『髪』を語るニューハーフ
僕は彼女とのデートのため、美容院に散髪きている。
「あら、今日はどんな感じで?」
「さっぱりとした感じで」
「かしこ」
ここの店長はニューハーフでめんどくさい。自分がめんどくさいというのに、めんどくさがりやだから余計めんどくさいのだ。ほら、こんなふうにややこしくなったじゃないか。
店長が僕の髪を摘みながら言う。
「あら、ヘアーアイロン使ってる?」
「ええ、まあ」
「あっら~、ダメよ。ヘアーアイロンってさ、ようは熱で髪をストレートにしてる訳じゃない? え、え、え、何度で使ってる?」
「一応、百三十度で」
「うっわ! うっわ、だよ。それうっわだよ? うわうわのうわのわーうーだからね? 分かる? 百三十度なんで使ってたら、髪の毛コゲちゃうわよ!」
「いや、このとおりコゲてはいないんですが……」
「コゲるっていうのは比喩じゃない! ほら、このとおり痛んでる。嫌だわねー。もっと大事にしてよー。男の子だって髪の毛は大事にしなきゃダメよ」
「は~、まぁ、すいません」
「だってね、髪っていうのはさ、その人の印象を決めるんだわよ? それだけで小顔に見えたり、クールにもスタイリッシュにも見えるんだから」
「あたしねー、髪を大事にしない人って大嫌いなのよね。なんでそんなことできるのか意味不明! 理解不能! 帽子もだめだめ。せっかく輝いてる髪でもなんで隠しちゃうのかなって。なーんでそれ隠しちゃうのかなって。それ、大事でしょ。それ、だーいーじーでしょってね。思わない? ね。あ、でもねおしゃれな帽子はいいのよ? 私が言ってるのはニットとか髪を全部隠しちゃう奴? あれもうだめね。覚えておいてね」
「あとあと、このまえの客が染めてばかりいて……」
僕は立ち上がった。
「うるせー! お前、スキンヘッドじゃねぇかよ!」
たまにはこういう作品もいいかなって思いました。