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繋がる手

「理香子…」


茫然自失状態になっている理香子のそばに来た楓は、ゆっくりと話し出した。


「あの目は…おかしいよ。多分、中島はさっき見た怪人達に、操られているんだよ。絶対」


楓の言葉にも、しばらく反応しなかった理香子はやがて、静かに微笑んだ。


「ありがとう…楓」


「理香子…」


その微笑みが、楓には悲しかった。


「あたし…」


理香子は体を、楓に向け、


「あんな言葉じゃ…納得しないから!」


そして、両拳を握り締めると、


「あたし!もう一度…中島と話してみる!いえ、話したい」


「うん!」


理香子の決意に、楓は頷いた。


「探そう!中島を!」


「うん!」


2人は頷き合い、走り出した。


中島が消えた方へ。





「月よ…あたしに、力を!」


九鬼は、乙女ケースを握り締めた。


「これが、最後でも構わないから!」


姿を見せたばかりの月の光に照らされて、九鬼の願いが叶ったのか…乙女ブラックへと変身した。


「来い!その中途半端な力でな!」


乙女プラチナは悠然と、両手を広げた。




(いつまで、変身できるか…わからない!)


九鬼は走りながら、短期戦を挑むことに決めた。


「ルナティックキック零式!」


ジヤンプしたブラックの蹴りを、プラチナは胸板で受け止めた。


ブラックはキックが決まると同時に、回転し、地面に両手をつけると、逆立ちの格好で足を曲げ、


そして、プラチナの顎目掛けて、足を突き上げた。


「ルナティックキック二式!」


しかし、プラチナの顎が少し上に上がっただけだ。


ブラックは、バク転をすると、今度は飛び上がり、


「ルナティックキック三式!」


爪先を軸にして、駒の如く回転した。


「舐めるな!」


二の腕で、三式を受け止めたプラチナは、片手だけでブラックをはね飛ばした。


ブラックの体が、中に舞う。


まだ真上に来ていない月を背に受けて、ブラックはプラチナの頭上に飛翔する。


「ルナティックキック四式!」


右足を月に向け、ムーンエナジーを補給する。


「別名!月影キック!」


重力を利用した直下型の蹴り!


月影キックが、プラチナの頭の上に突き刺さる。





「な、何!?」


ブラックは絶句した。


「舐めるなと言っている」


顔を上げたプラチナは額で、月影キックを受け止めていた。


プラチナのムーンエナジーが、ブラックの足に絡みつく。


「フン!」


気合いだけで、吹き飛ばされたブラックの体が、中に舞う。


「プラチナボンバー!」


「乙女バリア!」


とっさに、ムーンエナジーで盾を作るが、プラチナから放たれ衝撃波は、バリアを突き破り、ブラックの体を直撃した。


受け身すら取れない形で、ブラックは奈良公園の芝生に激突した。


地面が吹き飛び…クレーターのような穴ができ、


その中で、ブラックは九鬼に戻っていた。



「呆気ない…」


プラチナは首を回すと、ゆっくりと九鬼のもとへと歩いていく。


「貴様に、月影を名乗る資格はない。この地で、死ぬがよいわ」


厚化粧のおかまのような顔を歪めて、プラチナが含み笑いを浮かべた。



「九鬼!」


先程の九鬼の落下の衝撃音を聞いて、夏希と蒔絵…そして、蘭花が走ってきた。


「フン!中途半端の次は、出来損ないか!」


プラチナは、九鬼の前に立つ3人を見つめ、


「折角の獲物だ。乙女ケース!頂くぞ!」




「あたし達を舐めるな!」


夏希はプラチナにすごんだ後、後ろにいる蘭花に顔を向け、


「黒谷さん!危ないから、下がって!」


「フッ」


その言葉に、蘭花は笑った。


夏希はまだ…蘭花の正体を知らない。


蘭花は大人しく下がると、衝撃で出来た穴の中にいる九鬼の方に体を向けた。




「装着!」


珍しくやる気のある蒔絵も、夏希とともに変身する。


そして、


「乙女ビーム!」


「乙女スタンガンマックス!」


至近距離からのビームの直撃と、スタンガンの電撃を受けるプラチナ。


しかし!


