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誘う闇へ

「加奈子…」


シルバーは、いつのまにか姿を見せた加奈子を見つめた。


「乙女シルバーの力を得たか!どこまでも、お前!先にゆくな!」


加奈子は悔しそうに、歯ぎしりをした。


シルバーは、加奈子の方に体を向けた。


「だけどな!」


加奈子は、シルバーを睨み付け、


「真の力は、あたしにある!」


黒いコンタクトレンズを指先に取り出すと、両目につけた。


「うわあああ!」


その瞬間、絶叫を上げた加奈子の目から、黒い霧のような力が噴射された。


それは、加奈子を包みながら、膨張し…5メートル程の大きさの竜になった。





「い、いかん…災禍様は、まだ闇の力を…抑えられない…」


ダメージから、動けない哲也は、加奈子の変身に唇を噛み締めた。



「ぎえええー!」


人とは思えない奇声を上げたドラゴンの姿になった災禍の口から、灼熱の息吹が放たれると、


右後ろにあった若草山が燃え上がった。


明らかに、あたし達がいる方向ではない。



「暴走している…」


ブラックは、ドラゴンの様子を見て、呟いた。



「このままでは、奈良公園が焼け野原になるわ!」


シルバーの言葉に、あたしは一歩前に出た。


「止めるわよ!あたし達の力で!」


ドラゴンを睨み、拳を握りしめた。


「でも…あたし達にもう…力はないわ」


ブルーは、自分の力を確かめるように、手を見た。


「月が出て、ムーンエナジーを補助できるとはいえ…力を使いすぎた。万全な状態になるには、あと数分は…」


「そんな時間はないわ!」


あたしは、ブラックの言葉を遮った。


「悩んでる時間も、躊躇う暇もないの!」


あたしはただ…ドラゴンを見ながら、


「あたし達なら、できる!あたし達、6人なら!」



その言葉に頷いたシルバーが、あたしの横に立つ。


「小細工なんていらない!ただ全力でいくわよ!」


あたしの言葉を理解したブルーとグリーンも、横に立つ。


「あ、あたしも!」


流されやすいピンクも、横に立つ。


そんな5人を見て、ブラックはフッと笑うと、


「わかったわ…。これが、あなた達なのね」


横に並んだ。



「いくよ!みんな!」


あたしの号令に、


「おう!」


みんながこたえたと同時に、一斉に走り出した。


ドラゴンに向けて、助走をつけると、


6人はジャンプした。


「月影!」


6人の右足が輝き、闇を切り裂く。


「キック!」


6つの光が、1つになり、巨大な槍と化した。





その時、暴走するドラゴンの前に、1人の男が飛び込んできて、両手を広げた。


「中島さん!?」


キックを放つブルーは、盾になるつもりの中島に気付き、驚いた。


しかし、6人のキックは止まらない。


ドラゴンも、こちらを向くと、闇の息吹を吐き出した。



「駄目え!」


月影キックと、闇の息吹に挟まれる形になった中島に向かって、飛び付いて来た1人の少女。


「姫様!?」


ピンクは絶句した。


飛び込んできたのは、理香子だった。


「中島…」


中島を抱き締めた理香子の体を、光の球体が包んだように見えた。


蹴りを放ってから、コンマ数秒の出来事だ。





6人の月影キックは、光の球体をすり抜け、


闇の息吹を押し返すと、ドラゴンの全身を貫いた。



「うぎゃあ!」


加奈子を包んでいた闇のオーラが吹き飛び、


変身が解けると、芝生の上を転がった。


6人の乙女達は、芝生に着地した。



「そ、そんな…馬鹿な…」


加奈子の両目にはめられていたコンタクトレンズが、落ちると…粉々に砕けた。


「ま、負けるものか!あたしは、あんたらには!」


加奈子は立ち上がると、どどめ色の乙女ケースを突きだした。


「まだ…あたしには、これがある!そうちゃ…」


叫ぼうとした加奈子の腕を、哲也が掴んだ。


「災禍様…。今は引きましょう。この状況は、こちらにとって不利です。5人の乙女ソルジャーに…2人の乙女ガーディアン…」


