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18/30

奈良へ

お約束の温泉に、夏希や蒔絵…蘭花の入浴シーンのワンカットが、画面に映る。


なぜか、半田先生だけが、全裸でポーズをつけていた。


勿論、大事なところは石鹸で隠されている。



次は、就寝シーン。


部屋に敷いた布団に、思い思いの格好で寝る月影メンバー。


九鬼だけが、窓のそばに立ち、月明かりに照らされている乙女ケース達を見つめていた。





そんなこんなで、次の日。


朝ご飯を食堂で終えた一向は、旅館から少し離れたバス停留所を目指した。


途中、魔神自動販売機が置かれていた場所には、何もなくなっていた。


だからと言って、夏希は別に気にもしていなかった。


それよりも、中島との運命の再開に興奮していた。



バスに乗り、一同は近鉄京都駅へ向かう。


そこからは、近鉄電車で、奈良駅を目指す。


一時間程、揺れていると、大月学園の生徒達は、近鉄奈良駅についた。


ぞろぞろと女の集団が、階段を上がり…奈良の地に姿を見せた。



駅前の行基像の前で、生徒達は集合する。



「今から、自由時間だ!その際は、ちんと班毎に行動するように。夕方、ここに集合しろ」


熊五郎の言葉で、生徒達は散らばった。



「それにしても…なんて、自由行動が多いのよ」


理香子のぼやきに、


「番組の都合よ」


楓がこたえた。


駅前から、奈良公園まではなだらかな坂になっていた。


「君達も、生徒達をよろしくな」


熊五郎は、引率者である理香子と楓に言った。


「わかりました」


楓が返事をすると、理香子の周りに人だかりができた。


「相原せんぱあ〜い」


アイドルを見つめるように、目をきらきらさせた女生徒達。


「どこいかれます」


しなをつくる女生徒の中に、竜田桃子もいた。


「姫様」


桃子は、理香子の大ファンだったのだ。




「自由行動か…」


九鬼は、早奈英を車椅子に乗せながら、


「そちらの方が、有難い」


呟いた。


敵は、あたし達を狙ってくるだろう。


それに…加奈子に、早奈英の正体がばれてしまった。


「九鬼さん?どこにいかれますか?」


九鬼の横に、蘭花が来た。


「そうですね。あたしは、引率者ですから、皆さんの行きたいところを案内しますわ」


九鬼は笑顔で、こたえた。


「そうですか…」


蘭花は腕を組み、九鬼に背を向けて、少し考え込むと、


「奈良って…確か…かぐや姫伝説の発祥の地ですよね」


また九鬼の顔を見た。


「ええ…でも、ここからは遠いですけど…」


「広陵の地でしたね」


妖しく微笑む蘭花のそばん理香子と楓達が、通った。


「確か…姉妹校の名前も、広陵…」


「…」


九鬼は、探るような蘭花の瞳に、気付いた。


「偶然かしら?」


クスッと笑った蘭花の印象に、九鬼は危険なものを感じた。


「まさか…」


九鬼は、車椅子を背にすると、蘭花を睨んだ。


「ダークメイトか」


「違うわよ」


すぐに否定すると、蘭花は肩をすくめ、


「まさか…あなたのような偽者に、ダークメイト呼ばあにされるなんてね」


「何?」


凄む九鬼に、蘭花はあるものを見せた。


「そ、それは!」


唖然とする九鬼の目の前に、黒い乙女ケースがあった。


「あたしの偽者が、真の乙女ブラックであるあたしを、ダークメイトと言うの?」


蘭花は嘲るように、笑った。


絶句して、何も言えなくなる九鬼に、


「乙女ケースに、選ばれた…あたし達戦士と違い、あなたは部外者。だけど、今までのあなたの功績は、評価してるわ」


「…」


