ねこはゆく。ひたすらゆく
タイトルの主人公の出番は、実はちょっとしかありません。
黄色と黒の囲いが立ち、多数の屈強な男達が動き回り酷い喧騒に包まれ、近寄り難い空気を醸す空間があった。
その空間の隅には鋼を主材にした合金の資材が積み上げられ、それを吊り上げるクレーン車に活躍の場を早く寄越せと、強く要求しているかの様だった。
ぶっちゃけ、どこかの大きな建築現場だ。
――――そんな場所には、不穏があった。
「準備はどうだ?」
「順調です」
現場の敷地内にいる、作業員の格好をした、なんて事が無い2人の会話。
「進捗の報告を」
「資材は計画より4%遅れていますが、誤差の範囲です。 重機の確保は6%早く進んでおり、好調です」
「そうか。 他に何か報告はあるか?」
「ええ、はい。 ございま…………!!」
報告の途中で、付近からガサリと物音がした。
物音が聞こえた瞬間に急に口をつぐみ身構え、周辺を警戒しだす2人。
「なんだ? 警戒しろ」
「はっ!」
普通の報告ならば聞かれて問題なぞ何も無い。
現場監督とその部下の会話だったはずなのだ。
それにしては過剰な反応である。
ガサリ。
再び発生した物音により発生源を特定した2人は、細かい資材が雑に積まれている場所を睨みつけた。
が、そこから出てきたものは。
にゃ〜。
「……なんだ、首輪もある、どこかの飼いネコか」
「ははっ、なんか漫画みたいですね。 世界を良くしようって武装組織が、こうやって密かに報告しているのを盗み聞きしている人が、物音をネコのせいにするってお約束ですよ」
「!!? そうだな。 周辺を徹底的に捜索。 その上でこの接触ポイントを破棄して別の接触ポイントへ変更するぞ」
「は? いえ、はい。 念には念を入れて、ですね」
「余計な事を言うんじゃねえ!」
「いてっ!」
にゃ〜。
のんびり鳴くネコを他所に、キビキビと周辺の異変を探そうと散開する作業員風の男達。
だが、そのネコの首輪に仕掛けられた超小型遠隔カメラには、最後まで気付かなかった。
謎の会話をしていた2人が必死に捜索したものの、ネコ以外はなにもいませんでした。
が、どこからかその時の会話シーンのデータを根拠にした治安維持組織が接触してきて、2人は無事に某行為の準備をしたとされ塀の中に入れられましたとさ。