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妹とは何か。 再定義しよう。
それは癒しであり、救いであり、人生の最終兵器である。妹がいれば、世界はもう少し優しくなれる。
少なくとも、俺はそう信じていた。
たとえば——
朝、布団に突撃してくる元気な妹。
台所を覗いて「今日のごはんなに〜?」と聞いてくる甘えん坊。
紅茶を淹れて「お兄様、お疲れさまです」と微笑むメイド系。
「お兄ちゃんって、太宰に似てるね」と言ってくれる文学系。
「ぎゅってして〜♡」とぬいぐるみを抱えてくる天然系。思い出してほしい。これこそが至高である。
ちなみに、双子は至高は至高でも、嗜好の方である。このボーダーラインが分からなければ、それはただのシスコンである。
え? お前はなんだって? フェミニストでも呼んでほしい。
さて、話は戻るが、妹たちに囲まれて、俺は「お兄ちゃん」と呼ばれながら生きていきたい。 俺の人生の理想形なのだ。
「お兄ちゃん、起きて〜♡」
「にぃに、あそぼー」
「あんちゃん、今日もかっこいいね!」
「お兄様、今日は一緒に寝ましょ??」
「おにぃ〜、ぎゅってして〜♡」
そう、それでいいのだ。
年の離れた甘えん坊、ツンデレ、文学系、天然、メイド風。属性のフルコース。 デザートは子守唄で。我ながら気持ち悪い。
そして、極めつけはこうだ。
リビングは白を基調とした洋館風。
テーブルにはパンケーキと紅茶を添えて。
妹たちは俺の隣を奪い合い、膝に座り、腕に絡みつく。
「お兄ちゃんって、世界一素敵だよね♡」
「にぃにがいるから、毎日が楽しい〜」
「お兄様、今日もご無事で……」
俺は震えた。
これは夢か? いや、夢でいい。夢であってくれ。
このまま永遠に——
「起きろー。現実に帰ってこい」
——その瞬間、世界が崩れた。
目を開けると、そこは俺の部屋。
天井。布団。スマホの充電コードが首に絡まってる。
ドアの前には仁王立ちの真琴姉さん。
「……何その顔。キモい」
「えっ……あ……え……どこ……?」
「現実だよ」
「うそだ! 俺には最愛の!」
「だから、妹いねぇよ? いるのは姉5人。まだ寝ぼけてんのか?」
俺は枕に顔を埋めて、叫んだ。
「うわあああああああああああああああああああああああああああ!」
「愚弟が」
真琴姉さんは冷酷に言い放ち、バンッとドアを閉めた。
俺は夢の余韻に浸りながら、スマホを手に取る。
「あ……」
時刻は、8時15分。遅刻決定である。