二人のブラック
九鬼を抱え、ジャンプした乙女ブラック。そして、それに寄り添うように、シルバーもジャンプしていた。
哲学の道から外れ、山側に逃げた三人。
夏希と蒔絵は、逆の方へ逃げたようだ。
まだ痛みが取れない九鬼を、参道の途中でおろすと、乙女ブラックは背を向けて、立ち去ろうとした。
「待って!」
九鬼は、乙女ブラックを引き止めた。
「あなたが、真乙女ブラックなのか?」
九鬼の言葉にも、乙女ブラックは振り返ることなく、一言だけ口にした。
「乙女ブラックは、もとから1人しかいないわ」
その冷たい口調に、辺りが凍り付く。
「あなたは、乙女ブラックではないわ」
その空気を切り裂くように、九鬼のそばにいたシルバーが、口を挟んだ。
「乙女ブラックは、生徒会長よ!あなたこそ偽物よ!」
その言葉に、やっとブラックは振り返った。
シルバーを睨み、
「そんなこと…あなたが、よく言えたものね」
「え」
予想外のブラックの言葉に、シルバーは驚いた。
「敵が、乙女ガーディアンを得た今…こちら側の切り札である乙女シルバーが、こんなやつでは…やつらに勝てない」
ブラックの言葉に、何も言えなくなったシルバー。シルバーは思わず、顔を逸らした。
「そんなことはない!勝つのは、あたし達よ」
九鬼は何とか、立ち上がることができるようになった。
ブラックを見つめ、
「乙女ガーディアン。月の女神を護る戦士。前後左右に、女神を囲むように立つ守護神。プラチナ、シルバー、ゴールド…そして、ダイヤモンド」
ブラックは、九鬼に体を向けた。
「乙女ソルジャーは、外敵を倒す為に、戦う実行部隊。最初のレベルは、女神を護る為に存在するガーディアンには、敵わない!しかし!乙女ソルジャーは、つねに戦う宿命を背負い!鍛えれば、無限の強さを得る可能性がある。そして、いずれは」
「乙女ガーディアンを超える存在になれると?」
ブラックは、微笑んだ。
「ああ…」
九鬼は頷いた。
ブラックは、九鬼を凝視し、
「それは、乙女ナイトのことか?」
「乙女ナイト…月を護る最強の戦士」
九鬼は感慨深げに、頷いた。その思いは、憧れにも似ていた。
「馬鹿らしい!」
ブラックは鼻で笑った。
「そんなのは、伝説だ。それに、乙女ナイトになれたかもしれない可能性があった…あんたが、こんな様子では…」
「あたしじゃ…無理。だけど、1人…なれるかもしれない戦士がいる」
ブラックは眉を寄せ、
「そんな者…どこにいるの?どこにも、いないわ?」
肩をすくめた。
「そうよ。ここにはいないわ。今は…だけど、もうすぐ来る」
九鬼の確信を持った揺るぎない瞳の輝きに、
ブラックは吸い込まれそうになった。
しかし、ブラックは無理矢理、顔をしかめた。
「あり得ない」
「いえ…」
九鬼は、首を横に振った。
「可能性はあると…あなたも思ってるはず」
「な!」
「だから、あなたがここにいる。姿を見せたのは、その可能性の為」
九鬼は、ブラックと見つめた。
二人の視線が絡み合う。
「フッ」
やがて…ブラックは笑うと、その場から煙のように消えた。
九鬼は、黒の乙女ケースを見つめた。
あと何回変身できるか…わからない。
ぎゅと乙女ケースを握りしめ、
「早く来い!里奈」