終幕!そして....
修学旅行から帰ってきて、数日が過ぎた。
花束を持って、病院の廊下を歩く九鬼。
廊下の一番奥にある病室のドアを、軽くノックすると、
九鬼は中に入った。
「生徒会長!」
ベッドの上から、嬉しそうな顔を向けたのは、早奈英だった。
その手には、黒い乙女ケースが…。
微笑む九鬼。
体の状態は、回復に戻っており、そのスピードは早かった。
医者も驚いていたが、乙女ガーディアンになっていたことが、影響を与えているようだった。
早奈英の顔を見て、安心した九鬼は花を花瓶に入れ変えた後…しばらく談笑し、
長居は無用と、病室から出ていこうとした。
「また来るわ」
微笑みながら、ドアノブに手をかけた九鬼に、
早奈英が声をかけた。
「あたし…絶対に元気になります!だから、あたしを…」
九鬼は、早奈英の言葉が言い終わる前に、返事を述べた。
「あなたはもう…月影の一員よ」
その言葉に、早奈英は嬉しそうに笑顔になり、
「はい!」
力強く返事をした。
九鬼が病室から出ると、どこからが歓声が響いてきた。
それは、病院から遠く離れた…広陵学園から。
勿論、九鬼には聞こえない。
ただ前を向き、歩く九鬼には、雑音など気にはしていられなかった。
歓声が、すべての音楽をかき消した。
「え!」
新幹線を降りた理香子は呼び止められ…衝撃の出来事を告げられた。
そして、それを告げた熊五郎に、驚きの顔を向けた。
その美しさに、思わず顔を赤らめながら、熊五郎は頷き、同じことを口にした。
「君の…編入手続きは、完了している。君は、修学旅行を終えた時点で、我が大月学園の二年になる」
それは、驚愕の事実だった。
理香子は、何一つ知らされていなかった。
とうわけで、理香子は大月学園に通っていた。
廊下を歩く度に、歓声がわく。
そんな直接な反応を、理香子は受けたことがなかった。
鈍感な理香子でも、照れてしまう。
「理香子さま〜あ!」
モデルのような理香子の姿を見ようと、廊下から生徒が顔を出した。
(これが…女子校かあ)
理香子は、ため息をついた。
「姫様!」
その取り巻きの中には、うっとりとした表情を浮かべる桃子もいた。
「はい…。転入の手配は済ましております」
テレビ局の廊下を歩きながら、蘭花は携帯で話していた。
「彼女を、引率者に指名したことで…広陵学園の陥落時の混乱から、守ることができましたし」
蘭花は、関係者とすれ違う度に、携帯を下ろし、笑顔で頭を下げた。
蘭花は廊下を曲がり、人通りの少ない方を選んだ。
「心配いりませんわ。お婆様…。すべては、予定通りです」
蘭花は、にやりと笑った。
しばらく、携帯の声を静かに聞いた後、
「はい。もう…絞れました。2人までに」
蘭花は目を細め、
「そうです。まだ…目覚めていません。本人にも…自覚もないようです。月の女神の生まれ変わりであるかもしれないという…」
足を止め、廊下の壁にもたれた。
「広陵学園の件は、予定より少し…早かったですが、計画に狂いはありません。スパイも潜入させましたし…」
そこで言葉を切ると、
「気になることといえば…九鬼真弓が、シルバーの力を手に入れたぐらいです。彼女には、気を抜けません」
そう言ってから、しばらく蘭花ははいはいと、話に答えていた。
「心配ありません。あたしが、乙女ブラックになりましたから…内部から、探りをいれれます。え?酷いですわ…お婆様…。自分の孫に対して…腹黒なんて」
クスッと笑うと、
