デートはつづく 二軒目
二軒目に泉は布団屋に足を止めた。
「なぜ?」と首を傾げた滲に泉は本気で驚いた。
「なぜって、お前掛け布団なしで寝てるだろ!?」
この寒くなってきた秋の終わりの季節、滲は掛け布団どころか敷布団すら無くぺらっぺらの麻布の上で寝ていた。
謎に滲は寒さに耐性があるのか音一つ上げないが、泉はいつ凍えてしまうか気が気ではなかった。
だが滲は至って真面目に「大丈夫ですよ」と言って次の店に行こうとする。
「いや待て」
泉は腰を落とし、滲の腕を引き寄せる。足を止められた滲は体勢を崩し、そのまま後ろにつんのめった。
「うわっ…!」
本気を出せば滲など一撃で仕留められる泉にはこんなこと造作もない。
身長の低い泉は自分の目線まで来た滲に面と向かってこう言った。
「あのままじゃ風邪ひくぞ。そしたら私、悲しいぞ」
心の底から心配だと泉は滲の手を握る。
そんな泉に、滲は言葉を詰まらせた。
「ごめん、なさい…」
滲としては本当になんとも思っていないことだったようで、意外そうな顔をしている。
店の中に入ってみると、滲は初めて見たと言わんばかりに布団だらけの店内を奇妙そうに見回していた。
「おばあちゃん、布団ちょーだい!」
「はいよ」
これくらいの、と全身を使い大きく両手を広げている泉に、白髪交じりの店主は無愛想に返事をする。
「別に麻布でもいいんですけどね」とまだぼやいている滲をよそに、店主はよっこいせと布団を持ってきた。
「はい、これが二人用の布団ね。早く銭を出しな」
目の前に差し出されたのは夫婦で眠る用の大きな一枚の布団だった。
てっきり滲一人用のものを持ってくると思っていた泉は、店主の言葉に顔が赤くなる。
しかし滲はその言葉に底意地悪く笑っている。
「ほう。確かにそれなら僕は麻布よりそっちがいいですね」
「まっ、待て!一人用だ!一人用!買うのは滲のだけだっ!」
「なんだい。それならそうと早く言っとくれ」
ぶっきらぼうな店主は赤面した泉に「文無しが」と悪態をつくと、またよっこらせと一人用の布団を持って来た。
「ところで嬢ちゃん、あんた家までこれを運ぶ気かい?」
店主の言葉に泉は固まる。
大人の男の、しかも羽毛布団は畳んだとしても大いにかさばる。別に重さだけなら泉たちには何の問題もないが、今はデート中。さすがにこの大荷物を持って街を歩きたくはない。
泉がうんうんと唸っていると、商売上手の店主は耳寄りだと言わんばかりに、声を抑えてこう言った。
「実はね、最近うちでは宅配を始めてね。費用さえ払ってくれれば家まで届けてあげるよ?」
「本当か!?ぜひ頼むぞ!」
「まいど」
口の上手い守銭奴に泉はまんまと乗せられる。
あっさり掌の上となった泉を見て、滲は少々の不安を覚えた。
かくして、泉は滲に心配されながらも布団を家に輸送させることに成功したのである。




