39
渋谷は、異様なほど浮かれていた。
イベントの音楽が駅前に溢れ、通りには屋台と人の列。スマホを掲げる腕、笑い声、フラッシュ。夜なのに、昼よりも明るい。
「人が多すぎるね……」
亜紀が小さく息を吐く。詩織は周囲を見回し、冷静に言った。
「分かれて探しましょうか」
頷いて返事はしたが、視線は人波の向こうに向いたままだった。
「じゃあ、私と詩織はあっちを」
亜紀が示したのは、明るい通り。人が集まり、警察の姿も見える方向。
「和希くんは」
「俺は、こっちを見ますわ」
喧騒に頭がチカチカする。自然と誰もいないところに行くのはぼっちの習性だろうか。
胸の奥に、黒い染みが祭りの音が遠ざかるのと同時に柔らいでいく。街灯が途切れ、空気が冷える。
路地に入った瞬間、渋谷は別の顔を見せる。さっきまでの喧騒が、嘘のように。
(ずいぶんくれぇな)
足を止め、地面に視線を落とす。排水溝の脇。街灯の光を反射する、小さな金属。
拾い上げた瞬間、指が震えた。欠けたキーホルダー。チェーンの擦れ。見間違えるはずがない。
「これ……」
声が、かすれた。
冴島先輩と、カフェに行った時にバックについていたやつと同じだ。
次第に、心臓の音だけが耳に響く。
俺はキーホルダーを握ったまま、周囲を見回した。路地は暗く、人の気配はない。胸の奥で、説明のつかないざわめきが広がる。遅れて、嫌な考えが浮かんだ。
(ここで、落とすか?)
偶然にしては、都合が悪すぎる。逃げる途中か?
いや、この傷具合は落ちたってレベルじゃねぇだろ。誰かに引きづられたような痕跡だ。
捨てたわけじゃないことだけは、はっきりしている。
背中を、冷たい汗が伝う。嫌な予感だけが、確信に近い形で残った。




