第3話 闇夜の刃
何事もなかったように、校門を潜り、家路を帰る蒔絵に、誰かが声をかけた。
「お帰りのところ、すいませ〜ん!ちょっとお時間いいですか?」
携帯を打ちながら、歩く蒔絵の前に、現れた男は名刺を差し出した。
「怪しい者じゃないんですよ。わたくしは、眼鏡の買取販売をしているな・か・のと申します!」
「…」
蒔絵は無視するかのように、歩き続けるけど、別にスピードを上げる訳でもない。
「あのですねえ〜。あなたが持ってる緑の眼鏡!あれは、大変貴重な物となっておりまして…」
「…」
「今でしたら、大変お高く買い取らせて頂きますけど…」
「……だりい…」
「あのですね。買い取らせて…」
「だりい」
「…………」
「だりい」
「き、貴様!」
男はキレた。
「だりい」
「さっきから、だりいだりいを連発しやがって!もうやめた!やめた!」
男はスーツのネクタイを緩めると、
「我が名は、サギシ!この名を聞いて、生きていた者はいない」
サギシは、万能ナイフを取り出した。缶詰めとかも開けれるやつだ。
「ふあ〜あ…だりい」
ナイフを向けられても、欠伸をして、携帯を打ち続ける蒔絵。
「き、貴様あ!」
サギシは、蒔絵の携帯を左手で払った。
蒔絵の手から、携帯が落ちた。
「携帯依存性か!この現代っ子があ!」
「…」
落ちた携帯を見つめる蒔絵の肩が、わなわなと震え出す。
「さあ!眼鏡を渡せ!」
ナイフをちらつかせるサギシに、蒔絵はゆっくりと顔を向けると、絞りだすように声を出した。
「ウザイ」
その瞬間、蒔絵の鞄の中で、眼鏡ケースが開き、眼鏡が飛び出した。
「き、貴様!変身できるのか!」
狼狽えるサギシの前に、乙女グリーンが光臨した。
「ウザイ」
きりっとサギシを睨むグリーンに、サギシはわなわなと震えながら、ナイフを両手に持ち、
「死ね!」
襲い掛かった。
「てめえ…ウザイ!」
睨むグリーンの目から、突然光ると、ビームを発射した。
「うぎゃあ!」
サギシは吹っ飛んで、丸焼けになり、その場で倒れた。
乙女グリーン。
光線技のグリーンと言われ、全身からムーンビームを出すことができる唯一の戦士。
純粋な破壊力ならば、乙女ソルジャー1である。
蒔絵がウザイと感じると、勝手に変身し、睨む相手をビームで撃ち殺すという自動システムを完備。
その時、関係ない人を見てたら、その人を撃ちます。
恐るべき戦士だが、如何せん…本人にやる気がなかった。
蒔絵は携帯を拾うと、何事もなかったように歩きだしたが、
携帯の電池が切れた。
「ウザイ」
蒔絵が顔をしかめた瞬間、光線がでて、近くにあった自動販売機を破壊した。
「ウザイ!ウザイ!ウザイ!」
蒔絵がウザイと言うのに飽きるまで、破壊は続いた。
「最近…この学園に不審者が、多数目撃されている」
授業中、熊五郎は生徒達に注意を促していた。
「昨日も、学園の外だが、自動販売機や、選挙ポスターが破壊されるという事件が起こっておる!十分、注意するように」
「へえ〜」
あたしは席につきながら、大欠伸をした。
別に、あたしには関係ない....はずだから。
第三話【闇夜の刃】スタート!
