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購買部のカウンターに立つのは、シスターの装いをした女性だった。
我が校は創設時、カトリック教会と縁があったらしく、校舎の離れには小さな教会があり、そこに本物のシスターがいる。そして昼休みになると、彼女は購買部の係として、生徒たちにパンや弁当を売ってくれるのだ。
銀髪ショート。出るところは出て、締まるところは締まっている。まさに眼福。神の恩寵ってこういうことかもしれない。
それにもかかわらず、悲壮感が一層漂う男子生徒がいた。無論、俺である。
「注文は?」
「助けてください」
「ここは交番じゃねぇんだよ」
俺のSOSは、シスターに速攻で断れる。
「旧友の頼みでしょ?」
「アンタ、まだ通いはじめて一週間の一年生だろうが」
「ここ教会じゃん。毒状態。助けて」
「顔色悪いだけだろ」
「カンオウケミエテマスカ。ニホンゴワカリマセン」
「バリバリ日本語しゃべてんだろうが」
俺は疲れまじりにため息をもらす。
「これだからネタ枠は。魔王にりょーー」
バチン。
顔面にストレートが飛んできた。神の鉄拳、ありがたく頂戴しました。
「セクハラしたいのか、迷惑したいのかどっち?」
「酷すぎません? ちょっとくらい俺の言葉を聞き入れてくれても」
「懺悔なら聞き飽きたんだよ」
……俺はただ、妹の信仰について一週間語っただけだ。布教活動だよ。そっちだって、してるじゃん。
とりあえず、何か買って帰ろう……あれ?
「金ないなら帰んな」
シスターあるまじき発言。財布がない。どこかにおとしたのか
「次の子、注文は?」
シスターの冷たい一言に打ちひしがれながら、俺は購買部の列を離れた。パン一つ買えず、胃袋は空虚なまま。
そのときだった。
「君……ちょっと来なさい」
背後から、アルトボイス。振り返ると、そこには二年の風紀委員、冴島菜月。通称、鬼の副委員長が立っていた。眉間にシワ、腕組み、そして何より、昼休みに呼び出された生徒の大半がその後しばらく静かになるという噂の持ち主。
「え、俺ですか?」
「他に誰がいる。購買部で騒いでたろ」
騒いでたというか、祈ってたというか、懺悔してたというか……まあ、どれもアウトか。
「ちょっと、風紀室まで来てもらおうか」
「昼休み、終わっちゃうんですけど」
「知ってるよ。だからちょっとなんだ」
ちょっとの定義が人によって違うのは、世の常だ。
風紀室では、購買部での言動についての説教が始まった。シスターへの態度、片言の日本語、謎の魔王発言。全部、記録されていた。誰だよ、風紀委員に密告したの。
「……というわけで、反省文を放課後までに書いて提出」
「え?」
「なんで、嬉しそうな顔なんだ? 君は?」
──そして、昼休み終了のチャイム。
神よ、アーメン。