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薄明の空を君と見ながら。  作者: 佐野いさ
二章、二番大隊編
19/64

デートは和む 一軒目

 帝都、駅前大通り沿い繁華街。


 平日ということで人は少ないが、それでも泉のいた田舎町とは比べ物にならないほどの賑わいだ。


 入ったことない店の、見たことのない商品に泉はいちいち立ち止まっていて大通りを進めないでいる。

 そんな泉を滲は急かすことなくニコニコと楽しそうに見守っていた。


「入ってみますか?」

「いいのか!?」


 泉は目をきらきらさせている。


「いいんです。好きな人と好きなところに行く。それがデートですから」

「ほほう!」


 肩をうきうきと弾ませ、泉は気になった店の中へと入っていく。


 最初は小さな老舗の和菓子屋。流行を取り入れた透き通る琥珀糖を使った季節の紅葉形の和菓子に、泉は高級なガラスのケースにぴったり頬をくっつけ目を奪われる。


「お嬢ちゃん、やめてくんない?」

「すみません。なにぶんこういうところ初めてらしくて…」


 他のお客さんが奇異的な目で泉を見ていることを察し、滲は店主に頭を下げる。

 くっつけた顔を剥がした泉は困り顔の店主に向き直った。


「これ、すごいな…!」


 繊細な技術の詰め込まれたショーケースの中の芸術品に泉は感嘆の声を漏らす。その様子があまりにも無邪気で他意のない真っ直ぐなものだったからか、店主は八の字に下げていた眉を柔和な笑みへと変えた。


「そうだろお嬢ちゃん!うちの自慢の菓子たちだ。どれか好きなの買っていきな!今買ってくれたら一個おまけしてやるぜ?」

「ほんとか!?ちょっと待て。今選んでるからちょっと待てよ」

「がっはっは!」


 豪快な笑い声の主からは想像もできないほど繊細な美しさを誇る和菓子たちは泉の選ぶ手を悩ませる。

 その後ろで、一瞬で店主と打ち解けた泉の様子に、滲は驚いていた。


「そっちの兄ちゃんはお嬢ちゃんの連れかい?」

「そうだぞ。うちの旦那だ!」

「そりゃいいや!夫婦で買っていってくれよ!」

「いえ、僕は結構です」


 棒立ちだった滲は冷ややかに言い返す。


「買ってけよ~!」

「大丈夫だおじちゃん!おまけを滲に食べさせるから!きっと気に入ったらまた来るぞ!」

「本当かい?!」

「本当だ!」


 泉は店主と元気なやり取りを繰り広げながら、ショーケースの中を見回す。店主は棒立ちの兄ちゃんのお気に召しそうなおまけを探すのに必死だった。

 初対面であるはずの泉と店主の息ぴったりなやり取りに、滲は一人唖然としている。


 やがて欲しいものが決まったのか泉はショーケースの中身の一つを指さす。店主も滲に渡す自信作が決めたのか、意気揚々と二つの和菓子を袋詰めにする。


「毎度あり!」

「ありがとおじちゃん!」

「応よ!」


 お金の計算ができない泉に代わり滲が会計を済ませる。

 店を出てからも手を振り続ける泉と店主を滲は無言で呆然と見つめていた。


「ん?どうした?」

「いえ…。人間ってあんなに早く打ち解けれるものなんだなと思いまして…」

「そうか?普通だと思うぞ?」


 小さいころから人の懐に入るのが上手い泉は平然と答える。

 それよりも今は腕に抱きかかえた和菓子のことで頭がいっぱいだった。


「ふふ、家に帰ったら食べましょうね」

「ああ!やっぱりこういうところはいいなあ!一回来てみたかったし、人がいっぱいで楽し…」


 嬉しそうに返事をしようとした泉は滲の目を見て言葉を止めた。


 滲の目は右往左往とあたりを落ち着きなく見渡している。まるで何かに怯え、ずっと警戒しているように。


 泉は香山の言葉を思い出す。


『群れをはぐれた渡り鳥、天敵の檻に放り込まれた雛』


 震えている滲が泉の中で想像される。


 もしかしたら滲は、自分が怖いにも関わらず、泉のために我慢してここに連れてきてくれたのかもしれない。


 そんなことを思うと、泉は無意識に滲の手をぎゅっとつかんだ。


「泉さん?」


 動揺した滲に泉はこうつぶやく。


「こ、怖いのなら私だけを見ておくといい!私だけを!」


 泉はなんだか気恥ずかしくなってぶっきらぼうな口調になってしまう。

 しかし滲は目を大きく見開き、少し迷ったように左右に瞳を動かした後、何が怖いかも語らず、ただ泉にそっと「はい」とだけつぶやいた。


 そして泉はそのまま滲を先導しながら街を歩き続けるのだった。

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