「…というわけで、最近不審者が多いから、気を付けるように」
「はあ〜?」
半月ソルジャーの言葉に、あたしは顔をしかめ、
「あんたも、そのうちの1人でしょ」
休み時間、あたしと夏希は半月ソルジャーに呼び出されていた。
まあ…夏希はあたしが連れて来たんだけど。
朝登校してくると、眼鏡で変身したことを興奮気味に話してくる夏希に、
あたしは、机に頬杖をつけながら、赤いケースを見せたのだ。
「今回、呼び出したのは他でもない。乙女ソルジャーが、レッド、ブルー…今日はいないが、グリーンが揃ったことにより、やつらも本腰をいれてくるだろうからな」
半月ソルジャーの言葉に、あたしは首を傾げ、
「やつらって、なんなの?」
「そ、それは…」
半月ソルジャーは、口を濁した。
「あのお…あたし、まだ意味がわからないんだけど」
あたしと半月ソルジャーの間で、夏希はただ首を捻っていた。
「あたし達の戦う理由って、何?」
あたしは腕を組み、焦って汗だくになっている半月ソルジャーを見つめた。
「それは、正義の為だ!」
半月ソルジャーはその質問には、即答した。
「ククク…正義だと?」
どこからか、声がした。
「え?」
あたし達しかいないと思われた屋上に、いつのまにかハゲ散らかした小さいおっさんがいた。
多分、月影ロボと同じくらいだ。
あたし達と距離を取り、佇むおっさんを見て、半月ソルジャーは目を見開いた。
「お前は…バーコード」
「久しいな。半ケツ」
バーコードは口元を緩め、
「最後に会ったのは…お前が、組織を抜ける前になるな」
「ク!」
気まずいそうな顔をしている半月ソルジャーを放置して、あたしはバーコードに近づいた。
「組織を抜けるって、どういう意味ですか?」
あたしの質問に、バーコードは答えた。
「やつは元、我が組織の怪人半ケツ仮面。ある日、開発中の小型ロボと、折角組織が回収した…眼鏡ケースを持って、やつは脱走したのだよ」
「脱走?」
「そう、こいつは組織の裏切り者!」
「ち、違う!我は月の使者!半月ソルジャー」
ポーズを決めて、会話を遮ろうとした半月ソルジャーを無視して、あたし達は会話を続ける。
「こいつは、研究所から、乙女ケースを盗み出し、逃げたのだ!我々は、この学園まで追い詰めたのだが…」
ここで、回想シーン。
月影ロボで応戦しながら、学園内に逃げ込んだ半月ソルジャーが両手に抱える数個の眼鏡ケース。
必死に走る半月ソルジャーは突然、何もないところで転んだ。
倒れた衝撃で、腕の中から飛び出す眼鏡ケース達。
そのまま、地面に転がると思われたが、
なんと!眼鏡ケースは空中に浮かび…各々学園の中に飛び去って、消えたのだ。
「貴様のせいで、三人もの乙女ソルジャーを目覚めさせてしまった…しかし、まだ全員が揃ったわけではない!今ならば、貴様達を倒し、眼鏡だけを回収すれば!」
バーコードは、着けていたカツラを取った。
「え?ハゲ散らかしてるのは…カツラ?」
あたしが驚いていると、カツラを脱いだバーコードの頭は、ガラスのようにきらきらと輝く…スキンヘッドになった。
「ハハハ!月のご加護がなければ、乙女ソルジャーにはなれまいて!しかし、我は違う!太陽こそが、我に力をくれる」
怪人バーコードの頭は、ソーラー電池内蔵だ!
どうせハゲたのなら、太陽を直に浴びるのならばと組織に改造された彼は、携帯やiPodを充電できる優れものだ。
それだけではない。
「くらえ!」
「え?」
頭から伸びた光が、あたしの手の甲に当たった。
数秒後、
「熱!」
あたしは思わず、手を光から離した。
バーコードの頭は、虫眼鏡のように、紙とかを燃やすことができるぞ。
だけど、燃やすには時間がかかる。
「地味な攻撃しやがって!」
あたしは、乙女ケースを取り出した。
「変身!」
だけど、眼鏡が装着されない。
「無駄だ!月の光がないと、乙女ソルジャーにはなれんわ」
バーコードはフッと笑うと、脱いだカツラを手にして、裏返した。
「くらえ!汗と加齢臭パンチ!」
それを手に巻き付けると、あたしに向かってくる。
「ひぇ〜!」
ツンと鼻に来る臭いをさせて、迫り来るバーコード!
