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夜の狭間

「今日、お昼頃に起きた…嵐山での乱射事件は、現れた怪人達よりも、ピンクの戦闘服を着た謎の人物によるものと、確認が取れました」



何とか、怪人達の追っ手を逃れて、集合場所にたどり着いた大月学園ご一行は、京都の外れにある温泉街で、宿を取ることになった。


そこは、奈良寄りで、急流滑りで有名な観光地のそばでもあった。


しかし、着いた時は夕方でもあり、急流滑りは予定には入っていなかった。



「尚…戦闘服の容疑者は、突然行方を眩まし、その場からいなくなりました。そして、周囲は突然、空から降ってきた鋼鉄のたらいによって、一時パニック状態に陥りました。幸い…タライは、怪人達だけを直撃。気を失った怪人達は、警察に連行されましたが…」


旅館内のロビーで、ニュースを見ていた蘭花は呟いた。


「乙女タライか…」




乙女タライ!


変身が解けてしまう不慮の状況を想定されて考えられた…乙女ピンクの最後の技である。


敵わないと、土下座した瞬間、空から鋼鉄のタライが周りを囲む敵目掛けて、落ちてくるのだ。


敵は、普通土下座した相手に目が向く為…まさか、頭上から鋼鉄のタライが落ちてくるとは、思わない。


その盲点をついた攻撃なのだ。


「戦闘服の容疑者による乱射で、一部店の看板が破壊されただけで…怪我人は、でていません。怪人は、嵐山以外でも、現れた模様ですので、住民の皆様は、ご注意を…」


蘭花は、テレビのチャンネルを変えた。


他愛もないお笑い番組にすると、テレビの前のソファーに腰かけた。


そこには、アシスタントの1人として、司会者の後ろに立つ自分が映っていた。


自分の愛想笑いってやつは、客観的に見ると、ムカつくものである。


でも、蘭花は冷たい視線を画面に向けながら、番組を見た。




「あれは、絶対!中島だって!」


引率を終え、旅館に入ってきたのは、理香子と楓だった。


「でもね…ここにいるとは…」


楓は、首を捻った。


2人の声に気付き、蘭花はソファーから、玄関に振り返った。

「絶対!中島だよ。あたしが、中島を見間違うはずがないじゃん!」


妙に、自信満々の理香子に、少し呆れながら、


「まあ…そうかもしれないけど…」


一応、肯定した。



蘭花は、すぐにテレビに体を向きなおすが、2人の会話を聞いていた。


「あっ!なんか信じてないでしょ!」


「信じてるよ」


段々とこたえるのが、邪魔くさくなってきた楓。



蘭花は、2人の会話を分析していた。


(あれは…広陵学園の姫!姫が、好きといえば…あの中島か?確か…母方は…)


考えを巡らしていると、蘭花はいつのまにか、2人の会話が止まっていることに気づいた。




「あ、あれって…黒谷蘭花じゃない?」


楓のひそひそ声に、理香子は首を捻った。


「誰?」


「誰って…今売り出し中のアイドルよ。知らないの?」


「興味ない」


理香子は、そういう存在にまったく興味がない。逆に、楓にきいた。


「あんた…アイドルに興味あるんだ…」


意外そうな理香子に、楓は顔をしかめ、


「別にないけど!姉妹校の生徒だよ。学校でも、有名よ」


「そうなんだ〜。ふぅ〜ん」


理香子は、両手を首の後ろに回すと、旅館の奥に向かって歩きだした。


楓はため息をつき、心の中で思った。


(まあ…アイドルでもない…あんたが、有名の方が凄いだけどね)


