悪魔召喚
歴史と格式を感じさせる内装、雅な料理と店の雰囲気。
あれ?ここって…。
見覚えのある店内に、屋根を突き破った泉はきょろきょろとあたりを見回す。
客たちの悲鳴が上がる中、泉はある人物たちと目が合った。
「あ、有明さん!?」
珊瑚の死骸のような存在感を放つ男と、西洋人形のような金髪碧眼の美女は突然降ってきた雨と鬼に驚いていた。
「あ!香山大隊長!キュリー副隊長!なんで?」
「なんでって、見合いですけど…それ」
香山が指さしたのは泉の下でもがいている雑面の鬼。
「ああ!こいつな!今倒すからちょっと待…」
ドンッ!
物凄い音とともに泉の体が壁へと打ち付けられる。
「有明さん!」
目を剥いた香山はすぐに視線を雑面の鬼へと向ける。
鬼は自らの上に竜巻を起こし、泉を吹き飛ばしたようだった。
「貴方、随分と…!」
静かに、それでも確かに語気を強めた香山の目は鋭くなる。
キュリーに介抱された泉も、打ち付けた背をさすりながら鬼へと向き直る。
その三人を雑面の鬼は『ケタケタ』と笑った。
『ホう、仲間か?増えたノか?それならこちラも増やしてミよう』
鬼は屋根に空いた穴からおどけたように上空へ飛行すると、その両脇に魔法陣を出現させた。
その場にいたキュリーと、泉たちを追って料亭に着いた滲は魔法陣に描かれた模様に目を疑った。
「逆…五芒星…」
「マズいですッ!全中隊あれを阻止しなさい!でないと…」
滲が大声で指示を出すも虚しく、魔法陣から二体の黒い影が現れる。
黒山羊の頭、蝙蝠のような大きな翼。聞き慣れぬ言語で笑う漆黒の体躯は、とてもハナヤマトの魔族のものとは思えなかった。
「何あれ!?どこ産!?」
その見慣れぬ容姿に宇野は驚愕の声を上げる。
滲は平屋の屋根で、雨に打たれながら空を睨んだ。
「あれは悪魔。しかもあのイントネーション、エゲレス国のものでしょうか?」
「なんだそれ?!どうやって倒すんだよ!?つーかお前何言語しゃべれんの!?」
「そんなこと今どうでもいいでしょう!?問題はあれが“依り代持ち”ということです!」
声を上げた榎本を滲は一喝する。そして中心にいる鬼に刀を抜いた。
「え?何?依り代…?」
言葉の意味がわからなかった宇野は滲に答えを求めようとする。
しかしその直後、滲たちの体がふわりと宙に浮いた。
「!?」
その光景に隊員全員が驚愕する。
『サテ、暴レ楽しもウゾ』
それは雑面の鬼、天邪鬼が起こした竜巻のようで、隊員たちは三つの竜巻により空へと舞い上げられる。
「うわああああああああ!」
泉、キュリーが巻き込まれ、屋根にいた宇野たちも飲み込まれそうになったその瞬間、滲は宇野にある伝言を残した。
「宇野!大隊長に伝えてください!“悪魔の体をぶっ壊せ”と…!」
「おい!」
滲の体は宇野とは別の竜巻に飲み込まれていく。
手を伸ばした宇野も次の瞬間には成す術なく空へと舞い上げられた。
『いやア、愉快愉快』
ケタケタと笑う天邪鬼は、雑面の下で、放し飼いにした悪魔たちの背を見送る。
隊員たち全員は、竜巻によって散り散りに吹き飛ばされてしまった。