「クズどもが!」


プラチナは、気合いで跳ね返した。


「きゃあ!」


ふっ飛ぶ2人。


その時、プラチナのこめかみに、何かが当たった。


「うん?」


プラチナの眼鏡がスコープになり、遠くの方でこちらに、銃口を向けている乙女ピンクをとらえた。


また銃弾が、プラチナの眼鏡に当たった。しかし、プラチナは微動だにしない。


「蠅が五月蝿いわ!」


プラチナの手から、光の糸が飛び出すと、数十メートル離れた岩陰から、乙女ライフルで狙撃していたピンクが、いぶりだされた。


「乙女念動力!」


ピンクの体が中に舞うと、まるで釣竿で釣られた魚のように、倒れているブルー達のそばに引き寄せられた。


「ハハハ!これで、三匹!今日は、大漁だ!」


高笑いをするプラチナの前で、立ち上がった三人は、各々の乙女ケースを突きだした。


「兵装!」


乙女ケースが武器に変わる。


「乙女青竜刀!」


「乙女ミサイル!」


「乙女キャノン!」


三人は武装した。



「くらえ!」


グリーンの背中にショルダーバッグのように装着されたキャノン砲が、照準をプラチナに向けた。両肩に乗るような姿になった…二本の砲台から、強力なビームが発射された。


「ファイヤ!」


ピンクは、ミサイルランチャーを発射した。



すべての攻撃が、プラチナに直撃した。



「よくも乙女の恋心を利用したな」


ミサイルによる爆風が治まる前に、ブルーの青竜刀が月の光を受けて輝く。


「乙女ダイナミック!」


上段に振り上げた青竜刀を、一気に振り下ろした。


衝撃波が、プラチナを切り裂いた。



「なるほど…」


プラチナの体は、乙女ソルジャー達の攻撃で、1メートル程後ろに下がっていた。


爆風が消えると、右肩から腹にかけて傷が走っていた。


「戦士としての…第一段階は、超えているのか」


不敵に笑いながら、プラチナが手を傷口にかざすと、


戦闘服はもとに戻った。


「しかし…これくらいの攻撃では、乙女ガーディアンに傷一つつけれんわ!」


プラチナは気合いを入れると、戦闘服が盛り上がった。


「見せてやろう!乙女ガーディアンの力をな!」





「え…」


一瞬にして、目の前から消えたプラチナは、一番後方にいたピンクの鳩尾に、拳を叩き込んだ。


「フン!」


拳が光り、ピンクの体が月の下に舞った。


「戦闘服の丈夫さに、感謝するんだな」


そして、地面に落下したピンクは、動けなくなった。


落下の衝撃より、拳の痕が残る鳩尾からの痛みが、全身を痺れさせていた。


「乙女ビーム!」


グリーンは咄嗟に、背中を向けているプラチナに、ビームを発射した。


「フン!」


プラチナは振り向くと、左手を突きだし、手のひらでビームを跳ね返した。


「だったら!」


グリーンの手にノコギリ状のリングが出来ると、プラチナに向かって、投げつけた。


「乙女スフラッシュ!」


光のリングが、無軌道で中に舞うと、プラチナに斬りかかる。


「いい技だが!」


プラチナの拳が輝くと、


「どりゃあ!どりゃあ!」


無数の拳がオーラのように現れ、軌道を読めないリングを破壊した。


「プラチナボンバー!烈風!」


「な」


風が頬を当たったと、脳に情報がいく前に、無数の拳がグリーンを連打した。


「馬鹿な…」


ふっ飛ぶながら、グリーンは今の攻撃が信じられなかった。


芝生を削りながら、地面を転がるグリーン。



「よくも!グリーンとピンクを!」


ブルーは、青竜刀の切っ先を前に向けると、プラチナに突進した。


「甘い」


プラチナは指先で、青竜刀を掴むと、片手でブルーごと持ち上げると、


後方に投げ捨てた。



「きゃあ!」


背中から、地面に激突するブルー。


プラチナは倒れている乙女ソルジャー達を見回し、両手を広げた。


「素晴らしい!乙女ガーディアンの力!」


そして、月を見上げ、


「月よ!口惜しかろうて!本来ならば、月を守る力が!月を破壊する為に、利用されているのだからな!」


大笑いをした。


「恨むならば!無力な貴様の戦士達を恨むがよいわ!」