均整で理想的なプロポーションをした理香子の後ろ姿を見つめながら、そうりゃあそうかと、楓は納得した。



理香子の後を、小走りで追う楓が、フロントからいなくなったのを確認すると、蘭花はソファーから立ち上がった。


「姫が、ここにいて…あいつの血筋も、この地に来ている?」


蘭花は、理香子達が去った廊下を見つめ、


「やはり…そうなのか?」


しばらく凝視していた。






「あああ!結局、結城来なかったね」


旅館の月の間で一泊することになった九鬼、夏希…蒔絵と早奈英。


蘭花だけは、別の部屋に振り分けられていた。


九鬼は、早奈英以外の乙女ケースを月が見える窓際に置いた。


早奈英の正体を誰にも、教える気はなかった。


それは、早奈英が戦う為に乙女ガーディアンになった訳ではないからだ。


それに、乙女ガーディアンのケースは、ムーンエナジーを補充する必要はなかった。


月の女神を護る為に、存在するガーディアンには、特別に衛星が備えられていた。


月の見えなくても、その衛星が絶えず、月の光を集め、ガーディアンに送り続けているのだ。


九鬼は、黒い乙女ケースを見つめ…そっと表面を撫でた。


充電はできるようだが…。



「駄目だ!また携帯止まってる」


里奈に電話をかけていた夏希は、例のアナウンスを聞いて、ため息をつきながら、電話を切った。


「ちゃんと払えって、いうの!」


夏希は、テーブルの上に置かれている急須に、ポットからお湯を注ぎ、お茶を飲んだ。


「…」


蒔絵は畳に寝転んで、携帯をいじっていた。


早奈英は、座布団の上に座っていた。その目は、九鬼の背中を映していた。



「まだ…時間があるわね」


食堂に集合する時間まで、まだ30分くらいある。


夏希はお茶を飲み干すと、


「やっぱり、お茶より…なんか、炭酸系が飲みたい!」


夏希は、立ち上がった。


「買ってくる!」


部屋を出ていこうとする夏希に、九鬼は青の乙女ケースを差し出した。


「夏希!これを」


「いいよ」


夏希は断った。


「すぐ、そこだし」


自動販売機は、旅館を出て、曲がり角のそばにあった。


「で、でも、危ないわ」


「大丈夫!」


九鬼の心配を遮って、夏希は部屋を飛び出した。


早奈英は目で、夏希が出ていくのを見送った。


「あたしは、コーラ」


ぼそっと言った蒔絵に、


「あいよ!お金は後でね」


夏希はこたえながら、部屋のドアを閉めた。



「まったく…心配症なのよね。九鬼は」


誰もいないフロントから、飛び出した夏希は、旅館の門を抜け、薄暗い道で輝く自動販売機に向かって、走り出した。


一応、気を探ってみるが、気配はない。


そそくさと、自動販売機の前に来た夏希は、お金を自動販売機に入れた。


「まずは…コーラと」


ボタンを押し、落ちる音がしたので、しゃがんで、取りだし口に手を差し入れた。


しかし、取れない。


「あれ?」


コーラの缶は掴んでいる。だけど、取れない。


「あれ?あれ?引っかかっているのかな?」


缶を取ろうと格闘している夏希の頭の上から、笑い声がした。


「はははは!まさに、引っかかったな!五月雨夏希!」


「え?」


しゃがみながら、上を向いた夏希に、自動販売機が話しかけていた。


「わたしは、魔神自動販売機!お前達が、喉が渇くのを昨日から待っていたのだ!」



「魔神!?」


夏希は慌てて、手を抜こうとしたが、抜けない。


「ははは!」


魔神自動販売機は高笑いをし、


「わたしの中に、手を突っ込んだ者は、決して逃れることのできない蟻地獄ホールド!貴様は、罠にはまったのだ!はははは!」


笑いが止まらない魔神自動販売機。


しかし!


「取れた!」


夏希は、取りだし口から腕を抜くことができた。


「なにいい!」


驚く魔神自動販売機のつぶらなセンサーに、夏希の手が映った。


魔神自動販売機は、手をアップで映すと、怒りだした。


「き、貴様!コーラを諦めたのか!」


「まあ…いいや…」


夏希は、しばらく魔神自動販売機を観察した後、別の自動販売機に向かって走り出した。


「き、貴様!百二十円払ったんだぞ!惜しくはないのか!」


「もういいよ!」


夏希は別の自動販売機に、千円札を投入した。


「か、金持ちがあ!お金の有り難みを知れ!」


ガタン!