九鬼は、拳を握り締めていた。体の震えが止まらない。


「それに…あなたはもう、変身できない。だから、もう…あたし達に任せて、もう引退したら、どうですか?」


何も言い返せない九鬼に代わって、早奈英が叫んだ。


「それは、違うわ!九鬼さんは!」


「いいのよ。早奈英さん」


九鬼は、早奈英の言葉を遮った。


「牧野さんでしたっけ?」


蘭火は、九鬼の横を通り過ぎると、車椅子の前に立った。


「こんな体ですけど…あなたも、乙女ケースに選ばれた戦士…。泣き言は許しません。あたしが、月影に加わったからには、今のようなだらけた風潮は、なくしますので」


ちらりと、九鬼を見ると、蘭花は奈良向けて歩き出した。



「どうしたんだ?」


いつものまにか、たこ焼きを買った蒔絵が、隣にいた。


「え?」


いつになく、真剣な蒔絵の口調に、九鬼は驚いた。


「あいつより、あたしはお前が好きだ。うざいを通り越してるお前がな」


蒔絵は、たこ焼きをパクつきながら、奈良公園に向けて歩き出した。


その後ろを、夢見心地の夏希が、ふらふらと続いていく。


九鬼は、車椅子を押して、歩き出そうとした。


すると、後ろから、呼ぶ声が聞こえた。


九鬼が振り返ると、熊五郎が走り寄ってきた。


「九鬼!お前、平城山を知らないか?昨日から、帰ってないんだ。一応、半田先生には、連絡はあったらしいんだが…」


「そうですか…。あたしは、知りませんが?」


「そうか…。一応、引率者が減ったから、何かあったら、頼むわ」


「はい」


九鬼は頷いた。


そして、頭を下げた後、蒔絵達の後を追った。





奈良駅から、真っ直ぐ奈良公園を進んでいき、春日大社の手前で左に曲がると、


世界遺産である東大寺へと続く道に入る。


左側に広大な公園と、右手にはお土産屋が並んでいる。


我が物顔で道を塞ぐ鹿。


他の学校の生徒や、クラスメイトが、鹿と戯れる中…一目散に、大仏殿を目指す月影一行。


たこ焼きから、お好み焼きにスイッチした蒔絵。


南大門の石段を登る為、九鬼は車椅子を持ち上げた。


向かって右にある吽形。左にある阿形。


高さ8.4メートルある像は、わずか69日で作られたと言われている。


九鬼は、その圧巻な姿に圧倒された。


左の阿形の遥か上には、板場がある。


あまり知られていないが、昔そこに盗賊が、住んでいたのだ。



また車椅子を持ち上げ、南大門を降りると、大仏殿は目の前だ。


「大仏見るのに、金かかるんかよ。やめて、焼きそば買おうぜ」


罰当たりなことを言う蒔絵。


「うん?」


九鬼は、車椅子を止めた。


「生徒会長!」


早奈英も気付いた。


「闇の波動!?」


先頭を歩いていた蘭花も、足を止めた。


「え?」


ぼおっとしていた夏希の前に、立ち上がった鹿がつぶらな瞳で、見下ろしていた。


鹿は蹄で、夏希の顔を殴ろうとした。


「夏希!」


九鬼の叫びに、夏希ははっとしたが、よけれない。


「危ない」


誰かが飛び出してきて、夏希に体当たりをした。


夏希を抱き締めて、転がったのは、中島だった。


「中島さん!?」


中島は立ち上がると、驚く夏希の手を取って、走り出した。


「逃げるよ!」


「え!?」


夏希は戸惑いながらも、中島に引かれ、走り出した。


大仏殿の前にある池に沿って、右側に向かって走っていく。


「夏希!」


九鬼が後を追おうとしたが、近くにいた観光客が周りを囲んだ。


そして、頭を黒いタイツを被ると、下っぱになった。


奈良駅から、真っ直ぐ奈良公園を進んでいき、春日大社の手前で左に曲がると、


世界遺産である東大寺へと続く道に入る。


左側に広大な公園と、右手にはお土産屋が並んでいる。


