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——その頃。
俺と拓人は崖っぷちに直面していた。
なぜかって?
「で、和希くん」
「説明、してもらえるわよね?」
お、おれ? コイツもいるじゃん!
目の前には、亜紀と詩織の視線が並んでいる。
銃口を向けられてる気分ですよ。全員、笑ってるのに目が笑ってない。隣の拓人は、ニコニコしながら息を潜めている。
「聞いてるの?」
詩織の言葉に背筋がキンッと凍る。
(ガン見されてるぅぅぅぅぅ!!)
「や、やぁなんでいなくなったのかなぁ?」
亜紀が、机にどん、と資料を置いた。
「もっと、マニュアル読んでって前、言ったよね?」
「ひっ……!」
言われてたような、SP課に脅されて入った頃、渡されたアレだ。分厚すぎて読んでいない。
なんて、言えない。後ろの詩織が腕を組み、さらに縮み上がるオーラを放つ。
「さっきまで一緒にいたんでしょ? GPSの反応も途中で途切れた。逃げられた理由、説明できる?」
「油断してまして……はい」
「理由、説明できる?」
(こここっわッ!!)
にっこりしながら追撃を加える。
「まさか、わざと巻かせたんじゃないよねぇ?」
「ま、巻かせてないです!! 巻きの技量、そんな高くないです!!」
机を叩く音。
「言い訳はいいから」
「——」
ほんと女の人って話聞いてんのか、聞かないのか怒ってる時わからんよね。
「走ってね」
「はひぃっ!??」
亜紀に襟首を掴まれ、そのまま引きずられて外へ。
靴を履く暇もなく、車へ押し込まれた。行き先はどこだろうか。
雨の残り香が濃くなり、湿った空気が肌にまとわりつく。一度止んだはずの雨が、ぽつりと落ちてきた。これから起きる面倒ごとを予告する合図のように。




