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「妹は……どこだ」
膝から崩れ落ちる俺。床の冷たさも、膝の痛みも感じない。
それよりも、心が……心が壊れそうだ。
「何言ってんだよ、和希」
兄が呆れたように眉をしかめる。
その顔、いつもより三割増しでバカにしてる。
「誰も“妹ができる”なんて言ってないだろ」
「ケッコン……カゾク……イモウト」
「なんで片言なんだ…そのロジック、気持ち悪いぞ」
スーツ姿の兄が深くため息をつき、隣に並ぶ女性たちに頭を下げた。
「すみません。うちの弟、ちょっと夢見がちなもので」
「大丈夫ですよ、昌之さん。ね? みんな、気にしないでね」
兄の婚約者・桜川亜紀さんが、優しくフォローする。
ストレートのロングヘアにモデル体型、鎖骨が美しい。
俺の幻想が一瞬だけ蘇るが——
「……きも」
白Tに青ジーンズの女性が、俺を真っ直ぐ睨む。
目が怖い。猛禽類か。
「真琴、言いすぎよ。初対面なんだから」
金髪ショートにネイルばっちりのギャル系女子が笑う。
桜川千佳。ノリが軽い。
「えー妹狙いってウケる〜。マジでアニメ脳じゃん」
「頭……おかしいですね」
黒髪ボブに眼鏡のワンピース女子が、冷笑する。
桜川詩織。文学少女。毒舌。俺の心に刺さる。
「お兄ちゃんって呼んでほしいの?」
パーカー姿でぬいぐるみを抱えた少女が、純粋な目で聞いてくる。
桜川美羽。天然。俺の妄想に最も近い存在——だが、年上。
「はじめまして。桜川家の五姉妹です。気軽に私たちのことをお義姉ちゃんと呼んでいいからね!」
亜紀さんが紹介する。俺は頭を抱えた。
妹どころか、姉が五人。しかも全員、濃い。
そして、スマホが震えた。
『妹神@絶対領域:お兄ちゃん、今日もがんばってね♡』
俺の最後の砦。ネットの理想の妹。
リアルの濃すぎるキャラに色褪せて見えた。