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「……なんで来たんだよ」
「え? 男二人で心霊スポットなんて、どう考えても怪しいでしょ?」
鼻息の荒いドライバーが目の前にいるね。うん、やばいね。
「それは……否定できねぇけど」
「だから、監視。幼なじみの義務ってやつ?」
未来は、ふざけた口調とは裏腹に、じっと俺の目を見ていた。
その視線の奥には、冗談だけじゃない何かがある。
「……勝手にしろよ」
俺はそっぽを向いたが、心のどこかで、少しだけ安心していたのも事実だった。
拓人が運転する車が、キャンプ場方面へと走っていた。
車内には微妙な沈黙が流れている。
だけど、不思議と気まずくはなかった。
未来は後部座席から、ふいに言った。
「ねぇ、和希」
「ん?」
「女装、似合ってたよ」
スゥゥゥゥ! 深呼吸だぁ。ふぅぅ。平静を装い振り返ると、未来はニヤリと笑っていた。
「Zで見た。例のメイド喫茶のやつ」
「ハハハ」
「『#男の娘』『#中身男子説』ってタグついてて、めっちゃバズってた。5万リツイートくらい?」
「ふざけ……ってか、保存してないよな?」
「してないよー?」
彼女のスマホをスッと奪い確認すると、しおりマークにリツイートにいいねの三拍子。
「してるじゃねぇ!!」
拓人が吹き出す。
「あれ見た人の9割が、『男だと思わなかった』って言ってたね? 逆にすごいですよ」
「やかましい!」
俺は思わず顔を手で覆った。
未来が少しだけ、声のトーンを落とす。
「でもさ……あれ、仕事だったんでしょ? 誰かを守るためにやったんでしょ?」
「……まあな」
「そっか。……そういうの、あんたらしいよ」
俺は何も返せなかった。スミマセン、消去法です。
ただ、窓に映った自分の顔が少し赤くなっているのが見えて、慌てて目をそらす。
「じゃ、行こうか。かーずくん♡」
キャンプ場の裏手。
木々の間を縫うように進むと、ぽつんと現れた廃屋。
屋根は崩れかけ、窓は割れて、建物全体が森の中に沈んでいるようだった。
「……うわ、マジで出そうだな」
拓人が懐中電灯を照らしながら言う。
「出るよ。俺のテンションが」
「黙れ、拓人」
未来が俺のすぐ後ろを歩いている。
その距離が、さっきよりもさらに近い。
「ねぇ、和希……怖い?」
「別に」
「じゃあ、手……つないでいい?」
「は?」
「冗談。でも、ちょっとだけ、本当に怖いかも」
その言葉に、思わず手を伸ばしかけた——
その瞬間、廃屋の奥から「ゴンッ」と何かが転がるような音が響いた。俺たちは一斉に身をこわばらせる。
「……来たか」
腰の通信機に手を伸ばす。
『美羽義姉、反応あり。人影確認。これより潜入を開始する』
未来が、かすかに震えた声でつぶやく。
「ねぇ、……これって、本当に……?」
俺は、彼女の手をそっと握った。
その手は少し冷たく、わずかに震えていた。
けれど、ちゃんと——握り返してきた。
「大丈夫。……俺から離れるなよ」
「……うん」
未来が小さく頷く。
夜の静けさの中、俺たちはゆっくりと、廃屋の中へと足を踏み入れた。
その時、ふいに後ろから気配を感じた。
「お兄ちゃん、何してるの?」
唐突に現れた彼女が悲鳴をあげそうになる中、俺は震えた。そして、雄叫びが遮った。
「――オ……」
「お?」
首をかしげる少女。
「オオオ、お兄ちゃんキタァァァ!」