73.美乱御前への頼み
全然進まない……
(一条院 宗雪視点)
俺様の言葉を聞いた麻里以外の全員が、まるで信じられないといった感じの表情を浮かべていた。
まあ、普通に突拍子もねぇからな……
「……そ、それは本当なんですか?」
当然、空助がそんな質問をして来る。
「……空助、俺様が嘘を言っている様に見えるか?」
「い、いえ……ですが、流石に……」
「……私も空助さんと同じ気持ちでございます……」
空助に続き、沙耶花もそう呟いた。
「そうだなぁ……信じられねぇのは分かる。……ただ前提として、麻里と天五獣君は友好関係を築いている。……もしお前達が天五獣君の立場なら、同じ事をするんじゃねぇか?」
「「「「「「「……………っ!」」」」」」」
誰も何も言えなくなったらしく、この場に静寂が訪れた。
しかし……
「……確かに私も同じ事をするケラし、美乱御前様も同じ事をしそうだケラ……」
怪良が口を開き、そう呟いた。
「……それは俺様も同感だな」
「だから、天五獣君が同じ事をしてもおかしくないケラ。……それと、その麻里って奴が天五獣君と友好関係を築いてるのも……今は詮索しないでやるケラ……でも、それは宗雪が麻里と婚約するだけで回避出来る未来なんケラ?」
お、なかなか鋭い事を言うな……
「……それは宝造路財閥次第だが……多分無理だな」
「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」
麻里を含め、全員が意外そうな反応をした。
「だってそうだろ?……ああいう奴等は基本的に諦めが悪い。……俺様と麻里が婚約しようが、圧力をかけ続ける筈だ」
「いや、それならあ~しが宗っちと婚約する意味は何だっつ~の!」
「勿論、圧力に対抗するためだ。……流石に一条院家全体が俺様の味方になる事はねぇが、少なくとも負ける事はねぇだろ」
「それはそうかもだけど……」
「もっとも、天五獣君は麻里に圧力がかかり続ける人生なんて認めねぇだろうから、結局金太を殺しちまいそうなんだよな……」
「じゃあやっぱり意味ないっつ~の!」
現時点で保証出来るのは、負けねぇ事だけだ。
……ただ、こっからは賭けだな。
「……一応、まだ策はある。……怪良、美乱御前と話したいんだが……」
「……ちょっと待つケラ」
俺様が怪良に美乱御前と話したいと伝えると、怪良はすぐにスマホを触り始めた。
そして……
『……怪良、どうかしたでありんすか?』
怪良のスマホから、美乱御前の声が聞こえ始めた。
「あ~……突然で悪いんだが、少し良いか?」
『……わっちが言うのもアレでありんすけど、わっちに対する扱いが……いや、何でもないでありんす……』
「実は……」
そうして、俺様は美乱御前に事の経緯を説明した。
「……という訳なんだが……」
『……で、宗雪はわっちに何をして欲しいんでありんすか?』
……ふむ、すぐに電話を切られる事はなかったか……
問題はここからなんだが。
「……やって欲しい事は2つだ。……1つは俺様達が圧力をかけられた際に美乱雑技団の名前を使うのを許可する事、そしてもう1つは……天五獣君が金太殺害を実行しようとしちまった時の足止め役だ」
まず、美乱雑技団の名前の使用許可。
何にも縛られていない美乱雑技団ならば、俺様達の後ろ盾としてかなり使えるからな。
次に天五獣君の足止め。
言っちゃあアレだが、俺様達は未だに血染桜を除く八妖将に本当の意味で勝てた事はねぇ。
大豪林主は10年も保たねえ封印、河濫沱は相撲での勝利、美乱御前に至っては向こうが勝手に折れてくれただけ……
こんな俺様達が、天五獣君を殺さずに鎮圧するなんて出来る訳ねぇからな。
という訳で、俺様は美乱御前に天五獣君の足止めを頼んだ訳だが……
『それは……わっち1人じゃ厳しいでありんすね……』
「ハァ!?……いや、普通に勝てるだろ!?」
『勝つだけなら楽勝でありんすよ。……でも、生きたままってのは……』
「ああ、そういう事か……」
要は、美乱御前1人だけだと手加減出来ずに殺してしまいかねないと……
強過ぎるのも考えものだな。
と、その時……
「なら、アタイから河濫沱に手伝うよう頼んでみるっす!」
夏芽が河濫沱に手伝うよう頼むと言った。
だが、その直後に美乱御前から返って来たのは……
『……いや、河濫沱の助力は要らないでありんす。……元々、わっちと河濫沱は戦い方の反りが合わないでありんすから、寧ろお互いの足を引っ張りかねないでありんす……』
……戦い方の反りが合わないからお互いの足を引っ張りかねないという言葉だった。
「そ、そうっすか……」
『ごめんでありんすな~。……う~ん、取り敢えず華弧は分霊を使えば行けそうではありんすけど、角賀と土梅は色々と忙しそうでありんすし……あ、あの冬夜童子とかいう奴なら使えるかもでありんす!……後で使って良いか2人に聞いてみるでありんす!』
「え、おい……本当に天五獣君を生かしたまま鎮圧する気あるか?」
美乱御前に華弧さんの分霊に冬夜童子……
ぶっちゃけオーバーキルにも程があるだろ!?
