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75.天五獣君は進めない

これが現状最後のストックです。


……まあ、碌にストックなんてしてませんでしたけど。

(一条院 宗雪視点)


あの話し合いから早くも数週間が経過し、6月中旬となった。


この間、俺様達は充分な対策をして来たつもりだ。


「……にしても結局、天五獣君は動かなかったな」


「いや、まだ分からないっつ~の。……最悪、今日動く可能性も……」


……今日、俺様達は宝造路 金太の提案により、八笑院家で話し合いを行う事となっている。


そもそも、本来なら金太の誕生日でもある今日こそ、金太と麻里(マリー)の婚約……もとい政略結婚が行われる筈だった。


しかし、それを俺様が横から掻っ払った形になるのだから、当然文句もつけたくはなるだろう。


……かと言って、金太との婚約をそのまま推し進めたら麻里(マリー)は確実に不幸になる。


それだけは、避けなければならなかった。


「……相棒(ダーリン)、準備は良いぜ?」


「アタイもっす!」


「ウチもや!」


「萌音もなのだ!」


「私も大丈夫でございます」


「僕も大丈夫です」


「私もケラ!」


桜、夏芽、綾香、萌音、沙耶花、空助、怪良といったいつものメンバーも準備万端そうだ。


そして、今回はこれに加えて助っ人も用意している。


「ふ~……やれやれ、おじさんに婚約の証人を頼んで来たのはこのためだったのかな?」


そう、俺様と麻里(マリー)の婚約に対して証人になってくれた蓮業先生だ。


「そうだな。……言っておくが、今から降りるのは勘弁してくれよ?」


「分かってる分かってる。……おじさん、こう見えて義理堅い性格してるから。……それに、聞いた話じゃ師匠(・・)もこの件に関わってるみたいだしね」


「し、師匠?」


……原作ゲームじゃ、蓮業先生は戦闘キャラではなかった。


なので、その師匠なんざ俺様は知らないのだが……


華弧(・・)先生の事だよ。……おじさんや杏美先生、重音先生は3人とも華弧先生の弟子でね?……まあ、実際は弟子っていうか勝手に稽古をつけられてただけだから、他の2人は自分達が師匠の弟子だなんて思っても居ないんだろうけど……」


「そ、そうなのか……」


この教師3人組の強さのルーツは、まさかの華弧さんだったのか……


それも、勝手に稽古をつけてたって……


「ま、無駄話もこのぐらいにして出発しようか。……おじさんが思うに、この話し合いは一筋縄じゃ行かないよ?」


「だろうな。……果たして、鬼が出るか蛇が出るか……警戒はしておくに越した事はないしな」


「うぅ……ウチがちゃんと宝造路家を調べれとったら良かったんやけど……」


「腐っても名家、そう簡単に情報は落としちゃくれねぇってだけだ。……だからまあ、綾香は気に病むな」


「……宗雪はん、そういう所が優しいんやよなぁ……」


そうして、俺様達は八笑院家へと出発する。


何があっても、仲間全員を守り切るという覚悟を胸に刻んで……



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(同時刻、俯瞰(ふかん)視点)