「これは…何なのよ!?」
夏希には、何がどうなってるのかわからない。
逃げるあたしから、対応が遅れた夏希に、ターゲットを変えたバーコードは、夏希の顔面にパンチをたたき込んだ。
恐るべき臭いにより、夏希は気を失った。
「夏希!」
あたしは、夏希に駆け寄ろうとしたけど、カツラを振り回すバーコードに近付けない。
「レッド!」
半月ソルジャーは、股間に手をいれると、リモコンを取り出した。
「出でよ!月影ロボ!」
半月ソルジャーの叫びに呼応するかのように、屋上の扉を開けて、颯爽と登場した月影ロボ。
「馬鹿目!」
バーコードも股間から、リモコンを取り出した。
「何!?」
混乱する月影ロボ。
そして、
月影ロボは、半月ソルジャーの股間に鉄拳を食らわした。
「向こうの方が、最新型か…」
泡を吹いて、倒れる半月ソルジャー。
「半月ソルジャー!」
あたしは、カツラから逃げながら、舌打ちした。
「逃げられぞ!レッド!」
変身できないあたしを挟むように、バーコードと敵になった月影ロボが囲んだ。
「敵が…増えてるじゃないのよ!」
夏希と半月ソルジャーは、気を失っている。
「さあ!さっさと乙女ケースを渡せ!これは、もともと我ら組織のもの!」
右手でカツラを振り回し、左手でリモコンを持つバーコード。
別に、乙女ケースなんか渡してもいいのだけど…
あのカツラだけは勘弁してほしい。
あたしは、自分のいるところを確認した。扉は近い。
乙女ケースを投げて、その隙に逃げようと考えていると、何かがあたしの上空を飛び越えた。
それは、屋上の入口の上からだった。
黒い影があたしの頭上を飛び越えて、バーコードの頭の上に、着地した。
「誰だ?」
いきなり頭の上に乗られて、腰が下がるバーコードが上を見ようと首を動かした瞬間、
上に着地した人物は、頭を蹴ってジャンプすると、床に着地するまでに、バーコードの首筋、そして、リモコンを持つ左手に、蹴りを入れた。
リモコンが中に舞う。
そのまま軸足を変えると、汚いカツラも蹴り飛ばした。
その間、数秒!
後ろに倒れるバーコードと、床に落ちたリモコンを踏み潰すのは、同時だった。
「あ、あなたは?」
驚くあたしに、謎の人物は黒の眼鏡ケースを見せた。
そして、倒れているバーコードを睨み、
「闇があるから、あたしがいる!悪より、黒いあたしが、悪を断罪する!」
そして、またジャンプすると、バーコードの頭を踏みつけた。
「月夜の刃!乙女ブラック!」
ソーラー電池の頭が割れた。
「お、乙女ブラックだと!」
バーコードはブラックの足を払い、何とか立ち上がると、わなわなと震えだした。
「大丈夫?レッド」
あたしの方をちらりと見た横顔で、ブラックが誰なのかわかった。
「生徒会長!」
大月学園生徒会長九鬼真弓。
漆黒の腰まである黒髪に、長い睫。スレンダーでしなやかな体に、クールな佇まいは…大月学園付き合いたい人、No.1だ。
まあ…女子高だけど。
「九鬼先輩が…ブラック!」
驚いているあたしに、九鬼は言った。
「呼び捨てでいいわよ。同じ戦隊の仲間なんだから」
九鬼はあたしに微笑むと、バーコードには冷たく鋭い視線を浴びせた。
「そ、そうか!ここ最近、この学園に送り込まれた怪人達がことごとく倒されていたのは、貴様の仕業だったのか!」
バーコードは震える手で、九鬼を指差した。
「あたしは、この学園を守る生徒会長!そして、乙女ブラックでもあるわ。この学園を汚す者を許す訳には、いかない」
九鬼は、ゆっくりと腕を前に出すと、指で手招きした。
「かかってきなさい」
「調子に乗るなよ!変身できない女子高生ごときに、我が負けるか」
バーコードはカツラを九鬼に向かって投げた。
「フン」
九鬼は軽く避けた。
しかし、その行動は誘いだった。
「くらえ!」
バーコードは頭を突きだした。
禿げた頭が、太陽の光を反射して、眩しいくらいに輝いた。
あたしは、あまりの眩しさに視界が真っ白になった。
「死ね!」
にやにや笑いながら、九鬼の足を取ろうと、バーコードは腰を屈め、タックルの体勢になった。
「え?」
バーコードは驚いた。
目の前に、九鬼がいない。
「お前達の行動など、予想できる」
九鬼は目をつぶりながら、ジャンプしていた。
そして、膝を曲げると、腰を屈めたばかりのバーコードの背中に落下した。
「ぐぎゃあ!」
背中が変な感じに曲がったバーコードから離れると、
九鬼は回し蹴りをバーコードの顎にヒットさせた。
「馬鹿な…つ、強い…」
バーコードは一瞬、意識を失った。
その一連の動きに、あたしは唖然としていた。
明らかに強い。
変身していないのに強い。
九鬼は倒れているバーコードに、腕を組みながら、近づくと蹴り起こした。
「!」
はっとして、意識が戻ったバーコードは慌てて立ち上がった。
「馬鹿な…馬鹿な…違う…違う!私は負けてない」
バーコードは明らかに、怯えていた。
それも九鬼を見てではない。
九鬼は訝しげに、眉を寄せた。
「わ、わたしは…嫌だあああ!」
屋上から逃げ出そうとするバーコードは、突然体を痙攣させると、動きを止めた。
すると、空から黒い物体が落ちて来て…バーコードの頭から覆い被さった。
「わたしは…なりたいたくない…下っぱに」
その声も虚しく、バーコードは全身を黒タイツに包まれた。
「キイイ!」
怪しい奇声を発しだしたバーコード。
それに、呼応したかのように、屋上の金網をよじ登って、他の黒タイツ達が現れた。
「何これ…」
突然現れた黒タイツ軍団に、気持ち悪くなるあたしと違い、
九鬼は鼻を鳴らすと、
「なあ〜んだ。下っぱになっただけか」
残念そうに肩を落とした後、ゆっくりと息を吐き、身構えた。
「キイイ!キイイ!」
奇声を発する下っぱ達を睨み付け、
「負け犬が、吠えるな!」
九鬼は、襲いかかってくる数十人の下っぱを迎え撃つ。決して自分からは、攻撃しないで…。
数分後、屋上に転がる下っぱ軍団。
「す、凄い…」
あたしは、感動した。
カウンターってやつだろうか?