我が物顔で道を塞ぐ鹿。


他の学校の生徒や、クラスメイトが、鹿と戯れる中…一目散に、大仏殿を目指す月影一行。


たこ焼きから、お好み焼きにスイッチした蒔絵。


南大門の石段を登る為、九鬼は車椅子を持ち上げた。


向かって右にある吽形。左にある阿形。


高さ8.4メートルある像は、わずか69日で作られたと言われている。


九鬼は、その圧巻な姿に圧倒された。


左の阿形の遥か上には、板場がある。


あまり知られていないが、昔そこに盗賊が、住んでいたのだ。



また車椅子を持ち上げ、南大門を降りると、大仏殿は目の前だ。


「大仏見るのに、金かかるんかよ。やめて、焼きそば買おうぜ」


罰当たりなことを言う蒔絵。


「うん?」


九鬼は、車椅子を止めた。


「生徒会長!」


早奈英も気付いた。


「闇の波動!?」


先頭を歩いていた蘭花も、足を止めた。


「え?」


ぼおっとしていた夏希の前に、立ち上がった鹿がつぶらな瞳で、見下ろしていた。


鹿は蹄で、夏希の顔を殴ろうとした。


「夏希!」


九鬼の叫びに、夏希ははっとしたが、よけれない。


「危ない」


誰かが飛び出してきて、夏希に体当たりをした。


夏希を抱き締めて、転がったのは、中島だった。


「中島さん!?」


中島は立ち上がると、驚く夏希の手を取って、走り出した。


「逃げるよ!」


「え!?」


夏希は戸惑いながらも、中島に引かれ、走り出した。


大仏殿の前にある池に沿って、右側に向かって走っていく。


「夏希!」


九鬼が後を追おうとしたが、近くにいた観光客が周りを囲んだ。


そして、頭を黒いタイツを被ると、下っぱになった。



「やれ!」


立ち上がった鹿の号令で、一斉に下っぱ達が襲いかかる。


その手に、お土産に大人気の木刀が握られていた。


お陰で、近所のお土産屋さんでは、売り切れだ。


その時、大仏殿に到着した熊五郎は、二本足で立つ鹿に驚愕した。


「し、鹿男!」


その呼び方に、キレた鹿の正拳突きが、熊五郎の顔面を炸裂した。


「失礼ね!あたしは、鹿女よ」


気絶した熊五郎を残して、鹿は九鬼達に向かって、突進してくる。


「お前達、人間に言いたい!いい加減、鹿せんべいに変わるものを作れ!鹿ワッフルかと、作れるだろが!」



九鬼は、車椅子を背にして構えた。


「できないなら、チョコ味とかつくれ!」


メスと言ってるのに、角が生えてきた鹿女。


「ハリケーン!ミクシー!」


何かが、間違っているネーミングで、角を突きだして、向かってくる。


「生徒会長!」


九鬼の後ろで、早奈英が叫んだ。


「あたし!これ以上!守られているだけなんて、嫌です!」


「早奈英さん!?」


早奈英は、乙女ケースを突きだした。


「装着!」


車椅子から飛び出した乙女シルバーは、九鬼を飛び越えると、鹿女の角の間に、蹴りを入れた。


「きゃあ!天然記念物に!」


ぶっ飛ぶ鹿女。


「早奈英さん!」


「はっ!」


乙女シルバーは、鹿女に向かって走り出した。


その後を追おうとする九鬼の前に、下っぱ達が立ち塞がる。


「死ね!」


下っぱの振り上げた木刀を、九鬼は体を横にするだけで避けると、首に手刀を差し込んだ。


「う」


気を失った下っぱから、木刀を奪うと、じろりと周りを威嚇した。


その目の鋭さに、下っぱが怯んだ瞬間、九鬼は下っぱの群れに突進した。





「装着!」


乙女ブラックに変身した蘭花は、下っぱを蹴り倒した。


「ブラック…幻影」


一斉に、四方から木刀を突きだした下っ腹は、ブラックの体に簡単に突き刺さったことに驚いた。


だが、それは幻影だった。


