第一部 部活決め
鏡代舞…強い女子高校生
万能響…弱気な女子高校生
柱有斗…頼れる三年生先輩
白筆楓…全国大会で優勝したことがある他県の三年生
「バトミントン部です!体験入部どうですか!」
「サッカー部!マネージャー来てください!「女子マネー!」「バカかよ!」」
「吹奏楽部です!「「「♪~~♪♪~~~♪~♪♪♪~~~♪~♪♪~♪♪♪~~~♪」」」別棟三階に部室あります!「「「「よろしくお願いします!」」」」」
この春に入学し、入学式を終え、最初の学力テストを終えた今日、体験入部期間が始まった。
私立高校だからかは知らないが中学には無かったような部活が沢山ある。
部活動一覧によると茶道、華道、薙刀、フェンシング、ブーメラン、アーチェリー、ペン、演劇…聞いたことはあるが実態があったことに驚く部活が多い、大体こういう部活は中身がすっからかんで溜まり場として扱われるのだという、どこかから入れた先入観のせいだろう。未だにそう思っている。だって部活入った事ないし。
高校でもきっと入らないと思っていた。
『最低でも三つの部活動を体験してきてください。何でも構いません。運動部の後に文化部を体験して、一日に二つ終わらせても大丈夫です。そして、入る部活動をひとつ決めてきてください。帰宅部は無しです。
分かりましたか?無所属も無しです。部活動推薦の方は用紙に記入・提出後に部活動へ向かってください。決まっている方々は体験入部ありませんので大丈夫です』
今の時代、強制入部なんて錯誤が過ぎている。人の体力は一定じゃないし、感性だって違う。人が嫌いな人だっているだろう?そんな人達に強制的に部活動に入れるなんて、児童虐待として受け取られてもおかしくないはず。
「ま、舞さんは何部に入るか決めた?」
「響さん選んでくれる?私それについて行くわ」
「責任重大だね…分かった、なるべく楽しそうな部活見に行こう!」
「頑張って」
彼女は万能響、ばんのうという苗字だけれど彼女自身はしどろもどろしている。入学試験の時の集団面接で一緒に受けた子で同じクラスになった子でもある。私は言われるまで覚えてなかったけれど、記憶力だけは良いのか私に話しかけに来た。
「茶道部は、部費が結構かかっちゃう…ペン部は…大会が沢山、私緊張しちゃうよ…吹奏楽は初心者はあんまり歓迎されないみたい。アーチェリーは、部室が遠いなぁ…第二グラウンドまで行かないと…演劇部は…」
考えすぎて身を滅ぼすタイプでしょうね彼女。一歩も動けずにその場で足踏みだけして歩いた気になっちゃうような子、おバカな子ね。私はそんな無益な事はもうしない。
「今言った部活全部回るわよ」
「えぇ!?でも…」
「行くわよ」
「分かったよぉ…」
私が引っ張って行かなくてはならない。
「今日は活動してない部活もあるみたい、ペン部と茶道部は月曜と水曜だけなんだって。…私が言った部活に運動部無かったけど、大丈夫?」
「問題ないわよ。私運動嫌いなの」
「良かったぁ私もちょっと苦手で…だったら後は、吹奏楽とアーチェリーと演劇だね。でも吹奏楽は初心者が入れそうに無いみたい…」
「演劇行ったあとに吹奏楽行くわよ、今日で二つ終わらせるわ。そして来週の月曜日にペン部に行って終わりにしましょう」
「茶道部はいかないの?」
「部活動に出すお金は茶道部が多いわ。ペン部は大会資金を含んでもその半分と少しだけ、大会には出なければそれすらもかからないわ。大会参加に強制は無いもの」
「なるほど!確かにそれだったらいいかも!」
「部員も少ないみたいだし、人数を理由に大会不参加も可能よ。外的要因で大会に出られないって結構あるじゃない」
「じゃあ今日は演劇部だね。場所は本棟三階の多目的室みたい」
