9.土蜘蛛の襲来
……今更ですが補足情報として、この世界の根幹となっている作中ゲームの"陰陽ラヴァーズ"はギャルゲー要素もありますが、ボス戦は立体的なオープンワールド形式で行われます。
(一条院 宗雪視点)
萌音と桜の手合わせがあった日の19時頃……
「……お兄様、どうしてまだ帰られないのでございましょうか?」
「いや、ちょっと嫌な予感がしてな……」
かなり強引に長居してしまったが、とにかくこれで俺様達はいつでも避難準備に移れる。
後は……
「おい、オレはもう行くぜ?」
「ああ、頼む。……くれぐれも、無理はするなよ?」
「分かってらァ……おっと、オレはちょいと花摘みに行かせて貰うぜ?」
「あ、それだったら萌音が案内するのだ!」
「いや、厠の場所ぐれぇ分かるから問題ねぇよ。……じゃあなァ」
そう言って、桜は部屋を後にした。
……この直後にここを襲撃する予定の土蜘蛛 大豪林主を足止めるために……
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(九相院 桜視点)
オレが三愛院家の分家を離れて数分後、オレは三愛院家の分家付近の山に居た。
「……ったく、本当に居やがったぜ……」
「ンガァ?……オマエ……ダレダ?」
そこに居たのは、虎の様な面を被った身長2m以上の山賊みてぇな男だった。
そして、オレはそいつに見覚えがあった。
「久しぶりだなァ、大豪林主。……オレはかつて、血染桜って呼ばれてた妖だァ」
「チゾメザクラ……オマエモ……オデトイッショニ……アソコ……ホロボス?」
大豪林主は千年前と同じで、殆んど知性がねぇに等しいなァ……
……なら、説得するだけ無駄かァ……
「生憎、オレはもう八妖将を辞めたんだよ。……今のオレは、ただの九相院 桜に過ぎねぇ」
「ン~?……オデ……ワカラナイ……」
「つまり、オレはお前の敵だ!」
「……ワカッタ……ナラ……コロス!」
ーゴボゴボ……ブチャァ!
「……背中から蜘蛛の足を4本とか……相変わらず気持ち悪ぃ野郎だぜ……」
オレを敵だと認識した大豪林主は、背中から4本の虎柄の蜘蛛の足を生やしやがった。
「オデ……オマエ……コロス!」
「本当に知性がねぇなァ……だが、それでオレより強ぇんだから世の中理不尽だよなァ……」
「ゴチャゴチャ……ウルサイ!」
ーブンッ!
「遅ぇよ!」
ースカッ……ドシィィィン!
「ヨケタ……デモ……ツギ……アテル!」
マズいなァ……
確か、あの蜘蛛の足には毒があったっけかァ。
掠っただけでも大惨事だろうなァ……
「やっぱ、身を守った方が良さそうだなァ……【骨鎧】、【骨腕】、【骨尾】、【骨薙刀】だァ!」
オレは全身を大柄な骨の甲冑で覆い、肩から大きい骨の両腕を生やし、腰から骨の尻尾を生やし、手には骨の薙刀を装備して……
「……オデト……オナジクライ……オオキクナッタ……」
「ここまでやって、ようやく足止め出来るかどうかだなァ……」
と、ここで大豪林主はオレに目の焦点を合わせ……
「フシュゥゥゥ!」
「チッ、糸かァ!」
ーシュッ……
大豪林主はオレに向けて、口から糸を吐いて来やがった。
何とか避けたが、多分次はこう上手く行かねぇだろうなァ……
「オデ……オマエ……コロス……」
「おう、殺れるもんなら殺ってみやがれ!」
ードゴォォォォォ~ン!
そうしてオレはわざと大きな音を出しつつ、大豪林主との戦闘を開始した。
全ては、愛しの相棒のために……
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(一条院 宗雪視点)
ードゴォォォォォ~ン!