ブラックの体を突き抜けた木刀は、互いの体を突き合った。


スピードの乙女ブラックは、蘭花でも健在だった。


アイドルとして、多忙を究める蘭花は、足だけは人一倍使っていた。


それが、蘭花の強みであるが、アイドルとしての弱点でもあった。


カモシカのようにしなやかな足は、少しアイドルには似つかわしくない。


幻影で、敵の攻撃をかわし、包囲網から脱出したブラックは、大仏殿の屋根の上に、着地すると、身を屈めた。


「残念だけど…まだ戦う気はないのよね。下っぱくらいで、貴重なムーンエナジーを消費できないわ」






「早奈英さん!」


シルバーと鹿女を見失った九鬼は、夏希とは反対方向に池に沿って走ると、上へと向かう石段を、下っぱと対峙しながら上がっていった。


広大な東大寺内を、下っぱ達が走り回っていた。



逃げ惑う人々と鹿の中で、南大門を潜ったばかりの理香子達は、目を丸くしていた。


逃げ惑う僧侶に、木刀で襲いかかる下っぱ達。


「どうなってるの!」


状況を理解できない理香子と違い、妙に納得する楓。


「これが、戦隊ものというものかあ」


何度も頷く楓の後ろで、わなわなと拳を突きだし、震える桃子。


「あたしはただ…姫といっしょに、観光をしたいだけなのにいいい!」


桃子は、下っぱ達を睨み、乙女ケースを取り出した。


「装着!」


変身と同時に、マシンガンを兵装した乙女ピンクは、下っぱ向けて、乱射した。


「うりゃああ!」


銃弾の雨が、大仏殿前に降り注ぐ。


逃げる下っぱ。逃げる僧侶。逃げる観客客に、逃げる鹿。


「あっ!昨日の犯人!」


楓は、嵐山乱射事件を思い出した。


「姫!今のうちに!」


ピンクの言葉に、楓と理香子は逃げた。


取り巻き達は、もうとっくに逃げていた。





お水取りで有名な二月堂の急な階段を上り、九鬼は下っぱを蹴散らしながら、奈良を一望できる有名な舞台の上に来た。


二月に行われる星祭りでは、夕刻になると、本堂に万灯明を灯し、星曼荼羅を掲げる。その炎が燃える姿は、舞台の下から見ると、幻想的である。


「フン!」


九鬼の蹴りを喰らった下っぱが、舞台から飛び落ちると、綺麗に整えている芝生の坂を転がっていく。



九鬼が舞台の上で、下っぱを相手にしている時、階段を上がった右奥のトイレから、誰かが出てきた。


ちなみに、トイレのそばに有名なお茶屋があり、作者の学生時代の憩いの場所である。


「九鬼!」


トイレから出て来たのは、加奈子だった。


「装着」


乙女どどめ色に変身した加奈子が、舞台に向かおうとした…その時!


お茶屋の暖簾の下から、箸が飛んできた。


どどめ色の肩に当たった。


「何奴!」


二月堂のお茶屋は、わらび餅がうまい。甘さを抑えた餡蜜と、透明のわらび餅とが絶妙である。そこにしかない行商味噌も、絶妙だし、釜に入ったお茶も旨い。


二月堂に行ったら、是非食べてほしい。



「まじうま!」


わらび餅を頬張りながら、暖簾を潜って、姿を見せたのは…。


「蒔絵!」


予想外の蒔絵の登場に、驚くどどめ色。


「ひ、ひしゃしぶうりだあなあ〜」


まだわらび餅を喉に流していない蒔絵は、どどめ色に話しかけた。


「フッ」


どどめ色は鼻で笑うと、蒔絵を見つめ、


「何か用かしら?いつも、やる気のないあなたが、あたしに」


「ううう…そうぐだあ……用がある!」


途中、わらび餅を飲み込んだ蒔絵は、どどめ色を睨んだ。


「何かしら?」


どどめ色は、腕を組み、


「いつも戦いに参加しないあなたに、あたしはシンパシーを感じていたわ。真面目に、何の報酬もない戦いに、いつも一生懸命な九鬼や、結城と違い…あんたは至って、マイペース」


