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妹がほしかった。
「お兄ちゃん」
「おにぃ」
「にぃに」
「あんちゃん」
「お兄様」
あぁぁぁ……ぁぁああ
なんていいぃ響きなんだぁ。
愛のメッセージ。
悩ま……おっといけねぇ。
こんなことをしたためるんじゃない。
妹とは何か。
それは憧れであり、癒しであり、救いでもある。
妹という存在は、人生における最後の希望なのかもしれない。
そんな妄想を抱きながら、俺は日々を生きていた。
推しアニメが放送されていた間は、それが心の支えだった。
だが、最終回を迎えた。
俺の世界は終わった。
代わりに何か見ろと言われても、そんなもの認められるか。
テンプレ展開、量産型キャラ、見飽きた設定。
……と思っていたのに、三話見たら止まらなかった。
百合アニメ。
スミマセン。中毒性、ありますよね。
そんなある日、兄が言った。
「実は、結婚することになったんだ」
えっ……結婚?
ということは……義理の妹ができる!?
俺に妹が!?
ついに、ついにこの日が来たのか!
頭の中で「お兄ちゃん」と呼ばれるシミュレーションが始まる。
年の離れた、ちょっと生意気だけど甘えん坊な妹。
朝、「にぃに、起きて〜」と布団に突撃してくる妹。
夕方、「あんちゃん、今日のごはんなに〜?」と台所を覗く妹。
夜、「お兄様、今日もお疲れさま」と紅茶を淹れてくれる妹。
……完璧だ。俺の人生、ここに完成する。
そして翌日、顔合わせの日。
緊張と期待で胸が高鳴る。
スーツを着て、髪を整え、鏡の前で「お兄ちゃん」と呼ばれたときの笑顔を練習する。
扉が開く。
そこにいたのは——
年上のお姉さん、五人。
……妹、どこ?