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桜川探偵事務所──通称「SP課」のソファーで、俺は寝転がって天井を見上げていた。
スタント、潜入、尾行。依頼内容は大体そんなところだ。
危険なバイトのくせに、給料は雀の涙。
けれど、今日のことは、いつもの任務とは違っていた。
冴島先輩が、どうして俺に相談したのか。
たかが学校で顔を合わせる程度の関係なのに。
「親にも、警察にも頼れない」と彼女は言った。
その言葉が、頭から離れなかった。
俺は基本、人の事情に首を突っ込むタイプじゃない。
ただのアルバイト。命令されれば走り、撃たれそうになれば逃げる。
けど、今回は──そう簡単に割り切れそうになかった。
「……やるしかねぇよな」
夜の事務所は静まり返っていた。
壁際の蛍光灯がジジ、と音を立て、光がわずかに揺れる。
古びたソファーの沈み込みに体を預け、目を閉じる。
「親って……なんなんだろうな」
思い浮かぶのは、遺影の中の二人の笑顔だけ。
もう声も知らない、遠い過去の家族。
その面影が、冴島先輩の表情と重なって見えた。
俺は小さく息を吐く。
決意というより、諦めに近い溜息だった。
──明日、彼女にもう一度会おう。
たぶん、そこから何かが始まる。




