審美眼と鉢合わせ
ハナヤマト帝國魔族討伐部隊演習場の片隅。
大隊長、副隊長級の者しか入ることを許されない簡易施設。
訓練を終えた泉たちは対魔飛行装置を外し、香山に縋りつかれていた。
「どうしましょう~!私キュリーさんをあんな顎で使うような真似をしてしまって~!」
香山は地べたに座り込んでしくしくと自己嫌悪に陥っている。
滲は泉に背をさすられている香山を「どこがいいんだろう?」と蔑んだ目で見ていた。
キュリーが頬を赤らめたことから察するに、彼女は香山に好感を抱いている。しかし滲は、目の前の怯える男のどこに惚れる要素があるのか理解できなかった。
その視線に気づいたのか、香山はふと滲に視線を上げる。
「あの、大丈夫ですか?」
「はい?」
顔を上げた香山は滲に心配そうな目を向ける。
唐突な質問に驚きはしたが、滲は笑顔を作りなおした。
「ああ、先程の六番大隊とのことですか?大丈夫です。ご心配をおかけし…」
「違います」
「え?」
表情を崩した滲に香山は立ち上がった。
「何をそんなに怖がっているのですか?」
「は?…ッ!」
首を傾げた滲の腕を香山は掴む。香山の目は息をのむほどに深い。滲は香山に総毛だった。
「貴方はずっと震えている。会った時からずっと。何をそんなに怖がっているのですか?もしかして私が怖いのかもしれませんが、貴方は…人間を怖がっているのですか?」
その言葉に滲は香山の手を振り払った。それはもう強引に。青ざめた顔で、侮蔑と嫌悪と憎悪を向けながら。
突然起きた行動に泉は困惑する。
「滲…?」
泉の言葉に滲ははたと我へ返る。
「ご、ごめんなさ…」
「ごめんなさい!私が気持ち悪かったですよね!ごめんなさい~っ!」
滲の謝罪を遮り、香山はへっぴり腰で深々と頭を下げる。その瞳はいつもの香山のものだった。
涙声の香山はどんどん頭を抱えるようにしゃがみこむ。
「よく言われてしまうんですっ。人との距離感間違えてるよねって!これで怖いとか気持ち悪いとか散々
言われて軍学校でも友達ができず、いじめられてたんですから~!」
当時のことを思い出したのか香山は膝を抱えて小さくなる。
自分より取り乱した相手を見て、滲は徐々に落ち着きを取り戻していった。
「に、滲…?」
遠慮がちに話しかけた泉に滲は視線だけを向ける。その目はまるで泉を映していないかのように曇っていた。
「ごめんなさい…。少し、風に当たってきます」
「お、おう…」
滲はふらつきながらも外へと出ていく。
その後姿を見送りながら、泉の心の中にはまたもやもやとしたものが広がっていく。
これも、枷というやつなのか…?
秘密ごと愛すと言った泉は滲を追いかけて問いたい気持ちをぐっと抑える。問えば、滲はきっと悲しい顔をするから。
泉がそんなことを思っていた、その時。
「何かあったのですか?」
着替えを終えたキュリーが簡易施設の扉の前に立っていた。
そういえば今日は午前の訓練だけで、一、二番大隊は半休日だったな。
だが、喜んだのも束の間。泉は一瞬にして危機を悟る。
あ、マズい!このままじゃ…!
「あれ?キュリーさん?どうしてここに…?」
「香山大隊長こそ…」
二人は互いに目を丸くしている。
キュリーは滲と見合いの対策を練るためここで待ち合わせをしていたのだ。そしてそのことを香山は知らない。そしてキュリーも香山が泉夫婦に見合いのアドバイスをもらおうとしていることを知らない。
滲にこのことは秘密だよと言われていた泉は、あわあわとその場で硬直し、そしてある秘策を思いついたのだった。