「ふ、2人?」


哲也は導くように、視線を後ろに向けた。


その方向を見た加奈子は、絶句した。









「中島…大丈夫?」


何も考えずに、飛び込んだ理香子は…中島に自分から抱きつき、押し倒す格好になっといることに気付いて、慌てて離れた。


「相原…」


中島は、起き上がることなく、月を見上げ、


「ありがとう…」


「えっ!あっと〜」


素直にお礼を言われると、理香子は照れてしまう。


「べ、別に!た、助けようとお、思って…やったわけじゃないから!」


素直な返事ができなかった。そっぽを向く理香子に、中島は笑った。


そして、ゆっくりと立ち上がると、理香子を見つめ、


「ありがとう…。だけど、相原に助けられるのは、今日で最後だ」


強い口調で、理香子にお別れの言葉を述べる。


「君が、その力を手に入れたんなら…俺と君は、戦う運命にある!さよなら、相原…」


中島はゆっくりと背を向けると、歩き出した。



「中島!」


訳がわからず、追いかけようとした理香子を、中島は一喝した。


「来るな!」


理香子はびくっと、身を震わせた。


そんな理香子を見れない中島は、顔をしかめながら、


「世界が…違っていたら…俺は絶対に…」


中島は唇を噛み締め、


「大好き…だったよ。理香子…」



「中島!待って!あたしも!」


中島に走り寄ろうとした理香子の前に、三人の女が飛んで来て、道を塞いだ。


「この人達は!?」


前に立ち塞がる三人を、理香子は知っていた。



「久し振りね。理香子さん」


そして、三人の後ろから、現れた人物に、理香子は仰天した。


「お姉さん?」


中島の姉であり、演劇部の部長である紅美子がいるなんて、予想外であった。


道を塞ぐ三人も、演劇部の部員である。


「話は、考えてくれたかしら?」


微笑みながら、きいてくる紅美子の質問に、理香子は眉を寄せた。


「え?」


「一応考えましたけど…」


理香子の後ろから、楓が前に出た。


「あなたなら…あたし達の幹部になれるわ」


「そうですね…」


紅美子は、理香子ではなく…楓に話しかけていた。


「か、楓?」


理香子は、楓の手を掴もうとしたが、


楓はそれを拒んだ。



「か、楓?」


戸惑う理香子に、楓は体を向けると、微笑んだ。


「理香子…いえ…」


楓はゆっくりと首を横に振った後、理香子を見つめ、


「乙女プラチナ」



「お、乙女…プラチナ!?」


楓に言われて、理香子は自分の姿に気づいた。


先程は、中島がそばにいた為、どきどきして自分の体のことなんて、見る余裕がなかったのだ。


改めて見てみると、眩しい戦闘服を着ているし…眼鏡までかけていた。


視力がいいのに。



「さっき…あんたが、中島を助けようと飛び込んだ時…あんたを助けようと、どこからか、眼鏡が飛んできたわ」


「え!」


自分では、まったく気がつかなかった。



「乙女プラチナの適合者となり…我らを裏切りし、あなたに…弟をあげる訳にはいかないわ」


紅美子は腕を組み、理香子を軽く睨んだ。


「え?」


理香子には、意味がわからない。




「理香子…。あたしは…あんたと違って、居場所が少ないからさ」


楓は悲しく微笑むと、ぽかんとしている理香子に手を振り、


「じゃあね!理香子!」


あっさりと、紅美子のもとへ歩き出した。



「楓!待てよ!」


追いかけようとした理香子は、いつのまにか周りを黒い影に、囲まれていることに気付き、足を止めた。


春日大社の近くにある鹿の角切り場や、林の影から…百人以上の学生服の男女が姿を見せた。


「あ、あたしの学校の制服?」


それは、広陵学園の生徒達だった。






「これは…?」


シルバーは、周りを見回した。


あたし達も囲まれていた。


「クッ」


ブラックは、顔をしかめた。



「心配しなくてもいい」


哲也は疲れている加奈子に肩を貸しながら、警戒する乙女ソルジャー達に、話しかけた。


「お兄ちゃん…」


あたしは、傷だらけになっている哲也の方を見た。


