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義妹より義姉でしょうが!  作者:
プロローグ
5/8

5

 二時限目。現代文。

教室の空気は、いつもより妙に張り詰めていた。

俺は汗をかいていた。いや、かいているというより、流れていた。背中、首筋、額。制服のシャツが肌に張りついて、気持ち悪い。

 原因は明白だ。教室の後ろ——そこに、いる。


 桜川詩織。俺の義姉。文学美女。ミステリー小説のヒロイン像を絵に描いた人だ。古本屋にいそう。

そんな彼女が、今日から実習生としてこの教室にいる。

教室の後ろで静かに立っているだけなのに、空気が重い。いや、違う。冷たいっていうんだ。


 俺は内心、叫ぶ。


(授業参観日ですか!?)


 聞いてないよ!

 教室の後ろに立つ詩織姉さんは、まるで俺の人生を観察しに来た監視者。 しかも、目が合った。


 その瞬間——


 満面の笑み。


 ……怖い。怖いって。怖すぎるよ。

 笑ってるのに、なにあの顔。

口角が完璧な角度で上がっている。目は細くなっている。だが、そこに温度がない。笑顔の仮面をかぶった冷笑の女神だよ。背筋が凍る。心臓が跳ねる。呼吸が浅くなる。


(え……なんで笑ってるの……? 俺、なんかした……?)


 昨日の「妹幻想夢ラブファンタスティック、俺の妹はユリユリしい」のOVAでも見られてたのか?

いや、まさか。そんなはずは——


 詩織姉さんは、微動だにせず、笑顔のまま俺を見ている。まるでこう言っているようだった。


「身内だとしゃっべったら、コロス」


 震えた。

貧乏ゆすりでペンが落ちる。

現代文の教科書が、まるで辞世の句に見えた。


「大丈夫? 和希」


 俺は、隣の席でノートを開いたまま、まったく手を動かしていない。視線は宙を泳ぎ、口元はわずかに引きつっている。いつもなら、退屈そうにペンを回しているのに、今日はそれすらない。


「ねぇ……」


 ちらりと横目で声をかけてくる後ろ席の女。ポニーテールが肩に落ちている彼女は、ペンで背中を叩いてきた。


「……和希」


 声は、ほんの囁き。教師の声に紛れるように、長谷川未来はそっと言葉を落とす。


「大丈夫?」


 俺は、ゆっくりと顔を向ける。目の焦点が合っていない。何かを考えているというより、何も考えられていないような、そんな顔。

未来は眉をひそめる。


「……なんか、顔色悪いよ」


 ようやく小さく息を吐いた。未来の言葉が、少しだけ彼を現実に引き戻したようだった。幼馴染みの安心感というやつだろう。


「……ああ、ごめん。ちょっと、考え事してただけ」

「考え事って、そんな顔になる?」


 彼女は、冗談めかして言いながらも、目は真剣だった。その声には、いつもの軽さと、ほんの少しの不安が混じっている。


「……保健室いく?」


 その言葉に、和希は少しだけ笑った。未来の聞かないけどは、いつも優しさの裏返しだ。

教室の空気は変わらないまま、二人の間だけ、少しだけ温度が上がるとおもいきや。


「私語厳禁」


 詩織義姉のプレッシャー。重圧が凄い。恐る恐る彼女を見ると、メモを渡させる。


放課後、路地裏ノ公園デマツ。


ひっぃやぁぁぁぁぉ!

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