哲学の道
なぜか…マイナーな銀閣寺に来た大月学園ご一行。
「銀閣寺…銀」
実際は、お金がなかった為、銀は貼られなかった寺。
手摺から、切なく見つめる早奈英の横顔を、九鬼は見つめていた。
「ここからは、完全自由行動だ!夕方4時までに、ここに戻ること」
熊五郎は、クラスの班ごとにに、1日バス乗り放題券を手渡した。
当然、九鬼と早奈英、蒔絵と夏希は同じ班になった。
そして、もう2人…十夜と蘭花もなぜか加わった。
「お約束ね」
蘭花が笑った。
「あっ!それと、結城が来たら、お前達の班な!」
熊五郎が、九鬼を呼び止めた。
「なぜか知らないけど…。お前達がいると、魔神や怪人がでるからなあ〜。それと、お、乙女戦隊だったか?あいつらも、お前達がいないとでないしな…どうしてだ?」
熊五郎は、首を捻った。
「それでしたら、黒谷さんと十夜さんは、私達のそばにいないほうが、よろしいのでは?」
九鬼の言葉に、
「黒谷から、一緒になりたいと言い出してな!十夜は…」
熊五郎と九鬼の間に、お土産の木刀が差し込まれた。
「でなければ、斬る!」
いつの間にか、2人の横に十夜がいた。
「そ、そうだ」
冷や汗を流す熊五郎を見て、フンと鼻を鳴らすと、十夜は離れていった。
「も、問題児ばかりだけど、よろしく頼むな!生徒会長」
熊五郎は愛想笑いを浮かべながら、九鬼から離れようとした。
「先生!待って下さい!加奈子…いや、平城山さんは」
熊五郎は足を止め、
「あいつなら、他の班だ。引率者が、同じ班はおかしいだろ?」
「加奈子は…別の班?」
考え込む九鬼の真後ろに、十夜が立ち、背中をつけてきた。
「無防備だな?乙女ブラック」
十夜は口元を緩め、
「俺が、その気なら死んでいたぞ」
「十夜!?」
油断していた九鬼は、唇を噛み締めた。
「まあよい…。不意討ちは、好まん」
「チッ」
九鬼は小さく舌打ちした。
「フッ…。それよりも、気づかんか?闇の波動が漂っている」
十夜の言葉にはっとして、九鬼は気を探った。
「馬鹿な!?」
そして、あり得ない波動を感じた。
「やっと、気付いたか」
十夜は、九鬼から少し離れ、
「闇の波動の中に」
「月の波動がある!」
「それも、とてつもない力を感じる」
「生徒会長!」
そばにいた早奈英が、叫んだ。
「チッ!」
九鬼は銀閣寺の坂の手前で、川沿いを走った。
所謂、哲学の道だ。
「夏希!牧野さんを頼む!」
ハンカチを握りしめ、ぼおっとしていた夏希は、事情がわからない。
「生徒会長!あたしも」
早奈英の言葉を、
「今は、駄目!」
九鬼は遮った。
走る九鬼の背中を見つめながら、十夜は鼻を鳴らした。
「変身できるかな?だが…それでも行く。それでこそ、我が好敵手」
走りながら、九鬼は乙女ケースを突きだした。
「お願い!みんなを守りたいの!」
九鬼の願いが通じたのか…乙女ブラックへと変身できた。
「みんなを傷つけさせない!」
九鬼は変身しながら、蹴りを繰り出す。
哲学の道で、生徒達を待ち構えていた敵に。
「ルナティックキック!0式!」
川沿いの道!
何もない空間に、乙女ブラックの蹴りが炸裂する。
しかし!
ふっ飛んだのは、ブラックの方だった。
ブラックは、哲学の道の横にある川へと落ちた。
大して水かさはないが、深さはある川底に激突したブラック。
水飛沫が上がり、シャワーのように降り注ぐ哲学の道の石畳に、きらきらと輝く人型が、水を弾いた。
「来たか」
十夜は離れた場所から、その様子を眺めていた。
「きゃあ!」
十夜のそばで、白々しく悲鳴を上げてみたが…蘭花はすぐに止めた。
乙女グリーンのビームの数倍の破壊力を持つ光線が、前に突きだした両手から放たれた。
光の速さで、光線はブラックを消し去るはずだった。
突然現れた新たな光が、プラチナボンバーを跳ね返した。
「何!?」
乙女プラチナの体に、光線が当たったが、跳ね返り、近くの民家数件を消し去った。
「き、貴様は!」
プラチナは、光線が当たったことより、ブラックの前に立つ戦士にたじろいだ。
「乙女シルバー!」
遠くから、傍観していた蘭花が近くの手摺に走り寄り、身を乗り出した。
「馬鹿な!?乙女シルバーが、なぜここにいる!」
突然のシルバーの登場は、プラチナには予想外だった。
「シルバー!退いて!こいつは、あたしが…」
何とか立ち上がったが、ダメージの抜けきれないブラックは、シルバーを押し退けて、前に出ようとする。
「だけど…ブラック」
「あ、危ない!」
ブラックはシルバーを守るように、前に出た。
プラチナの蹴りが、ブラックに決まり、
ふっ飛んだブラックは九鬼へと戻った。
九鬼は、もともと水路であった川のレンガでできた側面に激突した。
「生徒会長!」
九鬼の方を見たシルバーに、プラチナの張り手が決まる。
「よそ見をするな!」
「きゃあ!」
軽い悲鳴を上げて、ぐらついたシルバーを見て、
プラチナは首を捻った。
「何だ?この感覚は」
プラチナは、自分の握力を確認すると、
「我ら乙女ガーディアンは、ほぼ同等の力があるはず…これ程、差があるはずは…」
「シルバー!」
九鬼は、激突した衝撃で、動けずにいた。
「だとすれば…」
シルバーは、にやりと笑った。
そして、シルバーをいやらしく見つめると、
「もともとの肉体の差!貴様?戦士ではないな」
ぼきぼきと拳を鳴らし、
「貴様を拘束する」
「乙女シルバーまで、手に入れば…恐れるものはない」
プラチナは、シルバーのかけている眼鏡に手を伸ばした。
「シルバー!逃げろ!」
まだ動けない九鬼。
「乙女キック!」
突然、プラチナの死角から、乙女ブラックが現れ、蹴りを喰らわした。
「何!お、乙女ブラックだと!」
蹴りが首筋に決まっても、平然としているプラチナに、ブラックは冷や汗を流した。
「うるさい…蚊が」
ブラックを片手で払おうとした時、プラチナの顔面に、ビームが炸裂した。
「な!」
顔が爆発したが、プラチナにダメージを与えることはできなかった。
しかし、その攻撃は、プラチナの視界を一瞬奪った。
「まったく、うざいぜ」
乙女グリーンから戻った蒔絵が、ため息をついた。
「お、おのれ!」
プラチナの視界が戻った時、川底には誰もいなくなっていた。
「チッ!に、逃げたか!」
プラチナは舌打ちした。
「なんか、向こう…ずっと光ってるわね」
銀閣寺に、九鬼達と入れ違いに来ていた別のクラス一向は、坂の下の一角が、何度も輝くのを確認していた。
「なんか…映画の撮影でもしてるのかな?」
クラスメイトの言葉に、竜田桃子は首を思いっきり、横に振った。
「多分、違うと思う」
桃子は、その光に嫌な予感がした。平然と笑いかけたが、背中に悪寒が走った。
(絶対、行っては駄目)
桃子は、九鬼達に関わりたくなかった。