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にらめっこ
有明家、屋敷。
夕日も沈むころ、あれから滲は泉を家まで引っ張って来た。
あれだけ愛おしそうに見つめていた夕暮れの向かいの空も拒絶するように、滲は部屋の障子やふすまを全て閉めていた。
「滲…?」
そんな滲の隣で泉は心配したように声をかける。
「ああ、夕飯ですね…。今作ります」
ゆらりと台所へ向かう滲の声には活気がない。泉とも目を合わせない。
触れれば音を立てて崩れる乾いた枯れ葉のような荒んだ目に、そこまでお腹の空いていなかった泉は何も言えなかった。
しばらくすると食卓にいつもと変わらぬ温かさの食事が出てくる。
魚料理であるが、泉が骨を綺麗に取れないことを見越して、皿の上の魚は身だけとなっていた。
「いただきます…」
重たい空気に泉の声まで小さくなる。
そして滲も無言で手を合わせると、魚を口に運び始めた。
「ふわ!うまいな!」
泉は重苦しかった空気も忘れてニコニコと白身を頬張る。お腹が空いていなかったはずなのに、空腹時と同じように普通に食べ始めた。
その泉の変わらない様子に、滲の口元はわずかに緩む。
「ふわ…!」
笑った!と泉は思い、滲ににぱっと笑顔を返す。
「ふふふ」
「ふへへ」
笑顔のにらめっこをしあった二人は可笑しそうに声を上げて笑い出す。
沈み切った家の空気は、ゆっくりと解れていくのだった。




