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でかい。
でかい。
デカイィィィイイイ——!
俺は、待ちに待った新作ラブコメの表紙に釘付けになっていた。
おいおい、今回の@サクネコ先生、攻めすぎだろ。これ全年齢で出していいやつ?
表紙の中央、ベッドの上に座るロリ巨乳。合法である。
制服のボタンは三つ外れ、頬を染めてこっちを見つめている。
背後には春色のカーテン、散る桜の花びら。
その胸元が――いや、もう一度言う。でかい。
タイトル『幼なじみが監視アプリで俺を管理してきた件』。
……すばらしい。完璧すぎる構図。
放課後の屋上。俺はひとりだ。
だが、油断禁物だ。誰もいないのを確認して、ボタンをポチっとな。
よしよし。発売日前の定期購入——それはファンのエチケットである。
さてさて、春といえど、夕暮れは肌寒い。
俺は、今、家に帰れないでいる。
鍵は没収、スマホにはGPSタグ。
まったく、メンヘラヒロインどもめ。
バイトも休みだし、行く場所もない。こんな素晴らしい貴重な1日を浪費してしまっていた。
「暇だ」
思わず、独り言が漏れる。スマホをスクロールしてニュースを眺めながら。
ん? 「Chatwork、成人向けコンテンツ解禁」だって?
あーあ、これは絶対ネット小説界が荒れるやつでしょ。
解禁=ランキング崩壊、コメント欄炎上、AIポエム量産の三点セット。
いずれ、そっち系がランキング独占して、業界頭抱え込むわ。
理想と欲望の境目って、案外ワンクリックで消えるんだけどな。
……俺はそれを身をもって知っている。
「——君」
肩に影が落ちた。
びくっとしてスマホを伏せる。
「冴島先輩!?」
眼鏡の奥から、冷ややかな視線。あ、これ完全に風紀違反で捕まる流れです。
心臓が跳ねる。危ねぇ、あと三秒遅れてたらと思うとゾッとする。
放課後の陽を受けて、レンズがきらりと光った。
「まだ帰らないの?」
「い、いや……夕陽、きれいだなーって」
「スマホ見ながら言われても説得力ないけど」
彼女はため息をついて、俺の隣に立った。
風が吹き抜け、先輩の髪が頬をかすめる。
「サボり癖つくと、落ちこぼれるぞ」
「落ちこぼれるほど、登れてもないですけど」
軽口を返すと、冴島先輩はふっと笑う。
その笑みが、いつもより少し柔らかく見えた。
沈みかけた太陽が校舎を朱に染める。
しばし無言。風だけが金網を鳴らす。
「ねぇ」
不意に、彼女が口を開いた。
声はいつもより少しだけ小さい。
「暇なら、付き合って?」
顔を向けると、冴島先輩は前を見たまま、髪を耳にかけていた。
夕陽が横顔を照らされる。
その仕草が、どうしようもなく綺麗で——言葉が出なかった。




