6.桜の追憶
ちょっとなろうの執筆システムが変わりましたが、何とか書けました。
それと、時系列が1年くらい飛びます。
(九相院 桜視点)
時が経つのは早ぇもので、オレが宗雪の野郎と婚約してからもうすぐ1年が経っちまう。
……つまり、宗雪の野郎と結んだ休戦協定の期限も後僅かだって事だ。
「……何で、オレはそれを嫌がってんだろうなァ?」
何故かは分からねぇが、オレの心はずっと靄がかかってるみてぇに重苦しかった。
「いや、確かにこの1年間は楽しかったが……オレには零魔院 武射麿呂様を復活させるって使命が……」
オレには、大事な使命がある。
確かに人は殺せねぇが、それでもオレは八妖将の一角だった筈だァ……
「なのに、オレは……」
……この1年間、様々な事があった。
『おい桜、そこはもっと俺様みてぇに相手に隙を与えねぇ戦い方をだな……』
『よ、余計なお世話だァ!』
宗雪の野郎は、オレの強化に余念がなかった。
『……大丈夫か?……痛ぇなら俺様がおぶってやるが……』
『自分で動けらァ!』
オレが怪我をした時、あいつは俺様をおぶってくれようとしやがった。
……本当に、何でオレなんかを……
『婚約そのものは契約染みたものとはいえ、桜は俺様の婚約者だぞ?……大事にするべきだろ?』
『ッッッッッ~~!?』
宗雪の野郎にサラッとそんな事を言われた時は、何故か耳まで熱くなるのを感じた。
だって、そう言う割には迷惑に思ってなさそうというか……本気で、オレを大切にしようとしていやがったんだから……
……そういや、沙耶花や空助ともよく手合わせをしたっけなァ……
『桜お義姉様、今日も手合わせをお願い申し上げます』
『……僕とも、手合わせをお願いします』
この2人は、出会った当初はそこまで強くなかった。
片や妖力が殆んどなく、片や見えなくなるだけで防御さえ固めりゃ何とでもなる……
そんな奴等だった。
だが、宗雪の野郎はそんな2人を徹底的に鍛え上げやがった。
『沙耶花は自前の妖力を全部肉体強化に注ぎ込んで、空助はとことん相手の攻撃を避け続けられるスピードを鍛え上げろ!……2人とも、俺様の顔に泥を塗るんじゃねぇぞ?』
『『はい!』』
空助はともかく、沙耶花に対する宗雪の鍛え方は二剛院家のやり方に似通っていたっけなァ……
あんな脳筋共のやり方を参考にするとか……宗雪の野郎、一条院家の次期当主候補とは思えねぇなァ……
『……桜、今の生活は楽しいか?』
『ん?……いきなり何だァ?』
『いや……俺様は、お前と争いたくねぇから……』
『ぎゃはははは!……なら、頑張ってオレを説得してみやがれ!』
この甘ったれた小僧如きにしてやられてるオレもオレだが……本当に、宗雪の野郎はオレを味方に引き込みたかったんだろうなァ……
……だが、オレには使命がある。
今となっては、何でオレが零魔院 武射麿呂様に仕えていたのかさえ覚えちゃいねぇが……
……それでも、オレは零魔院 武射麿呂様の式神という立場からは逃れらんねぇんだから……
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(一条院 宗雪視点)
時が経つのも早ぇもので、俺様が桜と婚約してからもうすぐ1年だ。
この1年間、俺様は桜を味方に引き摺り込む作戦と並行して、沙耶花と空助も鍛え上げた。
結果、今や沙耶花は下級妖なら拳で粉砕出来るレベルにまで成長し、空助も俺様の攻撃を避けられる様になってきた。
これなら、そろそろ来るであろう土蜘蛛 大豪林主による三愛院家の分家襲撃も足止めぐれぇなら……いや、まだ厳しい。
「……やっぱり、桜は欲しいよな……」
「何だァ?……オレに改めてプロポーズかァ?」
「……違ぇよ。……いや、ある意味ではプロポーズか?」
「はっきりしねぇなァ……」
俺様としては、やはり桜は味方にしてぇ。
戦力的な意味も勿論あるが、俺様自身がこいつを気に入っちまったんだよな……
「……桜、そろそろ休戦協定の期限だが……」