小さい頃一度見た事あるけど、最前列だったから舞台裏が見えちゃって白けちゃったのよね。舞台に次々現れる役者じゃなくて、端の方から出てくるその人達が出てくるのが面白くなかった記憶。夢のような舞台じゃなくて、現実的で堅実な舞台だった。夢も希望も、子供騙しなような気がして面白くなくなった、そんな思い出。
「少ないね…」
「それはそうでしょう、高校生になってみんなの前で劇なんてやりたがる子は居ないわよ」
「そうだね…」
一番前に座った、座らざるを得なかった、なぜなら人が少なくて一列しか出来なかったから。きっと退屈。
「時間か、…皆さんこんにちは!演劇部です!演劇部は月曜、水曜、金曜の週三日活動しています!主に発声練習や柔軟や滑舌の練習などが多いですが、既存の台本を使って立ち稽古をすることもあります!そして春と秋には大会も控えており、衣装や大道具などを自分たちで作ったりします!裏方として音響や照明などの仕事もあるので、そっちだけでも大丈夫です!演劇部で不思議な高校生活を送って見ませんか?以上で演劇部の紹介を終わります、ありがとうございました!」
拍手をする。まぁそんなものだろう、上手いと言えば上手いが下手だと言えば下手と言えてしまう演説だった。分かりやすくゆっくりなテンポ感で一人一人の反応を伺いながらこえのボリュームを変えていた。ジェスチャーも交えていて、何をしているかが想像しやすかった。
だが、その程度はどんな部活でもやっている事だ。演劇部が上手いのではなく、このために練習した部活動説明の人間全てが効果的な演説を考えているに過ぎない。平凡だと、私は思った。
「わあぁぁぁあ!凄いね!あんなにハキハキ喋れて、私憧れちゃうよ!」
「そうね凄いわ、貴女がやったらきっと何も分からないまま終わっちゃうでしょうしね」
「うん、私もそう思う」
「じゃあ今日は、発声練習と滑舌の台本読みで一応体験入部は終わります。残りたい人はこの後全国大会の優勝作品を鑑賞するので、見てもらって構いません。シートは向こうの先輩に持って行って…」
発声練習と滑舌の台本読みで帰るでしょ、それでおしまいよね。
「舞さん舞さん!最後まで残っていい!?」
「…いいけど。見たいの?」
「見たい!全国大会の優勝作品だよ!?あの部長でも凄いのに、全国の人達なんて…もう本っ当に凄いんでしょ!?見たい!」
「分かったわ、私も残る」
「やった!」
私も帰ったら何をする訳でもないし、たまにはこういった暇の潰し方もありかもしれないわね。家で本読んでるよりも幾分かマシだわ。
「君、演劇に興味あるのか?」
「部長さん!はいっ!私今、超演劇に興味あります!」
「それは良かった!是非今だけじゃなく、これからも興味を持ってくれ!」
「はいっ!持ちます!」
元気ね。
「君も残るのかな?」
「はい、残ります」
「そうか。楽しんでくれ、全国大会の作品は本当に面白いからな。気に入れば是非、演劇部を検討してみてくれ。絶対に損はさせない」
「分かりました。ありがとうございます」
元気なだけじゃなく、人と話すことにも慣れている感じねあの部長さん。ちょっと苦手なタイプかもしれない。
そこからは発声と滑舌の練習があって、体験入部は終わった。そこで帰っていく人が殆どで、最後まで残ったのは私たち二人だけだった。
それでもこの部長は嫌な顔ひとつせずに私たちに全国大会の映像を見せてくれた、演目の名前は、
『流星になった親友へ届けるレコード』
「……凄かったね」
「凄かった」
「だろ?俺も一番好きな演劇でな、三人しか登場人物がいないのに周りの景色とか、過去の話とか、色んな場面を転換してて、何よりそんな沢山場転をしてるのに一切テンポが崩れてなくて、没入感が途切れることの無い最高の作品なんだ」