哲也は軽く微笑み、


「…彼らが束になっても、今の君達には、敵わない…」


「チッ!どけ!」


加奈子は、そんなことを言う哲也の肩を振りほどくと、 シルバーを睨んでから、背を向けて歩きだした。



「災禍様」


理香子から離れた紅美子が、加奈子に向けて頭を下げた。


演劇部の部員の2人が、加奈子に近づくと、肩を貸した。



「…」


哲也は無言で、乙女ソルジャー達に背を向けた。


加奈子が去っていくと、広陵学園の生徒達も、その後にぞろぞろとついて行った。





乙女ソルジャー達だけを残し…奈良公園に静寂が戻った。


野生の鹿がいる為に、外灯の少ない公園内は、すぐに真っ暗になる。



明かりといえば、真上に浮かぶ…月しかなかった。




「フッ」


気を失っている早奈英のそばにいたシャドウイハンダーも戦いの終焉を感じ、日本刀を消した。


すると、シャドウイハンダーは十夜小百合に変わり、静かに歩きだした。


奈良公園から去っていく十夜の足下には、代替えポケホウダイン達の残骸が転がっていた。






そんな十夜の後ろ姿を、目で見送っていたシルバーは、眼鏡を取ると、九鬼に戻った。


そして、ゆっくりと頭を下げた。




「九鬼…」


あたし達も、変身を解いた。


九鬼は、もう姿が見えなくなった加奈子達が去った方を見つめた後、頷いた。


そして、芝生の上に横たわっている早奈英を抱き上げると、


「帰りましょう…あたし達も」




「うん!」


あたし達も頷いた。






次の日。


奈良駅前で…あたしは、信じられない事実に頭を抱えた。


「もお〜帰るの!」




「当たり前だ!二泊三日だから」


顔に包帯を巻いた熊五郎が、帰り支度をしながら、


「今回は、災難続きで…早く帰りたいよお〜」


本音を漏らした。



「だって!あたしは、何もしてないよ!奈良に来たのに、鹿と戯れていないし!鹿せんべいもあげてないよお!」


嘆くあたしの肩に、蒔絵が手を置いた。


「安心しろ…鹿せんべいは、食えたものじゃない」


蒔絵の言葉に、夏希は呆れた。


「当たり前じゃない〜」


だけど!


「まじなの!」


あたしは驚き、蒔絵の顔を見た。


「まじだ!」


蒔絵は、お好み焼きをパクつきながら、力強く頷いた。






奈良から京都に出て、新幹線に乗り込んだ大月学園一行は、関西を後にする。



新幹線の窓際に座り、ぼおっと遠ざかっていく町並みを見つめながら、理香子の瞳から無意識に、涙が流れた。


行きは、隣にいた楓が…帰りはいない。



広陵学園も、修学旅行に来ていたらしく…楓は彼らと同流した。



昨日の戦いの後、眼鏡を外し、プラチナから理香子に戻ると、


乙女ケースを投げ捨てようとした。


しかし、早奈英を抱き抱えていた九鬼に止められた。


そして、九鬼の口から、乙女ソルジャーやガーディアン…そして、闇のことを教えられた。



その晩に泊まる旅館に入っても、理香子は九鬼の話を信じられなかった。


1人になった部屋で、理香子が崩れ落ちた時、


テーブルの上に、楓の置き手紙があることに気づいた。


どうやら、楓が先に来たようだ。



理香子は、その手紙ですべてを知った。


中島の家は、闇の女神と言われる平城山加奈子の親戚であり、


家族共々…ダークメイトに参加することになってしまった。


それは、中島自身も例外ではない。


そして…広陵学園も、ダークメイトの手に落ちたことを…。



楓もまた…彼らの誘いを断ると、広陵学園を退学しなければいけないことを…。




窓に映る自分の涙に気付き、理香子は慌てて拭うと、ピンクのチェーンバックから、乙女ケースと昨日の手紙を取りだし、握り締めた。



「あたし…決めた!この力で、やつらをぶっ潰して…中島も楓も自由にしてあげる!」


理香子は、戦う意志を決めた。


そして、もう泣かないことも、心に誓った。





新幹線は、関西を抜けた。







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