滲は顔を上げる。

 滲の表情は、それはもう恍惚に、グッと引き込まれるほど無邪気に目を細めていた。


「見せてあげます。翼が無くても、人は飛べるということを」


 滲は大路とともに悪魔の下へ走る。

 そして榎本は自らの奇抜な濡れたマントに笹の葉をつけ、即席迷彩としてキュリーを隠す。


「榎本中隊長!井上副隊長は何をお考えなのでしょう!?」

「は?知らねえよ」

「知らないって…。占いでわかるわけではないのですか!」

「はあ!?なんの話!?」


 泉の虚言をいまだ信じているキュリーは目を丸くする。しかしそんなキュリーに榎本は訳も分からず指示を仰いだ。


「あいつのことだからなんかあんだろ。それよりオレの銃剣は使えるのか使えないのか教えろ!」


 榎本の口ぶりはまるで滲を信じ切っているようだった。作戦を部下に詳細に伝えてから実行する二番大隊との違いにキュリーは驚きを隠せない。

 だが同時に、それでも成り立っている一番大隊をキュリーはすごいと思った。


「銃剣はすぐに乾かせば雨の影響を受けることはありません!存分に射撃可能です!」

「了解!」


 榎本は即席迷彩の中から弾丸を放つ。

 しかし悪魔の翼は大きい。銃系統を持つ他隊員たちも翼を狙うが、小さな穴が開いた程度では高度が下がらない。


 そんな時。


「切る!」


 どこからか大路の叫び声が竹藪に響いた。


 普段から目立ちまくっている大路は悪魔にすらすぐに見つけられる。

 少し開けた獣道でよく通る声の決め顔をしている大路は、まさに最強の囮だった。


「切る!」


 目線を向けた悪魔に大路は滲に指示された言葉で畳みかける。

 すると悪魔は何か言葉を発し笑うと、まるで挑発に乗ったかのように大路に向かって翼をはためかせた。


「うおおお!追ってきたああああ!」


 大路は「切る」と連呼しながら竹藪を駆け抜ける。

 滲は「切る」という言葉が、エゲレス語のかなり良くない意味の発音に酷似していることを伝えていなかった。


 そんな中で、他隊員も大路を追う悪魔を追撃する。


 そして。


「ふふ、良い眺めですねえ。何年ぶりでしょう」


 大路に夢中になっていた悪魔に、息をひそめていた滲は背後を取った。

 竹に登り、打刀も捨て、軍用手袋も靴もなく裸足で笑うその声は、大路の腹からの「切る」の声にかき消されていく。

 しかし、それが滲には心地よかった。


 悪魔が振り向いた瞬間、滲は竹のしなりを利用してどこか慣れた手つきで飛び立つ。

 そしてあろうことか滲は悪魔の翼を折るでもなく、迷うことなく悪魔の片足をつかんだ。


『~~!』


 予想外のことに悪魔は動揺を見せる。

 そして滲に引きずられるように、急にズルズルと高度を落とし始めた。


「おいおいマジかよ!」


 悪魔が滲を振り落とそうと魔法陣を繰り出す手を、榎本は撃ち抜く。


 翼で飛ぶ以上、それ以外の飛行魔術を持っている可能性は極めて低い。さらに有翼魔族は鳥と同じく、空を飛ぶために体の構造は見た目以上に軽い。ゆえにそれを熟知した滲は、自分の体重をかけて、悪魔を地に叩き落としたのだった。


 ドサリと音を立てて榎本たちの前に墜落した悪魔をキュリーは逃さない。


 目を開き、自身の鞘から鈍く光るナイトリーソードを引き抜くと、その振袖をはためかせ、駿馬の如き俊足で悪魔の体を切り裂いた。


『~~~~~~ッ!』


 一瞬の断末魔とともに、悪魔の体が瓦解していく。

 やがて漆黒の体は脆くも灰のように崩れ去り、消えてなくなった。


「やったね皆!」


 高らかに大路が隊員たちに勝鬨を上げる。盛り上がる一同に榎本もほっと息を吐いた。


 しかし。


「まだ終わっていませんよ」


 地に伏した状態から起き上がった滲は素早く打刀を取り、遥か先の暗雲を見据える。


「我々も向かいましょう。きっと香山大隊長たちもそこにいます」


 キュリーの一言に、喜びも束の間、皆はまた真剣な顔つきに戻る。そして隊員たちは一斉に竹藪から駆け出したのだった。

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