本当にそうだった…短い時間で場面転換をこなしつつ、あんな大量の台詞に、身体の動きまで加えていた。ライトの当て方だって一つ一つが全部違っていて、表情が見えたり見えなかったりで観客に考えさせる事も忘れない…計算され尽くした美しい作品だった。
「言葉が綺麗ですよね、入ってくると言うか。自然な感じで…誰の書いた台本なんですか?私シェイクスピアくらいしか知らなくて…」
「全国大会に出る子達の台本は基本オリジナルの作品なんだ、右の黒の衣装を着た子が書いたらしい」
脚本を考えた上に、出演…。どれほどの労力と時間をかけたのだろう、私ではほんのちょっと一センチも理解してあげる事が出来ないだろだろう。何かひとつでも違えばきっとこの完成は無い、役者の出来だって一人一人違うはずなのに最後には仕上げてくる意識の高さ。まさに天才としか言いようがない。
「台本って自分で書いて良いんですか!?」
「いいぞ。ルールは無い、勿論だが他人が不快になるような言葉は使っちゃ行けないけれど、どんな台本を書こうが自由だ。大道具だって、大掛かりな装置を作っていいし、何も置かなくてもいい。正解は無い」
「…凄い、何が凄いってひとつひとつ言ったらキリがないけど…全部凄い!」
「ちなみになんですけれど、彼女は何科なんですか?美術科とか文芸科、芸能科のある学校…」
「普通科だぞ。芸能科とか美術科とかそういうところに突出した訳じゃない普通の高校だ、特別に勉強したとかは…まぁ分からないけど彼女のことは、けどカリキュラムにそういう勉強がある訳じゃないただの公立高校だよ」
「…天才ですね、一年生の頃から凄かったんじゃないですか?」
「いや、俺はこの子の名前は初めて聞いたし…優勝するのも初めてだそうだ。演劇を始めたのも高校かららしい、スタートは今のお前達と一緒だ」
私たちと同じ、あの劇が…。
嫉妬すらしなかった、圧倒されたから。画面越しでも伝わる迫力、緻密なストーリー、惜しげも無く凝られた道具類、そしてそれを書いた人は私と同じ始まり方をしているという事に…
全て私は憧れた。
「部長さん、私演劇部に入ります!」
「その言葉待ってました!えっと、まんのう…」
「まのうです、まのうひびきです!」
「万能響ちゃんね…入部届けに部活と名前を書いて担任に提出してくれ。入部ありがとう!」
「ありがとうございます!えっと…先輩」
「…名前言ってなかったっけか?」
「聞いてませんでしたし言ってませんでしたよ」
「俺の名前は柱有斗だ、柱先輩でも有斗先輩でも構わない。よろしく響ちゃん!」
「お願いします有斗先輩!」
「…柱先輩、私も入部します」
「君はあまり興味無さそうに感じたけど?」
「さっきの劇を見て興味を持ちました」
「それは嬉しい、見せてよかったよ」
「さっきの台本書いた人まだ学生ですか?」
「白筆楓さんか?まだ学生だよ。俺と同じ高校三年生で、まだ続けてるのであれば実質的な活動は春の大会で終わりだな」
「そうですか…ありがとうございます。私演劇部に入ります」
「そうか。名前は…えっと」
「鏡代舞です」
私の第一部は、白筆の流星から始まった。
最近は結構落語の漫画が流行ったり、それこそ演劇の漫画が流行ったりしてたじゃないですか?それの小説版です。ほとんど作者の体験談みたいな感じになってしまいますが、体験したのは演劇部だけだし、全国大会優勝劇との劇的な出会いなんてしてない訳でして…まあ面白そうなものが書けそうならどんな体験も糧にしてやらぁ!というのが私のスタンスなだけです。
これを機に「また演劇の勉強をし直さなきゃなぁ」と思うのと同時に、「これから小説のなかで演劇の作品を書かなきゃいけないなぁ」と話が長くなりそうな予感がしています。
更新はなるべくやりたいですが、如何せん色々ありますからね。筆がならぬ、タイピングが乗れば更新していきます。スマートフォンはタイピングで合っているのだろうか?また次の部でお会いしましょう~。