普通に、コーラを取り出した夏希には、もうどうでもよかった。


「おのれえ〜。マイナーな銘柄しかおいてないと思い、馬鹿にしやがって!」


魔神自動販売機は、1人では動けない。


「スタッフ〜スタッフ〜」


と呼んでも、来ない。


搬入スタッフがいないと、移動はできない。


自分の分のジュースも買った夏希が、魔神自動販売機の前をスキップしながら、通ると、


「すまない!中央にある緊急ボタンを押してくれ!」


魔神自動販売機は、夏希に懇願した。


しかし、夏希は完全無視だ。


「き、貴様!困ってる人がいたら、助けるのが、ヒーローではないのか!」




夏希はもう、魔神自動販売機の相手をする気はなかった。


旅館に入ろうとした夏希は、入口の敷居が少しだけでていることに気付かなかった。


「きゃ!」


つまづいた夏希の手から、コーラが飛び出し…地面に転がった。


「もお!」


慌てて拾おうと、しゃがんだ夏希の目に、誰かの足元が見えた。


その誰かも屈むと、手を伸ばし、こっちに転がってきたコーラを拾い上げた。


「はい」


夏希に向かって差し出されたコーラを受けとるよりも、


夏希は自分に向けられた優しい眼差しに、体が動けなくなった。


「よく物を落とすね」




「中島さん!」


微笑む中島が、目の前にいた。


夏希の鼓動が高まった。



夏希は、中島から思わず目を逸らした。


(ま、まさか!こんなところで、中島さんに会うなんて…)


夏希の顔が赤くなる。


(あたし達は…運命の赤い…)


夏希はちらりと、中島の手を見た。


(赤い…糸で結ばれているんじゃあ〜ないの!)


中島の手にあるコーラは、確かに赤い。




「あ、あのお…」


夏希は立ち上がり、コーラを受けとると、中島の顔を見つめた。


「…?」


見つめ合う2人。


「あのお…ですね…」


夏希が言葉を続けようとした時、


後ろから声がした。


「夏希!」


帰りが遅い夏希を心配して、九鬼が門から飛び出して来た。


「す、すいません!」


九鬼の声に気付き、夏希は恥ずかしさから慌て出した。


「夏希!」


飛び出して来た九鬼は、2つの乙女ケースを持っていた。


「九鬼!ど、どうしたの?」


白々しく、九鬼に駆け寄った夏希に呆れ、


「あなたの帰りが、遅いから…」


「ご、ごめん、ごめん」



「うん?」


九鬼は、夏希のそばにいる中島に気づいた。


中島は微笑むと、頭を下げた。


九鬼も頭を下げた。


「さあさあ!部屋に戻って!」


照れた夏希は九鬼の背中を押して、無理矢理旅館の方へ戻す。


門を潜る前に、夏希は中島に手を振った。


中島も手を振り返す。



夏希は気付いてなかった。


中島は、九鬼が現れてから、その手にあった乙女ケースをじっと見つめていたことに……。





「遅い!」


蒔絵は携帯から、目を離さずに、文句を言った。


「ご、ごめん」


夏希は謝りながら、コーラを蒔絵に渡した。


蒔絵がコーラを受け取り、蓋を開けると、



コーラは噴き出した。


コーラまみれになる蒔絵の顔に、眼鏡がかかると、乙女グリーンに変身と同時に、乙女ビームが発射された。


「ご、ごめんなさい!」


乙女ビームは、開いていた窓から、月に向かって放たれた。





その光を見つめながら、背を向けて歩きだした中島と、入れ違うように、理香子が旅館から出てきた。



「花火?」


ビームに気を取られた理香子は、中島の後ろ姿に気付かなかった。



理香子は首を捻りながら、自動販売機に向かう。


魔神自動販売機の前に立って、じっと見つめてから、


「ろくなものがないわね」


理香子は、さらに向こうの自動販売機に走った。




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