「あたしは、乙女ブラック。黒の戦士です。月の戦士でありながら、闇と同じ色を持つ者…。それは、あたし達…代々、月の防人としての使命を全うしてきた…黒谷一族も同じ」
蘭花は、虚空を睨んだ。
「心配いりませんわ。お婆様…。やつらにも、渡しませんし…月影にも、邪魔させません」
蘭花は口元を緩め、
「月の秘宝のすべては…我々、黒谷一族のものに」
いやらしく笑った。
画面は変わり、広陵学園の体育館が映る。
先程から聞こえる歓声は、その中から響いていた。
「災禍!災禍!」
生徒達の歓声が、空気を震わす。
生徒達の目は、虚ろだ。
しかし、熱狂の仕方は、尋常ではない。
正面の祭壇には、2枚の巨大な写真が飾られていた。
一枚は、魔将軍ビューティーこと、桂美和子。
もう一枚は、魔将軍教頭こと、田中次郎だ。
「なぜ!2人は、死ななければならなかったのか!」
祭壇の前にいるのは、広陵学園の制服を着た加奈子だ。
その前には、中島と久美子が控えていた。
「闇の為に戦い!闇の為に生きた彼らが!私達の大切な友人が、なぜ!命を散らさなければならなかったのか!」
加奈子は、祭壇を叩くと、
「彼らを殺したのは、我らを邪魔する!月の使者ども!闇の領域を、光で照らす月の下僕達!」
加奈子の言葉に、殺せ殺せと野次が飛んだ。
しかし、その野次を、加奈子は祭壇を叩く音で遮った。
一瞬にして、静まりかえった体育館内に、加奈子の言葉だけが響く。
「しかし!」
加奈子は声を荒げ、
「それは結果的には、我々の為だ!次のステージに上がる我らの礎になったのだ!」
両手を広げ、
「我々は、彼らの為にも、ここに宣言する!」
瞳が赤く輝く。
「ネオ!ダークメイトの設立を!」
加奈子の瞳を見た生徒達は、一斉に足を揃え、背筋を伸ばした。
加奈子は大きく頷くと、右拳を天に突き上げ、叫んだ。
「ジーク!ダーク!」
加奈子の叫びに、整列した生徒達も続く。
「ジーク!ダーク!」
拳を突き上げ、叫ぶ。
何度も、何度も狂ったように…。
「ジーク!ダーク!」
「ジーク!ダーク!」
「ジーク!ダーク!」
「ジーク!ダーク!」
「ジーク!ダーク!」
「ジーク!ダーク!」
「ジーク!ダーク!」
「ジーク!ダーク!」
「ジーク!ダーク!」
ジークダークの叫びの中、久美子の横にいる楓は、心の中で、毒づいていた。
(どこのコロニーの独裁者よ…)
「ただいま!」
家に帰ったあたしは、普通にキッチンへ急いだ。
兄とは、敵味方に別れたとはいえ、
家では普通に過ごすのが、暗黙のルールだった。
「今日のご飯は、何?」
台所で、晩御飯の仕込みをしていた哲也が、振り返った。
「あなたの好きなカレーよ」
「え!?」
カレーは嬉しかったけど、あたしは兄の顔を…いや、体を…全身を見て、絶句した。
「あ、ああ…」
兄を指差し、言葉にならない声を発するあたしに、兄は恥じらいながら、
「じろじろ見ないでよ。恥ずかしいわ」
兄は、女になっていた。
「ど、どうして…」
兄は舌を出し、
「乙女ガーディアンの力を使い過ぎてね。男に戻れなくなったの」
「そ、そんな〜」
兄だった女は、頬に手を当てると、顔を真っ赤にして、
「これからは、里香って…姉貴って呼んでね」
と少し恥じらって見せた。
「い、いやああああ!」
あたしの絶叫も虚しく、
これからは姉と2人暮らしになってしまった。
「ところで、里奈…。あの日が始まったらしいのよ!どうしたらいいのか…お・し・え・て・ね!」
可愛く言う兄…姉に、あたしは悪寒が走った。
(い、一番…いやなことを…)
劇場版 乙女戦隊 月影
完。