乙女ナイト
「あ、熱い…」
膝を落としたあたしを見て、ダイヤモンドの攻撃でふっ飛んだシルバーが叫んだ。
「自分を保って!あなたなら、できるはずよ!」
「あ、熱過ぎる…」
力が溢れる自分の体を、あたしは制御できなかった。
まるで、サウナに冬山登山の格好で入ってるようなものだ。
頭がくらくらして、ぼおっとしてきた。
あたしは崩れ落ち、両手を芝生につけた。
「駄目…」
目がかすれ、自分の手も見えなくなってきたとき、あたしを照らしていた月の光が、前に立った者によって遮られた。
「せめて…一撃で、楽にしてやろう」
あたしの目の前で立ち止まったダイヤモンドは、拳を握りしめた。
「レッド!」
グリーンが叫ぶ。
転送で、力をレッドに送った為に、月の下でも、
まだムーンエナジーが体に行き渡らず、4人の乙女ソルジャーは動けなかった。
「恥じらうのよ!」
ブルーが叫んだ。
乙女レッドは、恥じらえば恥じらう程…パワーを無限に上がれるのだ。
「馬鹿め!」
ブルーの言葉に、ダイヤモンドはせせら笑った。
「いつもの如く!パンツでも見せて、恥じらうのか?」
ダイヤモンドは両手を広げ、
「ははは!残念だったな!乙女ガーディアンであるわたしは、男ではなく、今は女になっている。わたしに見られたとして、何を恥じらうか!女同士!恥ずかしいはずがない!」
確信を持って、断言したダイヤモンドの前で、
あたしは、小刻みに震えながらも、いつのまにか立ち上がっていた
「な、何だって!」
その震えは、怒りからだった。
揺らめいていた闘気が安定すると、
戦闘服が、真紅に輝く。
「あ、兄が!女になることが!」
あたしは拳を振り上げた。
「一番、恥ずかしいわ!」
渾身のパンチが、ダイヤモンドの胸元に炸裂した。
あたしのパンチを受けたダイヤモンドは、絶句した。
胸元に拳の跡が残ると、そこからダイヤモンドの戦闘服に亀裂が走っていたのだ。
「あり得ん!」
戦闘服のダメージを見て、ダイヤモンドは初めて、狼狽えた。
今の一撃に、結構な力を込めたようで、あたしの体から、乙女ナイトのパワーがなくなりかけていた。
もともと自分で、ナイトになった訳でないから、力が安定していないのかもしれない。
「レッド!」
シルバーが走ってくると、あたしに向かって、両足をつけながら、ジャンプした。
「残りのナイトの力を、あたしに!」
シルバーの言葉に頷くと、
あたしの体に残る乙女ナイトの力を放出するかのように、シルバーの両足を蹴り上げた。
「月影!」
シルバーの足が、オーラで燃え上がる。
「だが…まだ!砕けてはいない!」
ダイヤモンドは天を見上げた。
「貴様の攻撃を避ければ…!?」
シルバーの光速の蹴りを見切ろうと、眼鏡をスコープに切り替えたダイヤモンドが、見たものだ。
月の下に浮かぶ…無数のシルバーの姿だった。
「残像!?」
唖然とするダイヤモンドに向けて、無数の流星が落ちてくる。
「流星キック!」
とシルバーが叫んだ時には、その身は地上に降り立っていた。
「ば、ば、馬鹿な…」
ダイヤモンドの戦闘服が砕け散り、
哲也に戻ると、
そのまま崩れ落ちた。
ダイヤモンドの戦闘不能を確認した乙女ソルジャー達は、歓喜した。
「やったあ!」
ピンクが両手を上げ、
「よ、よかったあ…」
ブルーもその場で座り込むと、ない胸を撫で下ろした。
「フッ」
ブラックは鼻を鳴らし、
「だり〜なあ!」
グリーンは大あくびをした。
「お兄ちゃん…」
あたしは嬉しかったけど、倒れた兄を見ると、心が傷んだ。
そんなあたしを、心配げに見たシルバーは、全身の力を抜いた。
「何を安心している?」
シルバーは突然聞こえた声にはっとして、後ろを見た。