九鬼は、ほとんどその場を動くことなく、全員を倒したのだ。
「驚くことはないわ」
下っぱ達が動かないのを確認してから、九鬼はあたしを見た。
「あたしは、あなた達の先輩で…生徒会長。学園を守る為には、それ相当の力がいるのよ」
「で、でも…何か…強すぎるような」
あたしの言葉に、九鬼は苦笑すると、
じっとあたしを見て、
「あたしは、月夜の闇と同じ黒…。あなた達、他の色は、夜空を彩る星と同じ。輝いているのよ。特に、あなたはレッド!輝く星…恒星と同じ」
九鬼はにこっと笑い、
「あなたは、誰よりも強くなるわ」
「…」
九鬼の言葉に、あたしは何も言えなくなった。
なぜなら…微笑む九鬼の瞳の奥が、とても悲しそうだったからだ。
「九鬼…さ」
まだ呼び捨てにできないあたしに、いきなり九鬼は抱きついた。
「危ない!」
あたしがいた場所が、破裂した。
「フフフ…流石は、乙女ソルジャー。我の一撃をかわすとはな」
空中に浮かび、銃口をあたしに向けている謎の怪人…ではなかった。
明らかに、人とは違う生物。
腰に帯刀し、左手は銃口になっていた。
目は一つしかない。
「ま、まさか…魔神か!」
九鬼はあたしを庇いながら、真上を見上げた。
「いかにも!私は、下っぱや怪人より上の階級にいる魔神!ジュウトウホウイハンダーだ!」
「ジュウトウホウイハンダー…?」
あたしは、空に浮かぶ魔神を見上げた。
「フッ」
ジュウトウホウイハンダーは、不適に笑うと、
「ジュウトウホウが名字で、名がイハンダー!気軽にイハンダーと呼んでくれたまえ」
気軽というわりには、銃口はあたし達に向いている。
「レッド」
九鬼はあたしを背にして、
「あなたは、まだ…戦い方を知らない。乙女ソルジャーという戦士の戦いを」
九鬼は乙女ケースを、イハンダーに向けて突きだした。
「何の真似だ?月がなければ、変身できまいて!」
だけど、九鬼は口元を緩めると、
「変身」
呟くように言った。
黒い薔薇の花びらが舞いながら、九鬼を包むと、
そこに戦士が姿を見せた。
「乙女ブラック!?」
あたしは、変身した黒の戦闘服を身に纏った九鬼の後ろ姿を見つめた。
「乙女ブラック…参る」
次回!
乙女ブラックの技が、闇を切り裂く!
そして、もう一人の戦士が現れる!
次回、乙女戦隊月影!第四話
【乙女ソルジャーの秘密】
にご期待下さい。
《月影通信!》
はあ〜い!
皆、元気かな?
月影通信のお時間のですよ。
このコーナーを担当する黒谷蘭花です
今回は、生徒会長が出てきたから、ちょっと雰囲気違ったね。
あの人真面目なんだよねえ〜。
さて、今回出てきたのは、魔神!
怪人を上回る強さを持つ恐ろしい敵です。
でも、乙女ソルジャーは負けないからね。
今までは、ただの変態だったからね…。スタッフも、もう変態が思い付かないみたい。
フェチ関係はでるかもよお!
今のところわかっているのは、
レッドは恥じらうほどパワー上がる!
グリーンは、ビームです。
レッドの頭突きは必殺技といえるのでしょうか…。
というわけで、次回もまたお会いしましようね(^з^)-☆