「「「っ!?」」」
「……始まったか……」
ここまでは、俺様の想定通りだ。
敢えて大きい音を出し、山に何かが居るのを三愛院家の分家の者達に察させる。
そして、極めつけに……
「あ、一条院 宗雪様!……どうも、山の方から轟音が鳴り響いておりまして……」
「知っている。……俺様としては、全員でここから避難するべきだと思うんだが……」
「なっ……どうしてそう……」
「た、大変です!」
当初は避難を渋っていた三愛院家の分家の者だったが、そこに別の者が駆け込んで来て……
「どうした!?」
「山にて暴れている妖の妖力を退魔師ネットワークのデータベースで照合したところ、一致するものがありました!」
「それで結果はどうだったんだ!」
「っ……土蜘蛛 大豪林主です……」
「なっ……」
ーガタッ……ざわざわざわ……
三愛院家の分家は、途端に騒がしくなった。
まあ、八妖将の一角がここに来るとか冗談であって欲しいよな……
「ふぅ……沙耶花と空助は皆の避難を手伝え!」
「え、あっ……承知いたしました!」
「わ、分かりました!」
とにかく、俺様は沙耶花と空助を避難活動に動員し、外へと向かった。
「……や、山で何かが暴れてるのだ……」
「そうだ。……もし、奴がここに下りて来たら大変な事になるだろうな……」
原作ゲームにおける土蜘蛛 大豪林主には、2つの形態があった。
1つは人間の姿をした第一形態、もう1つは土蜘蛛の姿をした第二形態だ。
前者は背中から生えている蜘蛛の足より分泌される毒と、口から吐く糸さえ注意すれば何とかなる。
問題は後者だ。
前者とは違い全身の体毛に毒があり、攻撃力や防御力も段違いになっていた。
基本的に近接攻撃が主なキャラは毒耐性が付与された装備が必須だったし、口から吐く糸も滅茶苦茶ウザかった。
「と、取り敢えず幻術を使うのだ!」
「……俺様は知っている。……萌音の幻術は、精神が不安定な時は上手く決まらないってな」
「ぐ、ぐぬぬっ……」
だからこそ、原作ゲームにおける襲撃時に萌音は何も出来なかった訳だ。
何せ、パニック状態で幻を作っても、すぐにぼやけちまうんだからな。
「だからまあ、ここは俺様達の指示に従う必要はなくとも避難すべきだと……」
「嫌なのだ!」
「っ!?」
俺様が避難を促したというのに、萌音はそれを拒否しやがった。
「この家は……皆との思い出が沢山詰まった、とっても大事な家なのだ!」
「そ、そうは言うがな……」
ぶっちゃけ、今の俺様達では大豪林主を倒せねえ。
まだ、その段階じゃねぇんだ……
「……どうしてもって言うなら、萌音の幻術でどうにかするのだ!」
「いや、どうにかってどうするつもりだよ……」
「ん~……例えば、この家のそっくりな偽物を作るとかどうなのだ?」
「そんなの……行けるのか?」
確かに、それが出来れば良いが……萌音は、パニック状態だと上手く出来ない筈だし……
ん?
パニック状態?
「ど、どうしたのだ?」
「いや……萌音、やけに冷静過ぎねぇか?」
原作ゲームにおいて、萌音は大豪林主の襲撃にパニックを起こしていた筈だ。
なのに、今の萌音はとても冷静で……
「萌音にだって、不安はあるのだ。……でも、ここには一条院家次期当主候補の宗雪が居るから……きっと大丈夫だと信じてるのだ……」
「萌音……」
まあ、そうだよな……
萌音にとって、俺様は一条院家次期当主候補という圧倒的な強者でしかねぇ。
……俺様ですら、アレには勝てねぇのに……
「……で、萌音が幻術を使えたらどうするのだ?」
「ん?……ああ、流石に俺様でも大豪林主を倒すのは厳しいと思うんだが……なあ、この家の奴等って封印術使えるのか?」
「一応、一家総出で頑張れば使えるのだ!」
なるほど、一家総出で頑張れば何とかなるか……
よし、光明が見えたぞ!
「萌音、今すぐ家族全員を呼べるか?」
「い、行けると思うのだ!」
「そうか……なら、ここに集めろ!」
「わ、分かったのだ!」
萌音を不幸になんかさせねぇ。
この勝負、俺様達の勝ちで終わらせてやる!
ご読了ありがとうございます。
取り敢えず、萌音の攻略自体はだいぶ先です。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。