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ズズズズズズ。
「いいなぁ」
店から出てきた拓人どこか羨ましそうに彼を見やる。
詩織は、ペンッペンと手を叩き汚物を見やる。
駆け出す宮本。沈む黒川。関わらまいとする和希と亜紀。
「大丈夫すか、先輩」
助けると思いきや、写真を一枚ピシャリ。
「相変わらず、最高のボディタッチだ」
服をボロボロにしながらも、毅然と立ち上がる黒川は、何食わぬ顔で詩織に近づき一言。
「あなたが好きです。付き合ってください」
満面の笑みで。
「消えろ」
玉砕である。
「もう、諦めましょうよ。先輩。女々しいですぜ?」
「俺は一途な愛を捧げている。この人に、高校の頃から」
「えーと、ひ、ひ……ヒキガエルさんでしたっけ?」
一文字もあってませんよ。
「あなたの黒川翔です。告白は6570回目。あなたが忘れてもギネスに記録を残しました。この愛は世界的な証です」
どこからか、バラを1本。手品かな?
「世界的に迷惑です」
「いやぁー! 照れ屋さんだなぁー!」
詩織は、黒川の差し出したバラを——無言でへし折った。パキリ、と乾いた音が響く。
「あぁっ……! マイ・ロマンティック……!」
黒川、胸を押さえて崩れ落ちる。
だがその視線はすぐに横にいた和希へ刺さった。
「……お前、見てたよな?」
「いや、見てただけだけど」
「見てんじゃねぇーよぉぉ!」
近いちかい。顔近いって。
「おめーよぉぉぉ!」
うるせぇ、うるせぇ。耳元で怒鳴んな。
「詩織さんと一つ屋根の下だからって調子のんなよなぁ!」
「のってねぇって」
「1時間以上、同じ空気吸ってたらショっピくぞ? アァア!?」
こいつ警察か?
黒川が和希の胸ぐらをつかみかけた、その瞬間。
「——お前ら、そこで何騒いでんだ」
ズンッ、と地鳴りのような低音。
女巡査部長がコンビニ袋を提げて立っていた。
空気が一瞬で凍りつく。
「ぶ、部長……え、早くないすか。休憩——え、あの、その……」
黒川はさっきまでの威勢が嘘のように背筋ピーン。
「黒川。お前、また詩織を困らせたな?」
「困らせてないです! 愛が深いだけです!」
「愛は届くものだけに使え」
「名言めいてるけど刺さる! 心に刺さるぅ!!」
黒川は胸を押さえてガクリと崩れ落ちた。
部長はそのまま和希たちに視線を滑らせる。
「報告書、書けと言ったよな?」
「いや、あ……」
「ん?」
黒川の叫びを最後に、意識を失った。




