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桜川探偵事務所SP課! ~妹推しの俺、五人の義姉に迫られています~  作者:
1章 妹は、幽霊でもかまいませんよ?
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「和希さ……どっかで女装してた?」


 開口一番、それだった。スゥゥゥ。


「……なにを根拠に言ってるのか、詳しく」


 俺はあくまで冷静を装いながら、机の中に突っ込んだプリント類をかき集める。

 夕陽の赤が教室の窓から差し込み、机の影を伸ばしていた。放課後の教室は、まるで別世界のように静かだ。


「いや、根拠っていうか……第六感?」

「それ、証拠じゃないよね?」


 俺の問いかけに、ポニーテールがトレードマークの長谷川未来は頬杖をつきながらニヤニヤしている。


「でもさ、日曜の夜。渋谷のメイド喫茶、妙に警察騒ぎになってたらしいじゃん? しかも営業停止になったって噂だし」


「ハハハ。た、たまたまだろ。メイド喫茶なんて行ったこともないし」


「インタブに載せてたの知ってるよ」


 俺の裏垢がバレているだとぅ!?


「それに……今。顔そらしたでしょ?」


 未来は俺の目をじっと覗き込む。やめてくれ。やめてくれ。心を読むな。


「昔からわかりやすいんだよね。嘘つくとき、耳、ちょっと赤くなるし」


「っセクハラだぞ!」


 思わず耳に手を当ててしまった。

──完全に図星じゃねぇか!


「ま、別に言いふらしたりしないけど。カズにゃん☆」


「!?」


「この前、探偵事務所に出入りしている和希を見たんだよね」


 思いっきり机をバンと叩いた俺を見て、未来は大笑いしていた。あーもう……本当に油断ならない。


「ここんとこ、よくケガしてるし、時々消えるし。そういうの、見逃してあげてるんだから感謝してよね」


 笑いながら言うその言葉の中に、どこか寂しげなトーンが混じっていたのは気のせいじゃなかった。


「金か?」


 素直に言うと、未来はちょっと驚いた顔をした。


「だれも脅してないし」


 でもすぐ、いつもの調子で笑う。


「でもまぁ。最近、昔みたいに何かに、打ち込んでるみたいだし……」


 俺は黙って、うなずいた。彼女はそれ以上、詮索しないようだ。一瞬の間。手を叩いて、閃いた様子の未来は詰め寄ってくる。


「ご褒美に、今度の林間学校でお風呂当番代わってあげようか? 女湯の」


「女湯!?」


「もう慣れてきたでしょ、女装」


「前提がおかしいな!」



 その日の夕方、未来と交差点で別れた後、俺は誰もいない路地裏で、珈琲を一杯飲んでいた。


「たく……。バイト減らしてもらおうかな」


 釣り銭を制服のポケットに入れた時、任務で使った小型通信機が反応する。うわぁーと端末をにらみつける。


『和希、聞こえる』


 イヤホン越しに声が聞こえてきた。どこのアンテナ使ってんだ。この端末。


「──美羽義姉か?」


『うん。林間学校のキャンプ場、幽霊の噂、人の影ありってやつ。和希、偵察してきて。今日』


「課題があります」


 なんで? と聞いたら最後。やる気ありと見なされる。

ならば、学業優先でシラを通すのが懸命だ。


「詩織義姉がカバンから抜き取ったって」


「おい、プライバシー」


「関係各所には許可とってるから、行ってきて」


 なんて仕事が早いのだろうか。


「ドライバー手配してる。それに乗って」


「は? 誰だよ。そいつ」


 すると、黒い車が前方に駐車し、わざとらしくカツンと音を立てて、一人の男が降りてきた。


「ひどいなぁ。桜川探偵事務所の専属ドライバーをそいつ呼ばわりなんて」


 俺はガクッと項垂れた。無線でのやりとりを聞いていたようだ。


「忘れてるなんて言わせないよ?」


 肩に腕を回してきた王子様風の男に俺は、背負い投げをかます。


「今日もアグレッシブだねぇー。かずくん」


「かずくん呼びするな気持ち悪い……斎藤拓人」


 容姿端麗。カジュアルなシャツに黒のチノパン。シンプルな格好ほどイケメンというのは目立つのだ。


「ハァハァ……最高だよ」


 だが、筋金入りのドMである。


「男二人で心霊スポットなんて、たぎるじゃないか? そう思わないかい?」


 どこに需要あるんだよ。

街灯がちかちかと点滅を始める。揺れる光のリズムに、胸の奥の感情までもが揺さぶられるようだった。


そんなとき、不意に背中越しに声が落ちてくる。


「私も、行こうかな?」


「未来……!?」


 帰ったはずの彼女は、どこか面白がるような表情でそこに立っていた。その笑みが、夕暮れよりもずっと鮮やかだった。

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