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義妹より義姉でしょうが!  作者:
プロローグ
9/9

9

 家族会議とは何か。

通過儀礼である。大人になるためにだれもが通る道だ。


「これ、なに?」


 それはOVAではなかった。

テーブルを滑るように差し出された一冊の文庫。

表紙にはセーラー服姿の美少女。絶体領域が際どいラインまで描かれていて、タイトルは


『ホームレス中学生、嫁になるまでの放浪記』


 正座のまま、視線だけでそれを見た。

正面には真琴義姉。


「この犯罪者予備軍を、どうするか会議よ」

「身内バレすることじゃないのかよ」


 苦虫を噛み潰したように呟くが、鋭い眼光を向けられ、うつむく。どういうことだ。この展開を予想していなかった。いや、違う。俺にとっては、日常の一部。それを問い詰められるとは……。


「これは……エロ本じゃない。同人でもない……ライトノベルだ! 詩織義姉さんなら分かるだろ!」

「そうなの?」


 きょとんとする亜紀義姉。

それと対照的な彼女の目は死んでいる。

軽蔑。そう、その一言でしか表せられない。


ふと、中学時代の出来事を思い出す。


「この雑巾だれの?」

「え? 俺のだけど。まだ新品だし」

「それで私の机拭かないでくんない」


 あの顔は今でも忘れられない。それ以来「新品」というあだ名をクラスの女子の間でつけられた。

きっつ。マジで女子一人に嫌われたら、三人に同時で嫌われるよ。ソースは俺。


「……」


 彼女に俺の声は届いていない。待ち合わせをブッチしたことを根に持っていそうだ。


「ただいまぁ、……ってなにこれ」


 千佳義姉は大学のゼミ帰りなのか、少しだけくたびれた様子だ。ノースリーブで露になる肩が少し赤みを帯びている。それは彼女の肌の白さを強調していた。


「死刑執行」


 重罪である。おかしいだろ。すでに裁決されてます。

ソファーでペンギンの抱き枕を抱えたまま寝っ転がる美羽義姉は、どうでも良さそうに寝返りをうつ。


「あそこで更生させるしかないでしょ」


 あそことはどこだろうか。思い当たらない。

真琴の言葉は、今思えば、死の宣告だった。








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