どどめ色の眼鏡が、真上に来だした太陽の光に反射した。


「月影の中では、あんたが一番…あたしに近いと感じていたわ」


そのどどめ色の言葉に、蒔絵は顔をしかめ、頭をかいた。


「お前…まじ、だるいなあ!まじぃ〜だじるびっしゅだわ」


「何い!?」


蒔絵の予想外の反応に、どどめ色は眉を寄せた。


「確かにのを〜!戦いは、だりいよ!だ・け・ど・な!あたいはよお!尊敬してんだよ!リスペクト!」


蒔絵は、また頭をかいた。今度は少し恥ずかしそうに…。


「あいつら〜まじ!まじだろ!他人の為によお〜!まじ!まじ!戦ってんだぜ。九鬼なんて、変身できなくてもよお!里奈も、ちょっと馬鹿だけど、あいつすげえよお!夏希も、まあそれなりになあ」


「何!」


予想外の蒔絵の言葉に、どどめ色は絶句した。


「てめえといっしょにすんなってことよ!あいつらを裏切ったてめえとな!」


蒔絵は、どどめ色を睨みつけ、


「普段はよお!あたいがいなくても、やつらが倒してくれるからさあ…まっ、いいかって思ってけどさあ〜。てめえだけは、無理なんだよ!多分な!」


蒔絵は、乙女ケースを突きだした。


「あいつらは、てめえと真剣に戦えない!優しいからよお!だからさ!てめえは、あたいが倒す!」


「くっ!」


「装着!」


緑の光が、蒔絵を包む。


「乙女ビーム!」


変身と同時に、眼鏡から発射された光線を、どどめ色はとっさに、乙女アイロンで防いだ。


アイロンは、爆発した。


「チッ」


その爆発に、一瞬目を瞑ってしまったどどめ色の耳元に、声がした。


「許さねえ」


乙女グリーンの蹴りが、どどめ色の下っ腹を蹴り上げると、


どどめ色は、石段の下までふっ飛んだ。


「てめえだけは、あたいが倒す」


乙女グリーンは、一気に階段を飛び降りると、立ち上がったばかりのどどめ色に、パンチを叩き込んだ。


二月堂の下で、地面を転がるどどめ色は、グリーンから距離を取ると、


「どどめ包丁!」


無数の包丁を召喚した。


そして、


「くらえ!乱れ桜!」


包丁達が一斉に、グリーンに飛びかかろうとするより速く、グリーンは右手を振るった。


グリーンの手に、のこぎり状の光の輪ができると、それを投げつけた。


光の速さで、その輪は包丁達を切り裂いた。



「え!」


光の輪は、消えると同時に、どどめ色の戦隊服に亀裂が入り、血が噴き出すと、どどめ色は倒れた。


「つ、強い…」


変身が解け、どどめ色は加奈子に戻った。


「伊達に、てめえらの戦いを端で見てた訳じゃねえよ。てめえの攻撃パターンくらいよめるぜ」


蒔絵の余裕の態度に、どどめ色は納得した。


「なるほどね…。逆に、こっちは…あんたの戦い方を知らない…ククク…」


加奈子は、楽しそうに笑った。


そんな加奈子を訝しげに見つめるグリーンに、


加奈子はあるものを手に取り、示した。


それは、黒いサングラスだった。



「そ、それは?」


蒔絵は異様な妖気を、サングラスから感じていた。



「仕方がないわ…。こちらも奥の手を使うしかないわね」


加奈子は、サングラスをかけた。






「いけない!」


反対側の屋根のある階段を降りながら、下っぱを背負い投げにした九鬼は、舞台下の芝生を挟んで、対峙している2人に気づいた。


「あの力は、危険だ」


九鬼は、階段を飛び降りる如く、走り出した。





「闇の力…思い知るがよいわ」


サングラスをかけた瞬間、色が濃いために見えないはずの眼球が、赤く輝いたのが、わかった。


「闇の女神…災禍(サイカ)の力を知れ!」


鱗のような鎧が、全身を包むと、巨大な蝙蝠の羽を広げて、災禍は空中に飛び上がると、グリーンに向けて、両手を突きだした。


