表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義妹より義姉でしょうが!  作者:
プロローグ
6/8

6

 人生のエピローグが始まろうとしている。

チョークの音が妙に頭に響く。


「では、次の主人公の心理描写、読んでくれる人~」


 三島先生の柔らかい言葉でも俺の心臓は痛む。

後ろにいる監視者の視線が突き刺さっていた。


(やばい……名字が呼ばれる……バレる……殺される……)


「はいっ!!」


 食い気味に叫んだ俺の声が、教室の空気を切り裂いた。 三島先生が、目を丸くする。


「……あ、ありがとう。じゃあ、お願いね」


 俺は立ち上がりながら、震える声で言った。


「先生……俺のこと、今日から下の名前で呼んでください!」


 教室がざわつく。未来が「は?」と小声で漏らす。

三島先生は、頬を赤らめる。


「え……えっと……和希くん……?」


(よし、名字回避成功!)


「えっと……人は生まれにして孤独である」


 和希の声は震えているくせに、目だけは三島さんから絶対に離れない。ページをめくるたび、視線は本文より彼女の顔や髪、仕草へとスライド。目に思わず血がたぎる。


「和希くん、ちょっと視線そらしてくれない?」


 朗読中にもかかわらず、彼女の声には冷たい刃が混ざっていた。


「え、あ、でも、せっかく」


 言い訳する和希の声は裏返り、教科書を落としそうになる。


「いいから」


 慌ててページに視線を戻すも、ノートの端のハートは消せずじまい。 三島先生は距離をとるようにイスを後ろへ引いた。


「その……集中できないから、少し下向いててもらえるかな?」


 集中できない――要は「気持ち悪い」宣言に他ならない。和希は俯きながら再び声を絞り出す。


「人間の感情とは、時に理性を凌駕し、その衝動は言葉を超えて行動へと転化するのである。そして――」


 朗読を終えた瞬間、教室の空気が一瞬凍りつく。

三島先生は大きく息を吸いこむ。


「ありがとう……和希くん、読んだところは感情のところじゃないね。不正解」


 その声色は、演劇部の台詞のような作り笑い――和希の胸にグサリと刺さった。 読んだ所は俺の心理描写だったのだろうと席につくなり思った。


(やべぇ、完全にドン引かれてるぅ)


 後ろに座る未来が小声で囁く。


「ねぇねぇ……高嶺の花だよ」


 うるせぇ、分かってんだよ。


 そして、視界に入った詩織姉さん。笑顔は無くなり、目の色を真っ黒にそめて、俺のことを見つめていた。

やることやったのに、そんな顔する?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