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探偵でSPとか、聞いてない  作者: 岳川渓湖
1章 妹は、幽霊でもかまいませんよ?

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 でかい。


でかい。


デカイィィィイイイ——!


俺は、待ちに待った新作ラブコメの表紙に釘付けになっていた。

おいおい、今回の@サクネコ先生、攻めすぎだろ。これ全年齢で出していいやつ?


表紙の中央、ベッドの上に座るロリ巨乳。合法である。

制服のボタンは三つ外れ、頬を染めてこっちを見つめている。

背後には春色のカーテン、散る桜の花びら。

その胸元が――いや、もう一度言う。でかい。

 

タイトル『幼なじみが監視アプリで俺を管理してきた件』。


 ……すばらしい。完璧すぎる構図。


 放課後の屋上。俺はひとりだ。

だが、油断禁物だ。誰もいないのを確認して、ボタンをポチっとな。

よしよし。発売日前の定期購入——それはファンのエチケットである。


 さてさて、春といえど、夕暮れは肌寒い。

俺は、今、家に帰れないでいる。

鍵は没収、スマホにはGPSタグ。

まったく、メンヘラヒロインどもめ。

バイトも休みだし、行く場所もない。こんな素晴らしい貴重な1日を浪費してしまっていた。


「暇だ」


 思わず、独り言が漏れる。スマホをスクロールしてニュースを眺めながら。

ん? 「Chatwork、成人向けコンテンツ解禁」だって?

あーあ、これは絶対ネット小説界が荒れるやつでしょ。

解禁=ランキング崩壊、コメント欄炎上、AIポエム量産の三点セット。

いずれ、そっち系がランキング独占して、業界頭抱え込むわ。

理想と欲望の境目って、案外ワンクリックで消えるんだけどな。

……俺はそれを身をもって知っている。


「——君」


 肩に影が落ちた。

びくっとしてスマホを伏せる。


「冴島先輩!?」


 眼鏡の奥から、冷ややかな視線。あ、これ完全に風紀違反で捕まる流れです。

心臓が跳ねる。危ねぇ、あと三秒遅れてたらと思うとゾッとする。

放課後の陽を受けて、レンズがきらりと光った。


「まだ帰らないの?」

「い、いや……夕陽、きれいだなーって」

「スマホ見ながら言われても説得力ないけど」


 彼女はため息をついて、俺の隣に立った。

風が吹き抜け、先輩の髪が頬をかすめる。


「サボり癖つくと、落ちこぼれるぞ」

「落ちこぼれるほど、登れてもないですけど」


 軽口を返すと、冴島先輩はふっと笑う。

その笑みが、いつもより少し柔らかく見えた。

沈みかけた太陽が校舎を朱に染める。

しばし無言。風だけが金網を鳴らす。


「ねぇ」


 不意に、彼女が口を開いた。

声はいつもより少しだけ小さい。


「暇なら、付き合って?」


 顔を向けると、冴島先輩は前を見たまま、髪を耳にかけていた。

夕陽が横顔を照らされる。

その仕草が、どうしようもなく綺麗で——言葉が出なかった。





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