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桜川探偵事務所SP課! ~妹推しの俺、五人の義姉に迫られています~  作者:
1章 妹は、幽霊でもかまいませんよ?
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 一瞬、心臓が止まりかけた。

……でもそれは、恐怖じゃなかった。


 嬉しかった。

心の底に、じんわりと熱が灯った。

自然と振り返る。

懐中電灯の光の先——そこに立っていたのは、セーラー服姿の少女。


 顔は、見えない。光が届かない。

なのに——声だけが完璧だった。


 小さくて、守りたくなるような響き。

まるで、何かを思い出させるような。

いや、思い出じゃない。これは本能だ。


「……今、俺のこと……お兄ちゃんって言った?」


 思わず、口元が緩む。

自分で気づく前に、もう頬がにやけていた。


「かずくん!?」


 拓人の声が聞こえるが、どうでもよかった。

未来の手のぬくもりすら、今は遠くに感じる。


この状況で、お兄ちゃんなんて……!


 やばい。落ち着け。いや、落ち着くな俺。

これは、今世紀最大の尊みでは?


 口の端が勝手に上がっていく。

笑いじゃない。これは、慈しみの微笑みだ。


「君、名前は? 歳は? 好きな食べ物は? 家族構成は? 学校は行ってる? 友達いる? 男の影とかない? ないよね? ないって言って」


 少女は返事をしなかった。

ただ、顔の見えないまま、そこにじっと立っていた。


 その沈黙すらも、妹らしいと思ってしまった自分がいた。


「和希……マジきもい」


 未来が引き気味だ。

俺は咳払いしながら、慌てて真面目な顔に戻す。


「……落ち着け。これは状況把握のための質問だ。調査だ。必要なプロセスだ」


「どう見ても、目がキラッキラしてたんだけど……」


「してねぇよ!? してたかもだけど違う!!」


 しかしその時——

少女の姿が、すっと霧のように消えた。


 そこにいたはずなのに。影も、足跡も、残っていない。


「消え? へ?」


 思わず、空中に手を伸ばす。

何かを、掴みたかった、消えた妹。

俺のこと……お兄ちゃんって。

言ったんだよぉぉ!


「妹を助けにいかなければ……」


「何妹認定してるの!?」


 未来の驚きを背に走り出す俺。

呼び止める声など耳に入らなかったのである。

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