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薄明の空を君と見ながら。  作者: 佐野いさ
二章、二番大隊編
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襲来、嵐の夜の飛行魔族

 数日後。


「皆!今日はボクのために集まってくれてありがとう!…それでは聞いてください。『夜勤で君と踊り隊』!」

「「きゃー!」」


 レンガ造りの駐屯地に黄色い歓声が響き渡る。


 今日の一番大隊は夜勤である。


 思いのほか書類仕事が早く終わったため、一番大隊は他大隊がいないことをいいことに、好き放題暴れていた。それを滲は別に咎めない。じっとしておけと言うほうが無理な話だということを十分に理解している。


 今一番大隊では、大路の即興歌謡祭と、いらなくなった紙を壁に敷き詰め、大絵を描いている榎本の芸術会と、出前の夕飯を食べている宇野、滲の食事会、泉と日傘を回す会が同時開催されていた。


 滲は南京そば(ラーメン)をすすりながら呆然と泉を眺めている。


 日傘を回す会は既に、可愛らしい傘の上に湯呑や茶碗をのせ、大道芸の傘回しの会へと早変わりしていた。


「おおすごいな!これで今年の忘年会は盛り上がること間違いなしだ!」


 大路の美声が響く中、流行の可憐な傘が宴会芸に使われようとしていることを滲は嘆かわしく思った。


 そんな滲の肩を榎本は叩く。


「見ろよ。三徹目のお前の顔」


 でかでかと描かれた壁の絵を榎本はしたり顔で指さす。

 滲はとりあえず絶対に敵わないが、榎本を殴りたくなった。


「やめてください。私自分の顔大嫌いなんですから」

「え?そうなの?」

「うおー!めっちゃ似てるじゃん!」


 ラーメンの箸を置いた宇野は不機嫌顔の肖像画に大袈裟に拍手を送る。

 滲はもう、壁の絵と同等の不機嫌顔で宇野を睨みつけた。

 その視線に気づき宇野は焦ったのか「そ、そう言えばさ~」と明後日の方向を向いて話と視線を逸らす。


「今日って二番大隊の香山大隊長とキュリー副隊長のお見合いらしいよ?」

「え?そうなんですか?」

「マジ?誰から聞いたんだよ」

「大路中隊長」

「「あ~」」


 宇野の情報元に深く納得した二人は思わず声を重ねた。




 その頃、帝都料亭。香山は雲行きが怪しくなってきた夜空の下、ガチガチに緊張し冷や汗を流していた。


『それでだね。見ておくれ!この美しい流線形!これはいずれ音速を超えるであろう君のために改良を加えてね…』

『は、はあ…』


 今、香山は肝心のお見合い相手とは話さず、なぜかキュリーの隣に座っているキュリーの父と話している始末であった。


『どうだい?素晴らしいだろう?まだ調整中で不完全だが、つけてみてはくれないか?』

『え?ええあ、はい…』


 陽気なキュリー父は、自身が発明した新型の対魔飛行装置を自慢したくて仕方がないらしい。

 香山は抵抗することなくキュリーの父に言われるがまま相槌を打つ。


『君といると話が弾む!今からうちの家族になるのが楽しみだよ!』


 話下手だから聞き役に回っていただけなのに、香山はキュリー父に都合のいい解釈をされる。

 新型装置をつけた足が震えている香山は、後を濁さずフラれることがどんどん難しくなっている状態に顔が真っ青だった。




 同時刻。香山の見合いを思い出し、どんちゃん騒ぎの繰り広げていた一番大隊では、榎本が不思議そうに首を傾げた。


「なあ、大隊長どうした?」

「え?どう、とは?」

「ん」


 何を言われているのかわからないという滲に、榎本は一枚の紙を取り出す。

 そこに絵具で描かれていたのは、名前を出さずともわかる特徴的な小さな左手と、そのうちの一本の指に筆で堂々と二つの関節を隔てて書かれた「くすり」の文字だった。

 思わず滲は日傘を回す泉に視線を戻した。


「何?お前の嫁病気かなんかなの?」


 滲は気まずく黙ったままだった。

 そんな時に宇野がラーメンをすすりながら答える。


「あー、あれさっき隊の奴らに聞きまわってたよ?くすり指どこって。なんか覚えないといけないらしくって、忘れないように直書きしたんだって」

「なんだそれ?くすり指って何?」

「さあ?」


 指など五人家族だけ覚えておけば十分の一番大隊は、たとえ既婚者でも薬指がわからないという事態が多発していた。

 滲はもう言葉が出ずにいた。


 その時。


「急報!」


 廊下から来た伝令の言葉に皆の顔つきが変わる。


「魔族襲来。ひつじ地区麓の街が襲われました」

「何!?」


 泉は茶碗の乗った傘を器用に静止する。


「数は?」

「負傷者数名、敵は一体の飛行魔族です」

「なに!?これの出番か!?」


 まさか傘で空が飛べると思っているのか、泉は咄嗟に頼もしく手元を見る。


「だからそれ使い方違います大隊長。こっちの出番です!」


 ラーメンをすすり終えた滲が指さしたのは、机に乱雑に置かれた泉の対魔飛行装置だった。


 泉は急いで両足に装置をつける。


 駐屯地から外に出て、星夜の下、泉は目を閉じ力込めて、ふわりと浮遊する。そして目をカッと見開いた。


「よし諸君!出動だ!」

「「「「了解」」」」


 隼の如き速さで未地区を目指す泉の足元を、すぐさま一番大隊は武器を携え駆け抜ける。


 そしてしばらくして、早くも未地区が目前に迫ったとき。


「うわあああ!なんだあれ!?」


 空を飛んでいた泉は声を上げる。

 泉たちの目の前には、晴夜からかけ離れた、まるで台風の如くうねる暗雲が未地区一帯を覆っていた。


「魔族の影響でしょう。現在街は大雨です!」

「マジかよ!?オレ不利なやつだ…」


 伝令の言葉に銃剣を携えた榎本は不平不満を漏らす。


「飛行魔族、そして戦闘は市街地ですか…」

「あ、嘘?おれらもダメなやつ?」


 並走していた滲のつぶやきに宇野も声を上げる。

 大型の武器を使用する宇野中隊は市街戦には向かない。


 なるほど。


 それを踏まえて泉は空から指示を出す。


「大路中隊!先に行って敵を引きつけろ!住人に被害を出させるな!」

「任せて大隊長!」

「他中隊は避難誘導だ!完了次第大路中隊と合流!一人も取り残すな!」

「「「「了解」」」」


 足元の隊員たちは泉の指示に即座に散開していく。

 同じく飛び立とうとした泉を滲は呼び止めた。


「大隊長!」

「なんだ?」

「敵を山に追い込めますか?」


 未地区一帯は連なる山々を背にした平野である。ゆえに山まで追い込めば人はいない。


「了解した!任せろ!」


 指示を受けた泉は勢いよく飛び立つ。そして麓の街の大雨の中へ突入した。

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