月の力を得て、さらに輝く乙女プラチナが、夜になり静まりかえった…奈良公園の広大な春日野園地内に、妖しい姿を晒していた。


圧倒的な力で、乙女ソルジャー達を駆逐する乙女プラチナの姿を尻目に、


蘭花はクレーターのような穴の中にいる九鬼を見下ろしていた。


「どうするの?生徒会長。あなたの大切な学園の生徒であり…仲間である乙女ブルー達が、殺されるわよ」


他人事のように言う蘭花の口調に、変身が解けた九鬼は何とか首を動かし、穴の縁に立つ蘭花を見上げた。


「あ、あなたこそ…いいのか…。乙女ソルジャーは…5人いなければ…真価を発揮しないはずだ…」


「そうね」


蘭花は軽く肩をすくめ、


「だからこそ…今までの月影は、真の力を発揮できずに、個人技だけが特化した。まあ…ブラックが偽者だったし…」



その言葉に、九鬼は蘭花を軽く睨んだ。



「だったら、どうして!出てこなかった!」


九鬼の怒気を含んだ言葉に、蘭花は少し九鬼の顔を見つめた後、ブルー達の方へ顔を向けた。


何度倒されてれも、ブルー達はプラチナに向かっていく。


「あたしは理事長の孫…。学園の先生に、やつらの幹部がいる為、なかなか動けなかったのよ。それに…アイドルでもあるしね」


「…」


九鬼は、蘭花の横顔を見つめた。



「やつらから、乙女ケースを奪い…学園に逃げ込んだ半月ソルジャーの行動は、偶然ではなく…必然」


蘭花は、黒い乙女ケースを取りだし、


「つまり…学園にある乙女ケースは、五つ!あなたの持つケースは、何?どこから得たの?あたしは、それがわからなかった」


逆に、蘭花が九鬼を睨み、


「そして、乙女シルバーの登場!ガーディアンシリーズで確認されていたのは、2つだけ!大月学園に保管されていたダイヤモンドと、広陵学園にあったプチチナ!」


蘭花の手にある乙女ケースが、月の光を得て輝いた。


「いずれ目覚める月の女神を護る為、戦士の為に残された力!しかし、その2つは…やつらに奪われた」



「だから…」


九鬼はふらつきながらも、立ち上がった。


「月は、シルバーの力を復活させた。やつらに対抗する為に…目覚めかけている女神を護る為に…」


「女神…それだけが、わからない…。あなたは、知っているのか?」


九鬼の問いに、蘭花は首を横に振った。


「さあ…」


そして、真上の月を見上げ、


「でも…近くにいるはず…。目覚めはじめた女神が…」




「あたしは…」


九鬼は、穴から出ようとする。


「今は…女神よりは…あの子達を守りたい」


だけど、九鬼の体のダメージは回復しておらず、足にきていた。


また倒れそうになる九鬼の腕を、屈んだ蘭花の手が掴んだ。


「黒谷さん?」


「生徒会長…。あなたの力が必要よ」



九鬼は蘭花の言葉に、目を見開いた。


「い、いいのか?あたしは…あなたの…」



「フッ」


蘭花は一度目を瞑った。そして、ゆっくりと開けると、口調を変え、笑顔で答えた。


「何言ってるのよ!今日は、あなたとあたしで、乙女ブラックよ」


明るく言う蘭花に、九鬼は苦笑すると、倒れそうだった体を起こした。


そして、真っ直ぐに穴の中で立つと、微笑みながら、改めて手を差し出した。


蘭花も無言で、その手を握り締めた。






「行きましょう」


穴から出た九鬼と蘭花は、ゆっくりと歩き出した。




「勝てるの?」


蘭花の質問に、九鬼は頷いた。


「あたしのすべてをかけたら…」


九鬼は、何度も立ち上がるグリーンとブルーを軽くあしらっているプラチナを睨んだ。


「いくわよ!」


九鬼の号令に、蘭花は頷くと…2人は走り出した。





「九鬼…」


グリーンは片膝をつきながら、走ってくる九鬼を見つめた。


「く、黒谷さん…?」


ブルーは腫れた目で、黒谷を見た。





「装着!」


突きだした2つの乙女ケースが輝き、



2人の乙女ブラックが出現した。


「お、乙女ブラックが2人!?」


動けないピンクが、驚いた。



「ブラック!いくぞ!」


九鬼ブラックの言葉に、


「おお!」


蘭花ブラックが頷いた。


まったく同じ姿をした2人が、プラチナに向けてジャンプした。



「ほお」


