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家族会議とは何か。
通過儀礼である。大人になるためにだれもが通る道だ。
「これ、なに?」
それはOVAではなかった。
テーブルを滑るように差し出された一冊の文庫。
表紙にはセーラー服姿の美少女。絶体領域が際どいラインまで描かれていて、タイトルは
『ホームレス中学生、嫁になるまでの放浪記』
正座のまま、視線だけでそれを見た。
正面には真琴義姉。
「この犯罪者予備軍を、どうするか会議よ」
「身内バレすることじゃないのかよ」
苦虫を噛み潰したように呟くが、鋭い眼光を向けられ、うつむく。どういうことだ。この展開を予想していなかった。いや、違う。俺にとっては、日常の一部。それを問い詰められるとは……。
「これは……エロ本じゃない。同人でもない……ライトノベルだ! 詩織義姉さんなら分かるだろ!」
「そうなの?」
きょとんとする亜紀義姉。
それと対照的な彼女の目は死んでいる。
軽蔑。そう、その一言でしか表せられない。
ふと、中学時代の出来事を思い出す。
「この雑巾だれの?」
「え? 俺のだけど。まだ新品だし」
「それで私の机拭かないでくんない」
あの顔は今でも忘れられない。それ以来「新品」というあだ名をクラスの女子の間でつけられた。
きっつ。マジで女子一人に嫌われたら、三人に同時で嫌われるよ。ソースは俺。
「……」
彼女に俺の声は届いていない。待ち合わせをブッチしたことを根に持っていそうだ。
「ただいまぁ、……ってなにこれ」
千佳義姉は大学のゼミ帰りなのか、少しだけくたびれた様子だ。ノースリーブで露になる肩が少し赤みを帯びている。それは彼女の肌の白さを強調していた。
「死刑執行」
重罪である。おかしいだろ。すでに裁決されてます。
ソファーでペンギンの抱き枕を抱えたまま寝っ転がる美羽義姉は、どうでも良さそうに寝返りをうつ。
「あそこで更生させるしかないでしょ」
あそことはどこだろうか。思い当たらない。
真琴の言葉は、今思えば、死の宣告だった。