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一秒のノイズ 「元気だぞ!」

 第1話目とての投稿作品は、お題「一秒のノイズ」に対して書いた『SF作品』です。

 「主任、地球方面から1秒間だけですが、人工的電磁ノイズ、何らかの電波信号を受信したようです」


 「電波信号の発信場所は特定可能か?何の電波信号か解析できるか?」


 「最近きな臭い動きのあるラグランジュ1方面を優先監視のため、地球方面は全く監視していなかったのです、もう一度同様の電波信号が届けば可能かと・・・」


 「解った、君は地球方面を重点的にモニターしてくれ、地球の自転を考慮すると、次の電波信号受信は24時間後かもしれないぞ」


 「了解しました」


 ここは扶桑国、地球から遠く離れたラグランジュ5ポイントに浮かぶ、唯一の巨大スペースコロニー国家の中枢、管制センターだ。


 地球歴の21世紀末から22世紀末の約100年をかけて、月と小惑星帯から運んだ鉱物資源で実験的に造られ、やっとほぼ完成した人工惑星のスペースコロニーなのだ。


 人の住む居住ブロックは連結されており、人工惑星の周りを回転させることで、地球上とほぼ同じ1Gの人工重力を発生させている。


 1Gの人工重力を維持し続けないと、地球に帰還したときに、まともに立ち上がることすら出来ない状態となるのだから、1Gが必須なのだ。


 地球の6分の1しか重力の無い月面で生まれた子どもは、地球の重力に耐えられないとの報告もある。


 ここ扶桑国以外にも、ラグランジュ1・2・4に数千人から数万人規模のスペースコロニーは多数存在するし、月や火星、小惑星帯にも資源採取目的のプラントとてし造られた人工重力居住施設が存在するが、第4次世界大戦時の敵国も存在することから、お互いの交流は必要最小限に留められている。


 太陽の反対側にあるラグランジュ3にも、超大国の宇宙軍が駐在する、小さな規模の実験施設があるようだが、軍事機密でもあり詳細も不明で、地球からだと太陽が邪魔をして直接通信が出来ないので、今は連絡が中々取れていないのが現状らしい。


 遠い昔の文献には、太陽の反対位置に第2の地球が存在するって、おとぎ話的な話や説もあったが、科学技術が発達し人工衛星を太陽の反対側まで飛ばすことが出来るようになると、やはり第2の地球らしい惑星や天体は残念ながら観測されず、実在しないことが証明されてしまった。


 第4次世界大戦は、地球圏、宇宙空間の覇権争いでもあったため、大国同士の軍事衝突で大量に発生したスペースデブリの危険性から、最後には地上から宇宙に出る、宇宙から地上に戻ることすら出来なくなったのだ。


 俗にいう「ケスラーシンドローム」の状態となってしまった訳だ。


 ゴルフボールほどのスペースデブリが宇宙船に衝突しただけでも、相対速度が音速の数十倍ともなれば、通常の宇宙船装甲では全く耐えられずに、アッサリ貫通してしまうのだから、どのスペースコロニーに住む宇宙移民たちも、スペースデブリが飛び交う地球圏には絶対に近づかない。


 大量のスペースデブリを除去する方法が生み出されない限り、もう地球には、この先数百年は戻ることは出来ないだろうと、皆が思っている。


 例え強化装甲の軍用宇宙船を使って、運良く地球に戻れたとしても、今度はスペースコロニーに帰還する術すらも無い可能性が高いのだから。


 既に宇宙移民していた人々は宇宙に取り残され、後に自主独立国家として建国したわけだが、その暮らしは第4次世界大戦によって、地球から一切補給物資が届かなくなり、ほぼ全て自給自足となったことで、最初は苦難の連続だった。


 今でこそ食料生産プラント等が稼働を開始しているが、スペースコロニー開発当初は補給物資が届くことを前提に開発をしていたのだから、こればかりは仕方がない。




 24時間後、1秒間の瞬間的ノイズがラグランジュ5の扶桑国に再び届いた。


 「主任、1秒間のノイズ受信しました。AI解析によると発信場所は日本の硫黄島ですね、指向性パルスレーザー通信のデジタル信号ではなく、今は使われていない大昔のアナログ信号の電波です」


 「硫黄島か、あの島は周囲の海底火山噴火と隆起現象で巨大な島になっていたはずだから、もしかすると日本本島からの移住者が大勢住んで居るのかもしれないな」


 「ノイズ、フィルターで除去しました、日本語の音声信号で『元気か』ですね」


 「解った、同様の周波数と方法で、地球に届くように返信は可能か?」


 「明日まで猶予を頂ければ、可能です」


 「では電波の届いた24時間後の前後15分間、地球に向けて最大出力で『こちら扶桑国、元気だぞ』って、日本語で繰り返して発信してくれ」


 「了解しました」




--------------------------------------


 ここは硫黄島の老人介護施設の一室、老婆のベッド横で古いラジオをチューニングする若い介護職員がいた。


 「ばぁ~ちゃ~ん、ラジオ聴いてみな~、『こちら扶桑国、元気だぞ』って言ってるぞ~、聴こえたな~、良かったな~、スペースコロニーに住んでいる息子さん夫婦やお孫さんたち、みんな元気に生きてるかもしれないぞ~!」


 老婆は古いラジオのスピーカーからノイズ交じりで、微かに聴こえてくる『こちら扶桑国、元気だぞ』の声を聴きながら、静かに涙を流した・・・

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