とある山中、その獣道にて……


ーシャン……シャン……シャン……


足並み揃えて山を下る、年齢も外見もバラバラな5人の山伏の姿があった。


「……やはり、あの金太とかいう馬鹿は麻里(マリー)を諦めなかったっピか……」


「ガルルルル……今すぐにでも惨殺してやりたい気分だガル!」


「ヒッヒッヒ……そう言わずとも、もう少しの辛抱じゃっキィィ……」


「……でも、麻里(マリー)はきっと悲しむポン……」


「シュルルルル……確かに"蛇"達5人が死ねば、あの娘は大変悲しむシュルな……」


その山伏達の正体は天五獣君……


今まさに、宗雪が向かっている話し合いの場へと足を進めていた。


……が、その歩みは突然止まる事になる。


何故なら……


「……久しぶりでありんすね。……5人揃って何処に行くんでありんすか?」


目の前に、美乱御前が立っていたからだ。


「……美乱御前、今更"鵺"達に何の用だっピ?」


「何の用って……お前達の自己犠牲を止める様にお願いされてるんでありんすよ。……お前達の親友、その婚約者から……」


「ふぅ……"鵺"達の考えはお見通しって訳っピか……」


美乱御前として、この段階で降伏してくれれば非常に楽だった。


もっとも、現実はそんなに甘くない。


「ガルルルル……たった1人で、この"虎"様達5人を生け捕りにするつもりガルか?」


「ヒッヒッヒ……"猿"達5人を死なせてしまっては本末転倒じゃろっキィィ……」


「……それなら、"狸"達でも勝機はあるポン!」


「シュルルルル……"蛇"達5人を舐めてるシュル?」


天五獣君もまた、八妖将の一角として名を馳せた強大な妖。


いくら美乱御前といえど、単独で生け捕りにするのは難しい。


……単独であれば。


「……わっちがいつ、1人で来ただなんて言ったでありんす?」


美乱御前がそう告げた瞬間、彼女の背後から2つの人影が現れた。


「ん……私達なら……勝てる……」


「さてと……(それがし)も居候として、あの2人の御友人の役に立つで候」


現れた人影は、華弧と冬夜童子であった。


直後、"鵺"が質問を投げかける。


「……華弧はまだ分かるっピ。……でも、冬夜童子が居るのは意味不明だっピ!」


「ふむ……実は(それがし)、今は美乱御前と華弧とは旧知の仲に当たる者達が経営するカジノにて居候として住まわせて貰っているで候」


「……意味が分からないっピ……」


「正気ガル?」


「全く訳が分からないのじゃっキィィ……」


「本当だポン……」


「天然シュルか?」


冬夜童子から返って来た答えを聞いた天五獣君は、全員何とも言えない反応になっていた。


「ま、何はともあれ……わっち達はお前達を殺さずに無力化するでありんす!」


(それがし)も美乱御前も、鞘から刀は抜かぬで候」


「ん……私も……急所は……当てない……つもり……」


美乱御前と冬夜童子は刀を手に取りつつも、鞘は刀の鍔に紐で縛り付けられて抜けない様にされていた。


対する華弧は青銅剣に何も着けていなかったが、それでも急所は外すと明言した。


「……美乱御前が持つ"妖刀 夜叉狐"に、冬夜童子が持つ"妖刀 夜叉狼(やしゃおおかみ)"、そして華弧こと"神剣 華弧ノ剣"っピか……どの刀剣も、もし殺す気で来られていては"鵺"達がどうにか出来る物ではなかったっピ……」


天五獣君の"鵺"は、冷静に相手を見ていた。


故に各々が使う刀剣が、自分達では太刀打ち出来そうにない物である事にも気が付いた。


「……ん?……あ、冬夜童子の刀も"夜叉シリーズ"だったんでありんすか!」


「そうで候」


「いや~、世間は狭いでありんすね~。……わっちの場合、五武妖として活動してた頃に助けた刀工からお礼として貰った品で……」


「ほうほう、(それがし)は逆に前の所持者と両者合意の正々堂々とした決闘の末に……」


「……無駄話を長引かせて、"鵺"達を足止めするつもりっピか?」


天五獣君の前で長話を始めた美乱御前と冬夜童子。


もっとも、その狙いすら"鵺"は言い当てた。


「……そこで黙って聞いてくれてれば、手荒な真似をせずに済んだんでありんすけどね……」


「まあ、最初から(それがし)達の仕事はこうなる事を予測してのもので候」


「ん……一気に……無力化……するだけ……」


時間稼ぎは無駄だと判断した美乱御前達3人は、再度戦闘態勢に入る。


「……望むところだっピ!」


「やってやるガル!」


「ヒッヒッヒ……後悔するでないっキィィ……」


「ま、負けないポン!」


「背後には気を付けるシュルよ?」


対する天五獣君も、戦闘態勢に入る。


そして極めつけと言わんばかりに……


ーポツッ……ポツポツ……


梅雨の時期というのもあって雨が降り出し始めたが、誰かがそれに対して言葉を発する事はなかった。


こうして誰にも知られず、誰にも悟られず……"悪意"なき激戦が幕を開けたのだった……

ご読了ありがとうございます。


次回辺りにでも、麻里(マリー)と天五獣君の過去を入れたいところです。


気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。


後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。

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