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桜川探偵事務所SP課! ~妹推しの俺、五人の義姉に迫られています~  作者:
1章 妹は、幽霊でもかまいませんよ?
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「……おい」


「ちょっと脛毛また残ってるよ?」


 スカートめくりをする千佳義姉に、下卑た目線を送る俺は、桜川探偵事務所の地下訓練室にいる。

 メイド服のフリルを両手で摘みながら、和希は鏡に映る自分の姿を見て絶望に打ちひしがれていた。


「なんで、また俺なんだよ!!」

「はいはい、うるさい」


 真琴義姉が容赦なく背中をバシンと叩く。

 いつもの黒の戦闘スーツではなく、珍しくカジュアルなジャケット姿だ。


「これ、れっきとした潜入捜査だから。正式任務。メイド喫茶イベントに潜り込んで、例の議員の裏資金パーティーの情報を引き出すの。男がそのまま入ったら即アウトでしょ」


「他に女がこんなにいるだろ!」


「私たちは顔が割れてるし、千佳と詩織は他にやることあるからイベント参加不可。美羽は……」


「ワタシ接客向いてない」


 顔を一切動かさずタブレットを操作する美羽義姉が即答した。


「亜紀ねぇは……?」


「人妻だし」


 全員がそれぞれ自分の役割をこなしている。

 なのに俺だけが、何の免疫もない「メイド服」でフロアに立たされるってどういうことだよ!


「無理だって! そもそも、萌え萌えキュン☆とか……俺はご主人様だぞ!」


「お似合いじゃない」


「……やらされるの間違いでしょ?」


 美羽と詩織義姉がサラッと言い放った。


「ちょっと待って! 俺のイメージは!?」


「オタク」


 全員が即答する。ちょっと待て。それはかりそめの姿であってだな。


「バイトリーダー昇格、時給1,200円。戦闘手当別途支給」


 美羽義姉が冷静に条件提示してくる。おっと?


「ぐぅ……」


 数字に弱い男、和希。


 イベント当日、渋谷の一角にあるメイド喫茶ハニースパイラル

 普段はオタクたちの聖地だが、今夜は秘密の会員制パーティー仕様に内装が変えられていた。


 VIP席には、政治家、芸能関係者、そして──裏社会の人間たちの姿。


 和希(通称メイド名:カズにゃん)は、ぎこちなくも注文を取りながら、その様子を観察していた。


(俺……何してんだろ……)


「カズにゃん、萌え注入してー!」


 客のひとり、見るからに怪しいスーツの男が手を振って呼んでくる。


「も、萌え注入……?」


 背後からピシッと視線を感じる。


(真琴義姉!? モニター越しに見てやがる……!)


「……も、萌え萌えキュンっ……」


 ギリギリの精神で可愛いポーズをとった瞬間、

 客のひとりがポケットから“違法改造型の記録デバイス”を取り出したのを見逃さなかった。


(アレか──!)


 和希は、ドジっ子演技でテーブルに水をぶちまけながら、さりげなくその男の胸ポケットにタオルをかける。


 その瞬間、マイクロバグがデバイス内部に侵入。

 すかさず詩織義姉がデータ解析を開始する。


『ターゲット確定。議員秘書・三田村の個人アドレスに直接送信してる。暗号化形式はRSA2048、でも解読可能』


 数分後。


「警察だ! 全員その場で動くな!!」


 店の扉が破られ、公安と合同の特殊部隊が突入してきた。


「うわっ!? こっちはまだ注文取って──ぎゃあっ!」


 巻き込まれるメイド服の俺。

 手錠かけられる前に、「協力者」の証明書を見せる羽目になった。


「こ、これは……! 桜川探偵事務所SP課の……!」

「えっと……カズにゃん……?」

「そっちの名前で呼ぶな!!」


 そして、なんだかんだあって事件は無事解決。

 裏金ルートの証拠は完璧に押さえられ、議員秘書含めた関係者は逮捕。

 メイド喫茶はしばらく営業停止処分となった。


「……で、次は何の任務?」


 帰りの車内、疲れた顔で和希が訊く。


「うーん。次はねぇ、温泉地で起きてる謎の怪談事件。浴衣での潜入捜査になるけど、女将役と若女将役が必要で──」


「やめろ。今、若女将って言いかけただろ……!」


「ご明察~」


 絶望の未来が、またひとつ幕を開ける。


「てか……ここ。今度林間学校で行くところじゃねぇか!」


 全員、聞こえているのに無視をされた。

これいつものパターンだよね。ワンパターンは飽きるって。

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