その手のひらで、空間が圧縮されていく。


圧縮された空間は、球体のようになると、周りの光を取り込み始めた。



「ブラックホール…アタック!」



「ブラックホール!」


グリーンは絶句した。


その技は、光線技主体のグリーンには天敵だった。


「チッ!」


グリーンは舌打ちした。


「永遠の闇をさ迷え!」


災禍の手から、黒い光球が放たれる瞬間、


九鬼はジャンプした。


「お願い!装着して!」


黒い光が、九鬼を包み…乙女ブラックへと変身した。


「ルナティクキック零式!」


飛びながら、空中で足を突きだすルナティクキック零式が、災禍の脇腹を蹴った。


「な!」


発射する体勢を崩された災禍は、自分の作り出した黒い光球の吸い込む力の渦に、巻き込まれた。


乙女ブラックは、地上に着地すると同時に、九鬼に戻った。


災禍を吸い込んだ光球は、すぐに消えた。


「九鬼!」


グリーンから、蒔絵に戻ると、九鬼に駆け寄った。


「か、加奈子は死んだのか?」


九鬼は立ち上がりながら、首を横に振った。


「多分…生きてるわ。今の技は、ブラックホールっていっても、疑似ブラックホール…。本当のブラックホールができたら、この星ごとなくなってしまう。多分…あの光球に、吸い込まれたものは、どこかに幽閉されるだけ」


九鬼は、災禍がいた空間を睨み、


「その場所を作ったのが、やつら…ならば、自分の技ではやられないわ」


九鬼は額に流れた汗を、手のひらで拭うと、


「でも…しばらくは、加奈子はここに現れないはず…」


少しほっとした九鬼。



しかし、息をつく暇もなかった。


突然、飛んできた鉄の鎖が、蒔絵に巻き付くと、二月堂の前から、飛ばされた。


「うわあ!」


「蒔絵!」


林の向こうに、飛んで消えていく蒔絵の方へ走ろうとした九鬼の足元に、鋭い鎌が突き刺さった。


「チッ」


九鬼は足を止め、鎌が飛んできた方を見た。


法華堂…別名三月堂の方から、鎖鎌を持った魔神が姿を現した。


「和が名は、魔神かまいたちごっこ!」


巨大ないたちごっこは、高笑いをし、


「ははは!変身できるグリーンより先に、貴様を切り刻んでやるわ!」


鎖を振り回して、九鬼に向かってくる。


九鬼はその間に、アスファルトに突き刺さっている鎌を思い切り、足で踏みつけた。


「貴様!足をどけろ!」


九鬼が思い切り踏みつけている為、いたちごっこは、鎌を抜けない。


「お、おのれえ!」


引っ張ってもびくともしない為に、いたちごっこは鎖の方を投げつけ、九鬼の右腕に巻き付けた。


「こうなったら、いたちナックルパンチを、お見舞いしてやるぞ」


前足を握り締めたいたちごっこは、巻き付けた鎖を引っ張った。


九鬼は、もう一度鎌を踏みつけた後、引っ張られる力に逆らうことなく、いたちごっこ向かってジャンプした。


そして、いたちごっこの頭上を飛び越える瞬間、鎖を操り、いたちごっこの首に巻き付けた。


そして、いたちごっこの後ろに着地すると、鎖を引っ張った。


「うぐう!」


いたちごっこの首が絞まる。


九鬼はさらに、思い切り引っ張った。すると、刺さっていた鎌が取れ、そのまま勢い余って、飛んできた。


「え!」


驚くいたちごっこの額に、突き刺ささる鎌。



九鬼は、腕に絡み付いた鎖を外すと、


いたちごっこの方に振り返ることなく、大仏殿の方へ坂をかけ降りて行った。



「早奈英さん!」


九鬼は、早奈英の身を案じていた。










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