『あるでありんすよ!……逆に言えば、ここまで揃えないと生かしたまま鎮圧は無理でありんす!』
「ま、マジか……」
『それこそ、天五獣君は攻撃性能だけなら大豪林主よりも上な位でありんす!……もっとも、大豪林主は再生力が段違いだから天五獣君だけじゃどうやっても勝てないんでありんすけど……』
「……それでオーバーキル級を3人か……」
ともかく、ここまで揃えれば何とかなるだろう。
ただ、宝造路財閥関連は原作ゲームで殆んど描かれなかったからな……
何があってもおかしくはないから、用心だけはしておくとするか。
『……とにかく、この方向で大丈夫でありんすか?』
「あ、ああ……ところで、名前を使う許可は……」
『別に、好きに使うと良いでありんすよ?』
「なら、遠慮なく使わせて貰うぞ」
こうして俺様達は、美乱御前に2つの要求を呑ませる事に成功した。
……うん、やっぱり友好関係を築いておいて良かったと心から思えるな。
『それじゃあ、電話も切るでありんすよ~?』
「ああ。……色々と悪かったな」
『別に良いでありんすよ。……怪良が世話になってるんでありんすから、この位は当然でありんす!』
「……本当に良い奴だな……」
『じゃ、今度こそ切るでありんすね~』
ーブツッ……ツ~ツ~ツ~……
……美乱御前との通話が切れ、場は再び静寂に包まれた。
それを破ったのは……
「……ほんと、色々ありがとうね?……あ~しのためにここまで……」
「殆んど美乱御前への他力本願だから、そう感謝しないでくれ」
「でも、矢面に立つのは宗っちな訳で……」
「それでもだ……」
この件は、俺様単独では何も出来なかった。
美乱御前を味方に出来ていなければ……きっと、宝造路財閥からの圧力を防ぎ切る策なんて思いつかなかっただろう。
「……うん、宗っちがそう言うなら……それはそうと、善は急げって言うし……今からでも婚約発表しちゃおうよ!」
「……急過ぎじゃねぇか?」
「ふふん、あ~しは思い立ったらすぐ行動する派なの!」
「……というか、いつの間に俺様の婚約案を受け入れたんだよ!」
俺様、麻里の話を聞き逃したりしてねぇよな?
あれ?
いつの間に麻里は受け入れたんだ?
「それを言ったら、宗っちが言ってた"都合が悪い"の事も聞かせて貰ってないっつ~の!」
「え?……あ、それの事か……単純に、今後の事も考えて麻里含む八笑院家と天五獣君を味方に引き込んでおきたかっただけだが?」
「ふ~ん……あ~しを味方に、か……」
「……何か怖いな……」
少し麻里に本能から来る恐怖心を覚えながらも、俺様達は話し合いを一段落させた。
……にしても、さっきの麻里……獲物を狙う肉食獣の目をしてたのは気のせいだと思いたいな……
ご読了ありがとうございます。
麻里にとっては、あまり味方に引き込む旨味のない自分達のためにここまでしてくれる宗雪を逃がさない手はない訳で……
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