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桜川探偵事務所SP課!  作者:
1章 妹は、幽霊でもかまいませんよ?
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数時間後。

 光の粒子がゆらゆらと漂っていた。

 朝日とも違う、どこか舞台照明のようにきらめく光が、薄暗い寝室の中を染めている。俺は瞬きを繰り返しながら、隣に気配を感じた。


「……ん……お兄ちゃん」


 布団の隣、すぐ横顔の位置に妹――紗奈がいた。さらりと落ちた髪先が、俺の肩口をくすぐる。白い頬にかかる髪は汗で少し湿り気を帯び、吐息はほんのり甘い。


「……なんで俺の布団に入ってんだ」


 寝ぼけ眼の俺は咄嗟にそう突っ込んだが、彼女はぱちりと目を開き、子猫のように微笑んだ。


「夢を見てたんだよ。……わたしとお兄ちゃんが、女の子同士みたいに恋をしてる夢」


「はあ?」


 寝起きの頭がにわかに理解を拒んだ。

 けれど紗奈はいたって真剣で、つやめく唇から小さな吐息をこぼした。


「女の子同士って、いいよね。だって、恥ずかしくないもん。可愛いって言えるし、ぎゅってできるし……。だからお兄ちゃんも、女の子になっちゃえばいいのに」


「……いやいやいやいや」


 突拍子もないことを言いながら、妹は俺の手をぎゅっと握る。冷たくて細い指先が、朝の布団のぬくもりと混ざり合う。

 その指が少しだけ震えていて――俺は、ふと気づいてしまった。


(まさか、本気で言ってる?)


 彼女の目は冗談じゃない。透き通る瞳が、俺をまっすぐ映している。

 甘い吐息が、唇が、すぐそこに――。

ああ、これが“百合しい世界”の始まり……。


 そう思った瞬間、視界が白くとろけ、ノイズが走った。


 ――バンッ!!


「誰が寝ていいって言った?」


 耳をつんざくような音で、俺はハッと目を覚ました。

 そこは寝室ではなく、無機質な壁と蛍光灯に照らされた――取調室だった。


「もぅ……深夜の1時ですやん」


 トホホとうなだれる。

 目の前の机を叩いているのは真琴姉。今日は胸元がチラチラ見えるようなスポーティーな白Tシャツを着ている。その後ろでは美羽姉が、退屈そうにパソコンにメモを打ち込んでいる。あくびまでしてやがる。


「で、女の子を誘拐した理由を聞こうか?」

「だーかーら! なんで俺が誘拐犯になってんだ!」

「アンタが女の子連れて帰ってきたって言うからよ」

「保護だろうが! 夜遅くにあんなところで一人だったんだぞ!」


 俺も机をバンと叩くが、真琴の眼光に萎縮してしまう。


「年下の女の子連れて帰ってきたら、アンタなら黒でしょ」


 再び机をバンと叩かれ、俺はびくっと震えた。


「なんでこんなことしたの?」

「かくかくしかじかで……」

「また説明しないつもり」


 後ろで美羽姉が、眠そうな声でつぶやく。


「容疑者、供述拒否っと……」

「書くな! 勝手に記録するな!」

「だって眠いんだもん」

「言い訳の質が低いな!」


 真琴姉は眉間に皺を寄せてため息をついた。


「はぁ……ほんとあんたって、信用できないわ」

「俺のどこが信用できないって言うんだ!」

「全部」


 即答だった。美羽姉が顔も上げずに相槌を打つ。


「それにさ……シスコン疑惑、前からあるよね」

「シスコンってなんだよ! 俺はフェミニストだ!」

「どっかで聞いたことある台詞。まったくこれだから、自覚ゼロのオタクは」

「そうね。美羽。和希のお宝本、フリマに出品しときなさい。シス禁させましょ」


 俺の絶叫が、取調室の安っぽい壁に木霊した。

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