感心したように頷くと、プラチナは2人の乙女ブラックに、体を向けた。そして、にやりと笑うと、


「たかが、クズが2人になっただけで!何ができるか!」


また両手を広げた。



「とお!」


2人のブラックが、ジャンプした。


「ダブルブラック!キック!」




「また!アホの一つ覚えの蹴りか!」


胸板をさらけ出し、蹴りを受け止めようとする。


「効くかあ!」


笑うプラチナに蹴りが決まる瞬間、ブラックは九鬼に戻った。


「九鬼!」


ブルーが叫んだ。


誰もが、九鬼の変身が解けたと思った。


九鬼は叫んだ。


「乙女ブラック!ファイナルキック!」


九鬼の右足が、太陽のように輝いた。


よく見ると、九鬼の右足の先だけが、ブラックのままだった。


乙女ブラックの力そのものを、敵に喰らわす。


乙女ソルジャー最後の技。


生身をさらす為、技を放つことさえ危険な技。





「馬鹿な…」


2つの蹴りを喰らった瞬間、プラチナはふっ飛んだ。



中に舞う…2つの影。


一つは虚空に消え、


もう一つは芝生に転がると、



初老の男に変わった。



「そ、そんな…あり得ない!乙女ガーディアンの私が!」


狼狽える男の顔を見たとき、ブルーは絶句した。


「き、教頭!?」




苦労してきたか…鮮やかな白髪に、鮃のように目が離れた顔をした教頭は、あるものがないことに、気づいた。


「眼鏡がない!乙女ガーディアンの眼鏡が!力が!」



芝生に膝をつけ、眼鏡を探す教頭の後ろに、誰かが立った。


「探しても…無理ですよ」


その声に、はっとした教頭が振り返り、顔を見上げた。


「結城先生!一緒に探してくれたまえ!私の眼鏡が…ない…」


立ち上がり、哲也にすがりつこうとした教頭の背中から、血が噴き出した。


「え?」


教頭は、自分に起こったことがわからなかった。


哲也は、教頭に笑いかけ、


「あなたは…乙女ガーディアンの資格を失った…」


「そ、そんな馬鹿な…」


教頭の胸から背中まで、哲也の右腕が貫いていた。



「あなたはもともと…プラチナとのシンクロ率が低かった。それでも、無理矢理…変身していた」


冷たい哲也の言葉に、教頭は最後の力を振り絞って、哲也の首に手をかけた。


「私は…魔将軍だぞ!それに、小娘どもに負けてもいない…」



「フッ…」


哲也は首を絞められながら、笑った。


「あなたは、乙女ガーディアンの資格を失った…。それだけで、敗北を意味する」


「わたしは…幹部ぞ!それに、今まで…組織の為にいいい!」


教頭が、思い切り指に力を入れた瞬間、


哲也の体が輝き出した。



「敗北者には、死を!それが、ダークメイトの掟だ!」


乙女ダイヤモンドに変身した哲也が、拳を握り締めると、


教頭の体は爆発した。




「酷い」


ブルーは顔を伏せた。


「チッ!」


グリーンは舌打ちをし、


「乙女ダイヤモンド…」


蘭花ブラックは、絶望した。


「諸君!」


ダイヤモンドが腕を払うと、まとわりついた血は綺麗に取れた。


そして、一歩前に出ると、乙女ソルジャー達を見回し、


「先程の不完全な乙女ガーディアンの力を、お見せしたことを詫びよう」


頭を下げ、


「ここからが…本当の地獄を…」


顔を上げると、ダイヤモンドは女になり、


「味合わせてあげる」


妖しく微笑んだ。





「お、終わったわ…」


蘭花ブラックは膝から、崩れ落ちた。




「ウフフ…」


ダイヤモンドは、楽しそうに笑うと、


蹴りを放った後…倒れ、動けない九鬼を見つめ、


「最後まで…何をするかわからない…九鬼は、奥の手を使い、燃え尽きた!そして!」


ダイヤモンドが、後ろを振り返ると、さっきまでなかった巨大な十字架が地面に突き刺さっていた。


そこに磔にされている者は…。


ブルーは一瞬、息が止まった。


「そ、そんな…」





ダイヤモンドは口元を緩め、笑った。


「最後の希望も潰えたでしょ?」




十字架にかかっていたのは、結城里奈だった。






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