悪魔退治 ー泉と宇野ー
「うわあああああああ!」
体の軽い泉は竜巻に煽られ、あらぬ方向へと飛んでいく。その首根っこを体の大きな宇野は思い切り引き寄せた。
「げふっ」
泉が無様に着地すると、そこは街を見下ろせる山の上だった。
「大丈夫!?大隊長!?」
土に顔面が突き刺さっている泉を宇野は心配する。
「ぷへっ…!よし、大丈夫だ!」
顔を上げ、プルプルと頭を振り土を払うと、泉は宇野に向き直りあたりを見回した。
天邪鬼から距離が離れたからか、雨は降っていない。しかし未地区上空を一体の悪魔が飛んでいる。どうやら泉たちは元居た場所に逆戻りしたようだった。
『~~~~~~~』
聞き取れぬ言語を叫び、悪魔は街の上で笑っている。
このままでは街が危ない。
が、しかし。泉たちにはさらに良くないことが起こっていた。
「あ、マズい…」
見上げた先の数人の隊員たちの顔ぶれに泉は思わず声を漏らす。
宇野も同じことを思っていたらしく、表情が芳しくない。
「マズいね。あいつらだけじゃ決定打にならない…。どうするよ?」
泉たちが懸念したのはここに滲、榎本、大路がいないことではない。むしろその逆である。ここに泉と宇野が揃ってしまったことだった。
最強と謳われる一番大隊の中では、それぞれの得意を活かした明確な役割分担が存在する。
大路が敵の情報を集め矢面に立ち、榎本がそれを踏まえたうえでの奇襲、攪乱を担う。さらにそこから指揮を執るのは作戦立案の滲の役割である。
しかし肝心の魔族を倒す決定打はいつも泉と宇野が担っていた。
決定打のない中隊がどうなるか、泉たち二人は身をもって知っている。
だが焦りを覚えた宇野に、泉は迷いなき瞳でこう言った。
「簡単なこと。奴を倒し、他中隊を助けに行く!」
決意の瞳で泉は悪魔を見据え、再び浮遊する。
「この場にいる隊員を臨時で宇野中隊とする!私が悪魔を気絶させたら即座に他中隊の下へ走れ!」
その姿は、歳の十二離れた宇野でさえ驚嘆するほど、頼もしい大隊長の姿だった。
大隊長の号令に宇野は火をつけられたように跪く。
「大隊長、副隊長から伝言です!“悪魔の体をぶっ壊せ”と!」
「え!?どういうこと!?」
復活してしまうから倒すことを避けようとした泉に、宇野は不敵に笑った。
「よくわかんないけどあんたの旦那が言った言葉です。信じていいでしょう!」
副隊長の言葉に絶大な信頼を寄せる宇野は泉を後押しする。その言葉に泉は深く頷いた。
「いいだろう!それなら話は早い!宇野、攻撃力が必要だ!お前の力を借りたい!私を奴まで投げ飛ばせ!」
「了解ッ!」
宇野は浮遊した泉の足をつかむ。
そしてその場で大きく回転すると、足が地面にめり込むほど強く泉を投げ飛ばした。
宇野の剛腕と、装置の力で泉は加速する。
隊の中でも一二を争うほど頭の弱い二人は、己が経験の蓄積による感覚のみで、遠心力と推力を掛け合わせた。
「どりゃああああああ!」
加速した泉は一気に街上空の悪魔に距離を縮め、短刀を構える。
そしてその速さによけきれず、悪魔の体は泉に貫かれた。
『~~~~~~ッ』
聞き取れぬ断末魔とともに、悪魔の体が瓦解していく。
未知の魔族に泉は、攻撃の暇さえ与えず一撃で悪魔を仕留めたのである。
やがて漆黒の体は脆くも灰のように崩れ去り、消えてなくなった。
泉はすぐさま方向を変える。
走り出した宇野中隊とともに、泉は他中隊のいるところを目指した。