「あァ……そろそろだなァ……」
……こいつは、俺様と戦うつもりで居やがる。
と同時に、こいつは実力差が分からねぇ馬鹿じゃねぇ筈だ。
つまり……
「……桜、まさか死ぬつもりか?」
「結局、オレは零魔院 武射麿呂様の式神だァ。……そんなオレが辿る末路なんて、決まってんだろォ?」
九相院 桜……またの名を、狂骨 血染桜。
原作ゲームにおける彼女の役回りは、まさに"哀しき悪役"としか言えなかった。
それは彼女の過去が関係してるのだが……仕方ねぇ。
「これだけは使いたくなかったんだがな……」
「お、戦るかァ?」
「……呼び覚ませ、記憶の回廊……【夢想追憶】!」
「うぐっ!?」
俺様はこの1年、とある妖術の開発を行っていた。
それがこの、【夢想追憶】……簡単に言えば、失われた記憶を取り戻せる妖術だ。
「……桜……お前が忘れていた記憶を取り戻した時、どういう答えを出すか……俺様は楽しみにしているぞ!」
「ま、待ちやがれ……クソがァァァァァ!」
そうして、桜の絶叫が木霊した。
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(九相院 桜視点)
頭が痛ぇ……
これは……何だァ……変な記憶が……浮かんで……
『いい加減、オレを解放しやがれ!』
『ほっほっほ……麿は貴族、お前は浮浪児……つまり、麿が何をしようが罪には問われんのでおじゃるよ』
こ、これは……零魔院 武射麿呂様かァ!?
だが、これは……
『ハァ……ハァ……ゴフッ!』
ーポタポタポタ……
『……良い実験材料になるかと思って拾ったでごじゃるが……とんだ肩透かしだったでごじゃるな……』
『拾っただァ?……拐ったの間違いだろ……』
『同じでごじゃるよ』
『いや……オレはまだ……浮浪児だった方が良かったよォ……こんな扱い……あんまりだぜ……』
これは……この記憶は……
『お前は麿の実験体……それ以上でも以下でもないでごじゃるよ』
『く、クソッたれがァ……』
『ま、死んだ後は狂骨にした上で式神として調伏してやるでおじゃるから、最期まで役に立って貰うでおじゃる』
『や、止め……うがァァァァァァァァァァ!』
そして、オレは全て思い出した。
零魔院 武射麿呂様……いや、武射麿呂がオレにした全ての事を……
「武射麿呂……武射麿呂ォォォォォォォォォォ!」
オレは叫んだ。
かつて生前のオレを殺した相手であり、記憶を奪われて仕える事になった相手の名を叫びながら……
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(一条院 宗雪視点)
「……思い出したか」
原作ゲームにおいて多少語られた血染桜の過去は、まあまあ重たかった。
零魔院 武射麿呂に殺され、記憶を奪われて式神にされ、そして長年忠誠を誓わされた……
原作ゲームで血染桜がこれを思い出すのは倒された後なのだが、俺様としてはそんな未来は嫌だったので今思い出させた。
「おい……宗雪……」
「ああ、追憶が終わったか……」
桜が正気に戻った。
「……記憶が改竄された形跡はねぇ……間違いなく、オレ本人の記憶だァ……」
「そうだな」
「……何で、宗雪がこれを知ってやがる?……普通、知ってたらおかしいだろ……」
「初めて会った時に言っただろ?……お告げみてぇなもんだよ」
嘘ではない。
前世の記憶は、ある意味お告げと同じだ。
「……後で詳しく聞かせろ……取り敢えず、オレは一旦意識が飛びそうだァ……」
「なら、俺様の部屋に運んでおくよ」
「た、助かるぜ……」
ーバタッ……
「気絶したか……」
流石に、記憶の処理が追い付かなかったか……
そうして桜は気絶し、俺様は気絶した桜を俺様の部屋へと運んだのだった。
ご読了ありがとうございます。
念のため言っておくと、生前から血染桜の性別は女性です。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。