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そんな中——
デデデデ、デデデデ、デェーデン!
空気を裂くような着信音。全員の視線が一斉に向く。
スマホを取り出したのは——。
「はい、和希です」
その一言で、誰の着信音かは十分だった。
「……地下鉄? うん」
詩織が近づく。俺は通話を切り、短く頷いた。
美羽からの電話が終わったあと、黒川が腕を組み、杉並区の地図をゆっくり指でなぞる。
「……南阿佐ヶ谷から六時間。ドローンじゃ追えない。なら、地下鉄だけで移動してるんじゃないかって」
「だとすると、足跡がつかめるのは駅構内のカメラだけ」
俺が端末を操作しつつ言う。亜紀は淡々と、しかし鋭く付け加える。
「複雑な乗り換えは避ける。直感で行きやすい場所、つまり──一本で行ける駅か、乗り換えが単純なところね」
「丸ノ内線か、せいぜい半蔵門・銀座との接続くらいだから、降りるなら」
黒川が地図を見下ろしながらつぶやく。
「渋谷」
すると、詩織がスマホを操作しながら眉を上げた。
「今日、渋谷でイベントやってる。人が多くて、外に出てもまず見つけられないレベルの」
「地下鉄から出ても、完全に人の波に紛れられる。派手な場所ほど逆に死角になるって知ってる」
皐月が感心したように言う。俺はスマホをポケットにしまい、息をつく。
「……ビンゴなら、今頃渋谷にいるってわけだな」
雑踏、喧騒、光。そして、人波の底に沈む影ひとつ。
六時間の空白。胸の奥で、微かなざわめきが形を結ぶ。
(南——)
気づけば拳を握っていた。
渋谷の方向から吹くはずのない風が、どこかでドアを揺らす。




