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おいでやす

あたしとこ…結城里奈は、ベッドの中にいた。


唐突だけど…今日から修学旅行だ。


準備は万端だ。


昨日の晩、すべての用意を済まし、ちゃんと鞄も枕もとに置いてある。


このまま、飛び起きてもいいくらいだ。



大体、どうして奈良や京都なのよ!


女だけで、大仏や寺とか見ても仕方ないじゃないか!


それに、高校生になって、国内はないだろ!


ベッドの中で、ぐずるあたし。


ベッドの中…?


ううん?


お、おかしいぞ!


さっきから、画面があたしから動かない!?


アテレコしてるけど…画面が、切り替わらない!


ま、まさか!




あたしはがばっと、ベッドから起き上がった。



時計を確認すると、10時半で止まっていた。


10時半…。


秒針が動いていない。


「まさか!やっぱり…お約束の…」


あたしは、鞄の横に置いてあった携帯を手に取った。


「と、止まってる!」


馬鹿な!あり得ない!先々月、払ったはずだ!


先々月…先々月…。



あたしは、顔を手でおおった。


「それから、払ってないわ」


なんて、タイミングなんだ!


目覚まし時計も、携帯も止まるなんて…。


「これが…劇場版か!」


って、おい!


主人公不在かよ!


最近、九鬼の方が人気あるかもしれないけど…。



「あたしが、主人公よ!」


って、おい!


ここで、画面が変わるのかよ!


「おい!」






劇場版 乙女戦隊 月影。


〜さらば友よ!ダブルブラック 共闘〜



スタート!




