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桜川家の前。
監視カメラ6台。ドローン2機。
門には、なぜか指紋認証と顔認証。
うーん。ちょっと待て? 家、間違えた?
誰の屋敷だよこれ。令嬢か政府高官か。
「……潜入するしか」
腰を落とし、柵の影に身を沈める。
音を消し、風と同化。脳内ではもうジャズのテナーサックスが流れ始めている。
標的:行方不明の少女。
任務:極秘調査。
難易度:家族の監視突破。
——カズキ三世、潜入開始。
壁をよじ登り、塀を跨ぎ、物陰に身を滑り込ませる。
だが、次の瞬間。
「ピコン。侵入者を検知。侵入者を検知」
「……は?」
地面のセンサーが赤く光り、庭のドローンが一斉に浮上。
蜂の群れみたいな羽音とともに、サーチライトが俺を照らす。
「ちょ、待て! 撃つな! 俺だ俺ぇぇええ!!?」
全力で逃げる俺の背中に、ドローンの警報音が追いすがる。スリル・サスペンス・命の危機。
玄関の扉がゆっくりと開く。パジャマ姿の詩織姉が、寝癖頭で現れた。
「……変態」
「ちがうだ! とっつぁん!」
「だれがとっつぁんよ。とうとう我慢できなくなったのね」
「メール見ただろ!? 依頼だよ、依頼!!」
「見たから警戒してるの。SP課なめんな」
「おかしいだろぉぉ!!」
その瞬間、ドローンの一機が閃光を放つ。
俺は咄嗟に身をひねり、庭の端にダイブ。
——が、瓦に足を取られ、体勢を崩した。
「アアアァァァァ——っ!!」
バリィィン!!
ガラスが砕け、俺の体は宙を舞った。
スローモーションの中、湯気が渦を巻く。
視界いっぱいに白と淡いピンクが広がり——
そこに、彼女がいた。
半ば湯に沈み、肩まで濡れた長い髪が肌に貼りついている。濡れた睫毛がきらめき、しずくが頬を伝い落ちる。湯気の中で肌はほのかに桜色に染まり、光が輪郭を柔らかく溶かしていた。それはまるで、ルーヴル美術館に展示された彫刻が、湯船に転生したかのよう。
「ひっ!」
——いや違う、目の前に涙目の家出少女。
そんな比喩をしてる場合じゃない。
「きゃああああああああああああ!!」
「ちょっ、ちょっと待て誤解誤解誤ご——!」
瞬間、洗面器が飛んできて額にヒット。
続けざまにボディソープのボトル、シャンプー、スポンジ。俺の頭上で炸裂する洗浄の嵐。
「出てけぇぇええ!!」
「違! ごめんて、俺はただっ——」
「こっち見んな!!」
バッシャーン!!
湯を浴び、泡にまみれ、視界が真っ白になった。
家出少女の名前は、冴島南に決定しました。23ページも改稿してます。




