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雨がぽつりと落ち始めた夕方。
交番の前を、黒川と宮本がいつものように歩いていた。
「先輩、なんか今日ほんとイヤな感じしますよ。胃がキリキリする」
「宮本、お前の胃は年中キリキリしてるだろ。気にすんな」
そう言っていた黒川の足が、不意に止まった。
「……あれは……っ!」
「え、何すか先輩……え? あぁー……」
宮本は視線の先を見て、眉をしかめた。
「桜川の連中でさぁー……」
表情は静かだが、ただそれだけで道の空気が締まる。
詩織は無表情で雨の道を歩いていた。
その足元には、気圧でひしゃげる空気さえ見える。
詩織がふと顔を上げ、こちらを見た。
(げ……!!)
(こっち見た!)
宮本が止める暇もなく、黒川は地面を蹴った。
「し、お、り——さぁぁぁんんんん!!!!」
ゴリラムーブ全開。
雨の中、両手を広げて同級生にダイブしようとした瞬間——
——パァンッ!!
詩織の手刀が、雨粒ごと空間を裂いた。
「ぐぼっ!!」
黒川の身体は綺麗な放物線を描き、道路脇の植え込みへダイブした。
葉っぱが舞う。
「せ、先輩ィィィ————!!!」