「というわけで、結城は来てないのか」


熊五郎は、ため息とともに、出席簿を閉じた。


ここは、新幹線の中。



五月雨夏希や花町蒔絵は、車内にいた。


「今回は、引率の先生が少ないから、特別に生徒会長に参加して貰っているというのにな」



熊五郎の横には、九鬼と…平城山加奈子がいた。


「突然、事故で亡くなった副会長の代わりに、平城山さんも参加してくれた!みんな!先輩達の言うことをきくようにな」



熊五郎を挟んで、平然と立つ加奈子を見て、


夏希が、隣に座る蒔絵を肘で突っついた。


「裏切り者が、よくもまあ〜しゃしゃと」


声を潜めて呟く夏希を見ずに、蒔絵は携帯をいじりながら、


「うざい」


とだけ言った。




「各自、車内では静かにすること!」


熊五郎が一番前に座ると、その横に加奈子が座った。


九鬼は無言で、通路を挟んで、隣の座席に座った。



窓側には、1人の生徒が座っていた。


「ご迷惑をかけます。生徒会長」


九鬼に向かって、頭を下げたのは、牧野早奈英。


早奈英は足が悪く、普段は車椅子で移動していた。


だけど、少しは歩けるので、みんなといっしょの車内にいた。


「いいのよ」


九鬼は微笑んだ。


今回、九鬼が引率で参加した理由のは、早奈英の面倒を見ることも含まれていた。


それから、九鬼は無言になった。


通路の向こうにいる加奈子を気にしながらも、決して隣を向くことはなかった。


その空気を察して、早奈英も口をつむんだ。





新幹線は、そんな者達を乗せて、京都を目指していた。



「さあ!着いたぞ!」


巨大なカメが暴れたことで有名な京都駅に着いた一向は、新幹線からバスに乗り換え、一路旅館を目指す。


九鬼は車内では、折り畳んでいた車椅子を広げると、早奈英を乗せた。


少しバス停まで距離があるからだ。


「九鬼!せ、先輩!」


普段呼び捨てにしてる為、先輩をつけにくい。夏希は、九鬼に駆け寄ると、耳元で囁いた。


「どうします?」


夏希は、熊五郎の横にいる加奈子を睨んだ。


「一応…気をつけているから…。できるだけ、そばにいるし…」


九鬼も、加奈子を見た。



そんな視線に気づいたのか…加奈子の口元が緩んだ。





「か、怪人だ!」


「きゃあああ!」


どこからか、悲鳴が聞こえ、突然駅内が、パニックになる。


上空にあるガラスの天井が割れ、何が降ってきた。



それは、白い物体だった。


「豆腐!?」


夏希は首を捻った。


「我が名は、魔神湯豆腐!」


巨大な湯豆腐は、横から手が生えると、自らの体を千切り、周囲に投げつける。


「熱い!」


「熱い!」


湯豆腐が当たった相手だけでなく、投げている湯豆腐も叫んだ。手が真っ赤になっている。


「夏希!」


「うん!」


頷き合うと、九鬼は車椅子を押して、バスへと向かう。


「会長!あたしも!」


車椅子を押す九鬼に、振り返った早奈英。


「あなたは、ダメよ」


九鬼の目の前に、逃げる人混みの中で、笑う加奈子がいた。


どこからか、黒タイツの下っぱも現れ、人々に襲いかかる。


謎の粉を下っぱに振りかけられると、人々の顔が真っ白になり、下っぱ舞妓…別名マイコーになった。


マイコーは、逃げる人々に襲いかかる。


「チッ!」


九鬼は加奈子の横を通ると、パニックになっている生徒達をなんとか、バスへと引率している熊五郎に、車椅子を渡した。



「お願いします!」


「おい!九鬼!」


人混みを掻き分けて、流れを逆走する九鬼の耳元に、


加奈子の声が聞こえた。


「頑張れ!」




「クソ!」


九鬼は、加奈子の声を無視して、走った。





「装着!」


青の乙女ケースをかざして、夏希が乙女ブルーに変身した。


「おいでやす!おいでやす!」


湯豆腐の入ったタイツを振り回して、下っぱがブルーに襲いかかる。


「乙女スプレー!」


催涙ガスが、辺りに立ち込める。逃げ遅れた一般人も苦しみ出す。


「あっ!ごめんなさい!」


ブルーは空になった乙女スプレーを、下っぱに投げつけると、乙女スタンガンを召喚した。


「うりゃあ!」


スタンガンを構えながら、魔神湯豆腐に向かっていった。




「装着!」


九鬼は乙女ケースを取り出したが、眼鏡が飛び出さない。


「充電はしたはずだ」



九鬼は変身を諦めると、左足を軸にして回転すると、回し蹴りを人々を襲うマイコーに叩き込んだ。


「変身できなくても」


九鬼は構えた。


人々を襲っていたマイコーが、一斉に九鬼に向かってくる。



「きゃ!」


湯豆腐を顔にぶつけられ、眼鏡が豆腐まみれになった夏希が、尻餅をついた。


「ははは!とどめだ!」


魔神湯豆腐は、体を千切ると、また投げようとしたが、


「熱!」


思わず、湯豆腐を落としてしまった。





「えい!」


九鬼の膝が、マイコーの顔面に決まった。


崩れ落ちるマイコー。


「きりがない!」


マイコー達は、もとは一般人である。


あまり手荒な真似はできない。


「黒タイツを倒さないと」


辺りを探る目が、粉を撒いている下っぱを見つけた。


「そこか!」


九鬼は、気を失ったマイコー達を飛び越えると、下っぱのもとへ走り寄る。


しかし、その前に加奈子がいた。



「加奈子!」


九鬼の叫びに、加奈子は笑いながら、横へと移動し、道を開けた。



「チッ」


舌打ちすると、九鬼は着地し、加奈子の横を通り過ぎた。


「とう!」


全力で走り、助走をつけ、ジャンプすると、膝を下っぱに叩き込んだ。



下っぱは、一撃で崩れ落ちた。




「きゃあ!」


夏希の悲鳴が聞こえた。



「夏希!」


九鬼が振り返ると、豆腐まみれになった夏希が、眼鏡を探していた。


顔が真っ白になっていて、目が見えないようだ。


「眼鏡!眼鏡!」


豆腐まみれの足元を、手探りで眼鏡を探す夏希。


「ははは!乙女ブルー敗れたり!」


最初の大きさから、半分になった魔神湯豆腐が高らかに、勝利宣言をした。



「とどめだ!」


両手に、少し冷め始めた湯豆腐を持つと、魔神湯豆腐は、それを投げた。




その時、黒い風が人混みをすり抜けた。


普通の人間には、とらえきれない程の速さで、夏希を抱き抱え、魔神湯豆腐の攻撃から救った。



「あれは!」


九鬼は目を見開いた。


「乙女ブラック!」


乙女ブラックは、夏希を安全圏に避難させると、そのまま人混みに消えた。




「まだ終わんねえ〜のかよ!まじだり〜い」


携帯をいじりながら、頭をかいていた蒔絵に気付き、はっとした九鬼は、現状を理解すると、頷いた。



蒔絵に駆け寄ると、携帯を奪い、魔神湯豆腐に投げるふりをした。


「いつもいつも!何するんじゃい!」


怒りで、自動変身し、乙女グリーンに変わった蒔絵を誘導するように、九鬼は魔神湯豆腐との対角線上に立った。



乙女ビームが発射された。九鬼は横に避けると、ビームは魔神湯豆腐を直撃した。



「そんなあほな!」


魔神湯豆腐は、爆発し…湯豆腐は焼き豆腐になった。


魔神の敗北を見て、下っぱ達は退散した。




「まったく学校の周辺以外で、怪人がでるなんてな」


何とか騒動が治まった京都駅から、バスに乗り込んだ生徒達。ほっと胸を撫で下ろした熊五郎。


九鬼は、一番前で黒の乙女ケースを見つめていた。



「今さっき、黒谷も合流したしな…。後は、結城だけか」


熊五郎はまた、ため息をついた。


一番後ろに乗り込んだのは、黒谷蘭花。


普段は、芸能活動をしているアイドルの卵である。


何でも理事長の孫であるということで、あまり出席をしなくてもいいという特別待遇を受けていた。


今日も広島で、仕事を終えて、京都駅で合流したのだ。




「クツ」


九鬼は乙女ケースを握り締めた。


「生徒会長…」


その様子を、隣で見つめる早奈英。





九鬼の持つ乙女ケースは、いわば不良品である。いつおかしくなっても、不思議ではない。



(乙女ブラックに…なれないかもしれない)


それに、京都駅で見た…もう1人の乙女ブラック。


(あれが…真の乙女ブラック)


九鬼の持つ乙女ケースが、反応しなくなったと同時に、乙女ソルジャーになれなくなった。


それは、何かを暗示しているように思えた。



「生徒会長…」


苦悩する九鬼の手に、そっと早奈英は手を添えた。


「早奈英さん?」


はっと我に返って、顔を上げた九鬼は、微笑む早奈英と目が合った。



その様子を横目で、加奈子が見ていた。




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