18
真琴は深いため息をついて、席を立つと背伸びをし、くるりと踵を返す。
その瞬間、扉の向こうからまたもやノック音が響いた。
「失礼しまーす。未来さん送り届けて、コンビニ行って、ついでにトイレットペーパー買って、明日のお弁当つくりおきしときましたよー」
めっちゃこき使われてる専属ドライバー、斎藤拓人である。
「真琴さん。残業代でますよねー」
「みなしよ」
「ハハハ、つまり出ないってことですかぁー。ありがとうございまぁす」
どこか誇らしげにハァハァ言ってるドMを放置しつつ、俺は本題に戻そうと口を開いた。
「で、これからどうすんだよ。義姉さん。兄貴も身元調査してるんだしさぁ、しばらくの間だけでも家で預かろうよ」
「そ……ならアンタは荷物まとめて出ていきなさい」
「うーん、ちょっと待って」
「あの子の服は昔私らがつかっ」
「リビング! 廊下でもいいから!」
おいおい、何話進めちゃってんの真琴ねぇさん。
「お金ならほら」
5000円札が差し出される。
ポケットマネーで人権を買われた気分だ。
「同情するなら部屋をくれ!」
「たくっ今時のガキは……」
真琴は深いため息をついて、再び背伸びをした。
その白Tシャツの裾がわずかに上がり、俺は反射的に視線を逸らす。
――いや、見てない。断じて。
「じゃ、決まり。拓人、家まで送って。あと、今日の10時までに来客準備しといて」
「わかりましたー」
ニヤケ顔の男はまんざらでもなさそうだ。さて、俺は机の上の書類をまとめてよう。
「はぁ……。俺、なんでこんな目に……」
「アンタは事務所のソファーで寝なさい」
帰れない。っベー、さりげなくあの娘とお近きになるなるチャンスだったのに。
美羽姉が淡々と打鍵しながら呟く。
「妹百合関連フォルダにまとめとくから。売るやつ」
「既に在庫確認してる理由について詳しく聞こうか? えぇ!」
真琴がコーヒーカップを片手に振り向いた。
「ついでに寝言の録音しといたから」
……時が止まった。
美羽が画面から目を離さずに追い打ちをかける。
「音声データ、オン」
「やめろおおおおお!!」
――その夜、シスコン音声ファイルが桜川家のグループLimeに投下されたのは、言うまでもない。




