23
朝の光がブラインドの隙間から差し込み、否応なしに目が覚める。
「おはよ、和希」
湯気の立つカップを片手に、真琴姉が部屋に入ってきた。
「目が死んでる。ラブコメの特典ポスターでも見てたんじゃない?」
「いや、ちが……って言い切れないのがつらい」
コーヒーを置きながら、美羽姉がモニターを操作する。
「そういえば、ニュース見た? 家出中学生の件」
テレビをつけると、わずか三分ほどの短い報道が流れていた。世間にとっては、それくらいの出来事でしかないのだろう。問題が深刻化しないかぎり。
「市内で十五歳の女子が行方不明。セーラー服、保護者への連絡なし」
息が止まった。画面にはぼやけた監視カメラの静止画。光の加減で顔は判別できない。けれど——見間違えるはずがない。俺を「お兄ちゃん」と呼んだあの少女だ。胸の奥が痛む。理屈ではわかっている。ニュースとして処理されるべき対象だと。だけど、あの声と小さな手の感触は、理屈では押さえられない。
本当に、これでいいのか。
テレビの静止画だけが、無言で問いかけてくる。
「和希、ちょっといいか?」
声の主は昌之兄。落ち着いた顔で資料を手にして立っていた。俺は慌てて顔を上げる。
「……ああ」
兄はため息をつき、資料をテーブルの上に置いた。
「これは家出少女の身元だ。行方不明になった子はあの子でまちがいないだろうよ」
冴島南。中学三年生。だよなぁ……。
頭の中で映像がフラッシュバックする。先輩の顔が。
「保護者にはまだ連絡していない。警察と相談して、明日には対応する予定だ」
俺は言葉が出ず、ただ黙ってうなずく。胸の奥がざわつき、手元のコーヒーが重く感じる
「……お前ならどうする?」
その問いに、答えは出せない。正しいことはわかっている。でも、それだけで済ませていいのか、胸が痛む。
「考えとけ。動くなら早めに」
そう言うと資料を片手に部屋を出ていった。
残されるのは揺れる心だけ。




